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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
5/150

05話 補佐官の苦労秘話

あけましておめでとうございます。

ブックマークしてくれた皆様、とても嬉しいです!ありがとうございます!


苦労人サイラス視点です。

 

 エドワード様の『リーア』への執着は凄まじい。


 幼いころのエドワード様は、人を見下した少年でした。

 彼の資質を考えれば、そうなってしまうのも判るのだが……幼馴染ながら嫌な奴だったと思います。


 家庭教師を付ければ一週間で追い抜き、終いには「こんなことも判らないのか?」と遠回しに言って教師を泣かせ、剣を教えればあっと言う間に騎士レベルに、擦り寄ってくる貴族がいれば絶世の美貌と話術を使い、内心で小馬鹿にしてあしらう……何をやらせても最高レベル、エドワード様は他を圧倒する才覚をお持ちでした。


 しかし、どれだけの資質を備えていようと、精神は子ども。

 エドワード様は他者を見下すようになりました。特に欲に目をくらんだ貴族やエドワード様の容姿や地位を狙ったご令嬢たちには、それが顕著に表れました。

 内心で蔑みながらも、優しく穏やかな王子を装い、それに気づかぬ者たちを嘲笑う。本当に可愛くない子どもでした。


 類まれなる才があっても、性格が歪んでいるエドワード様を私とエドワード様の姉であるシェリー王女は心配し、どうにか矯正しようと奮闘しました。

 まあ、どれも見事失敗に終わった訳ですが。

 我々の無駄な足掻きを小馬鹿にするエドワード様に、シェリー王女は『あんの愚弟がああ!調子に乗りやがって!!誰かに鼻っぱし折られちまえ!!』と王女とは思えない荒ぶりようでした。


 エドワード様が14歳となり、性格の矯正はもう無理か……と半ば諦めかけていたある日、エドワード様が忽然と姿を消しました。

 城は国王を巻き込んだ大騒ぎ(おそらく意図して行ったのでしょう)になり、第二王子捜索隊がすぐさま結成され、エドワード様の捜索が行われました。

 発見されたのは夕刻。城の騎士が城下にて平民姿に変装した王子を発見しました。


 怪我1つないエドワード様の姿を見てホッとしたのもつかの間。


 「すまなかった、サイラス」


 「!?」


 心から謝罪をするエドワード様に国王、ダリア正妃、シェリー王女を含む皆が恐れ慄きました。

 別人ではないか、薬でも盛られているのではないかと、焦りだす始末。

 かくいう私も「エドワードがご乱心だ」と敬称も忘れ、昔の口調に戻ってしまったのです。

 これはもう……エドワード様の日ごろの行いとしか言いようがないです。

 

 皆がやっとエドワード様が本物だと理解した後、国王直々の尋問が行われました。

 話の中心は『何故城を抜け出したのか』ではなく『どうして素直に謝ったのか』でしたが。

 

 城を抜け出した理由は『皆が焦る様と庶民の生活を見たかったため』という憎たらしくも、予想通りの御答えでした。

 肝心の謝罪の理由が、それはもう……驚愕すべき内容でした。


 「俺を負かした女に、特に迷惑をかけた相手に心から謝罪しろと言われたからだ」


 「「「「はあ!?」」」」


 此のハイスペックな腹黒俺様王子のエドワード様を負かした!? しかも女性が!?

 開いた口が塞がらないとはまさに此のこと。

 皆が呆然とする中、いち早く立ち直った正妃ダリア様がエドワード様に問いかけました。


 「その女性は何物なのです? 速やかに答えなさいエドワード」


 有無を言わせない凛とした声に、国王を含む今だ呆然としている者たちが同意を示すようにコクコクと首を振る。


 「女性……というか少女です、母上。名は『リーア』、本人は王都で経営している宿屋の店主の娘で年齢は11歳。性格は、ちょっと夢見がちでお転婆の……まあ、年相応の娘でしたよ。すべて嘘だったようですが」


 「嘘……とはどういうことです?」


 清廉潔白を好むダリア様は嘘と言う言葉に怪訝な顔をされました。


 「騎士に捕まる寸前までは、取るに足らないただの小娘でした。ですが別れる前に一度、素の彼女が言ったのです『お遊びは終わりですよ、第二王子殿下。皆に迷惑を掛けたのですから、せめて一番迷惑を掛けた相手には謝って下さいね?』と。最初からすべて知っていたのですよ、彼女は。私と遊ぶ振りをして、私を探しに来た騎士が現れるまで護衛をしていたのです。此の私に全く悟らせずに」


 それは驚異的なことです。

 歴戦の貴族たちを簡単にあしらうエドワード様に悟らせないなど……しかも11歳の少女がです。


 「私は負けたのです、母上。敗者は勝者に従うのが世の定め、ですから今まで迷惑を一番掛けたサイラスに心からの謝罪をしたのです」


 「ちょっと待ちなさい、エドワード。何故サイラスには謝罪をして、わたくしにはないのですか?」


 しんみりと良い雰囲気になりそうだったのに、シェリー様が納得いかないという表情で問いかけました。

 散々エドワード様に振り回されたシェリー様です、気持ちは判りますが此処は少し空気を読んで頂けると幸いです。


 「何故、俺が姉上に謝罪などしなければならないのです?」


 訳が分からないと真顔で答えるエドワード様にシェリー様は飛び掛かる勢いで王女とは思えない暴言を吐いています。私は慌ててシェリー様を羽交い絞めにして『落ち着いて、お気を確かにシェリー様』と宥めました。

 その様子に溜息を吐きつつ、ダリア様はエドワード様に向き直り言いました。


 「その『リーア』という少女を至急探さねばなりませんね。それほどの演技力を持つもの……正体が気がかりですが、第二王子を守った恩人ですから礼をつくさねば」


 その言葉に続いたのは、やっと立ち直った国王陛下でした。


 「これは王命である。今すぐ『リーア』という少女を探しだ「それには及びません」」


 王の言葉を遮ったのはエドワード様でした。

 本来は許されないこと、そのことを知らないエドワード様ではありません。

 国王の前に歩み寄ると、エドワード様は膝をつき、王に跪きました。


 「父上、私は今まで沢山の迷惑を皆に掛けてきました。人より多少物事が出来るからといって、他者を見下してきました。今はそれを申し訳なかったと深く悔やんでおります。自分より優れたものなど、幾らでもいるのに……なんと愚かな振る舞いをしてきたか、反省しています。これからは国を支える王子として、才能に胡坐をかかずに自分を高めていきたいと思っております。そして、自分自身の力で『リーア』を見つけ出したいのです」


 その言葉に皆、感動を隠せません。

 私とシェリー様も、長い反抗期がようやく終わったと思わず泣いてしまいました。

 あの気高く隙を見せないダリア様も目が潤んでいます。


 「エドワード……お前の成長を王として、また父として嬉しく思う。『リーア』探しは、お前自身の手で行うのだぞ」


 「はい!必ずや見つけ出します。私は敗者のままでいるつもりはありませんので。必ずや『リーア』を超え、跪かせて手に入れて見せます」


 高らかに宣言したエドワード様の言葉に一瞬にして場が凍りつきました。

 此の瞬間にローランズ王国第二王子エドワード殿下の性質が定まったのです。


 性格を矯正出来ずに、むしろ突き抜けさせてしまったことにシェリー様と私はお互いの苦労を思い出し、遠い目をしながら涙ながらに慰め合いました。




 数年後、さらに無駄ハイスペックになったエドワード様は『理想の王子様』と呼ばれるようになりました。 エドワード様の本性を知る者たちは『俺様王子』や『鬼畜魔王』なんて影で言っていますが。


 肝心の『リーア』探しですが、7年経った今も見つかっていません。

 この無駄ハイスペック王子が己の頭脳・人脈・権力を使っても見つからないなんて……なんて恐ろしい方でしょう。もはや、幻覚や幽霊の類だと私は思っています。

 見つからないことに焦ったのか、最近の王子は見境なく探し回っています。

 おかげで『第二王子は花嫁候補を探している』なんて噂が流れる始末です。

 エドワード様の「女で見つからないなら次は男か……」なんて呟きが聞こえた時には、私を殺す気ですかと本気で泣きついてしまいました。

 今でさえ大変なのに『男色家の第二王子』なんて噂の後処理をするなんて、考えただけで吐血しそうです。


 誰かこの馬鹿王子の手綱を握って下さい!!



 

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