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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
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46話 蝶と獅子

 「お前は……私の求めるジュリアンナではない!! よくもエリザベスの真似をしてくれたな……この愚か者たちを殺せ!」



 わたしへ憤怒の表情を向けるマクミラン公爵。


 いつもの気持ち悪い表情よりマシね。



 マクミラン公爵の指示により、白仮面の手勢たちが動き出す。



 「モニカ、ジャン、貴方たちは自分の身を守ることに集中しなさい!!」


 「は、はいっ」


 「分かったっす!!」



 わたしは駆け出し、我先にと飛び出した白仮面の男へ切りかかる。

 男はわたしの剣撃を受け止め、押し返そうとしてきたが、わたしはそのまま剣先をいなし、くるりと舞うように重心を移動させる。

 男はその動きに対応出来ず、わたしに背を向ける形になる。


 

 「はぁっ!!」



 男の背を容赦なく切り付ける。

 舞う返り血を避け、わたしはエドワード様たちのところまで下がる。


 男は床に倒れていた。



 「いっちょやるか!」



 キール団長と騎士が二人が襲い掛かる白仮面たちを薙ぎ払う。

 紅焔の狼に動きはなく、マクミラン公爵を守っているようだった。



 「お前は本当に、何でも出来るんだな」



 呆れたような目をわたしに見ながら、エドワード様は剣を構えた。


 そして襲い掛かる白仮面たちを、わたし以上の剣技で倒していく。

 第二王子は騎士団上位クラスの剣技を持つという噂は本当だったのね。


 わたしも目の前の敵たちに目を向けながら返答する。



 「以前、オルコット家の騎士見習いを演じたことがあるのです」


 「それは面白いな」


 「驚かないのですね」



 わたしが――ルイス家がマクミラン公爵へ宣戦布告したことをという言葉を含ませて、問いかける。


 すると敵を切り捨てながら、エドワード様は腹黒い笑顔を浮かべる。



 「俺にも独自の情報網がある。それにヴィンセントも色々ヒントを残して行ったからな……ジュリアンナ、俺はローランズ王国の第二王子として、お前たちの邪魔はしない」


 「……ルイス家は次代も王家に――エドワード様に忠誠を誓うとお約束いたしましょう」



 これは嘘偽りのない言葉だった。

 それほどに今、エドワード様が言った言葉は、ルイス侯爵家にとって意味がある。


  エドワード様から視線を逸らし前方のキール団長たちを見ると、白仮面たちにキール団長が囲まれ、他の騎士2人が紅焔の狼と相対し、苦戦している状況だった。


 モニカとジャンを確認すると、二人は周りを警戒しつつも大人しくしていた。


 その姿にホッとしたのもつかの間、キール団長の叫びが聞こえた。



 「エド、そっちに行った!!」



 騎士二人が腕や背から血を流し、床に蹲っている。

 紅焔の狼は此方へと駆け出している。


 駆け寄ろうとするキール団長に、残り少ない白仮面たちが特攻を仕掛ける。



 「悪いが、死んでもらう。雇い主がお望みなんでね」


 「ジュリアンナ!!」



 エドワード様の元へ向かうと見せかけて、途中でわたしへと方向転換した紅焔の狼。



 怪我をした腕で、あのハルバードから放たれる攻撃を受け止められるか分からないが、逃げる訳にはいかない。わたしは意を決し、紅焔の狼へと視線を向ける。


 モニカとジャンの元へ行かせる訳にはいかないわ!



 眼前に紅焔の狼の放つ一閃が迫る。

 

 細剣で受け止めようとするが、予想以上の攻撃の速さにわたしの防御は間に合わない。




 

 「タダでは……死んであげないわ!」



 自分に振り下ろされる一閃を見届けようと、瞬きを忘れ紅焔の狼を見つめていると、漆黒の雨が降る。


 紅焔の狼はそれを避けようと、わたしへの攻撃を直前で止めて後ろへバックステップをし、距離を取った。


 床には数本の黒色の暗器が突き刺さる。



 「淑女たるもの、死ぬなど軽々しく言ってはいけません……お嬢様」



 その凛とした声に、わたしは安堵する。



 「マリー!!」



 天井に施された装飾付きの柱の上から、黒のマントを着たマリーが音もなく降り立つ。

 マリーの黒曜石の瞳は、怒りに燃えていた。



 「あれほど大人しくして下さいと言ったはずです、お嬢様。スチュワート執事長とグレース侍女長、それにライナス様のお説教は決定ですからね」


 「ら、ライナスまで……」



 ライナスは従兄妹だけど、親子と言ってもいいほど歳が離れているため、小さな頃からわたしは叱られていた。だからマリーから言われたライナスという言葉に反射的に肩を震わせる。



 「お嬢様が死んでしまったら……お嬢様が死ぬ要因となった者たちを皆殺しにして、私も死にます」



 こ、怖いわ。 マリーがとっても怖い!!


 実際にマリーはそれを実行する力もあるから、冗談ではなく本気だろう。


 死ななくて良かったわ!!



 「わたしは生きているのだから、皆殺しはなしよ」


 「分かっております」



 マリーは両手にナイフを装備し、紅焔の狼と相対する。



 「ずっと隙がないってどういうことだ? お前……何者だ」



 睨みつける紅焔の狼に、マリーは殺気を放ちながら、わたしの前に守るように立つ。



 「ジュリアンナお嬢様に仕える侍女です」


 「ただの侍女がそんな殺気放つ訳がないだろうが。それにあの攻撃……裏の世界の――それも、相当な実力者じゃなきゃできねーよ」


 「……」


 「かつて最強の暗殺者と呼ばれていた者が黒蝶という名で呼ばれていたな。彼女がそうか」



 沈黙するマリーの代わりにエドワード様が答えた。

 おそらく、灰猫とかいうエドワード様の手駒でマリーの元同僚から黒蝶のことを聞いていたのだろう。


 相手が王族だから反論する事ができないため、マリーは沈黙を続けつつ怒気と殺気を強めた。


 マリーは昔の名前が大嫌いなのに……この王子は。



 「おいおい、王子サマ。黒蝶を煽るのを止めろ。その殺気を受け止めるのは俺なんだから」


 「そんなこと知らない。お前がジュリアンナに刃を向けたのが悪い」



 そう言って鬼畜な笑みを浮かべながらわたしの傍へと来るエドワード様。


 この男……絶対に確信犯だわ。本当に鬼畜ね。


 呆れつつ周りを見ると、モニカとジャンは無事だった。

 そして舞台での決着も付きそう。

 騎士が半数は倒れているが、白仮面たちはほぼ全滅だ。

 此方へ援軍に来るのも時間の問題ね。



 「時機に決着はつく。そちら側にいても利益などない。投降しろ、紅焔の狼」



 エドワード様の言葉を聞いても尚、紅焔の狼は武装を解かない。



 「生憎、俺は傭兵として公爵に金を貰っているんでね……傭兵のせめてもの矜持として、雇い主を裏切る事はない」


 「そうか……しかたないな」


 

 「はぁぁぁあああああああ!!」



 雄叫びと共に、背後からキール団長が紅焔の狼へと刃を振り下ろす。



 「くうっ」


 

 マリーを警戒していたため、一瞬動くのが遅れたが、キール団長の攻撃を紅焔の狼は、ハルバードで受け止めた。


 そして続けてマリーが紅焔の狼の利き腕を狙い切り付ける。


 

 「嘗めんな!!」



 右腕に浅く紅い線が刻まれたが、紅焔の狼は利き腕を守りきる。

 そしてハルバードを振り回し、強制的にマリーに間合いを取らせる。


 キール団長が再び紅焔の狼へと攻撃を仕掛けるが、剣はハルバードで受け止められ、キール団長の腹へ蹴りが叩き込まれる。



 「ぐはっ」



 痛みに顔を歪ませながら、キール団長は紅焔の狼から距離を取る。

 口から血が零れている……相当なダメージを負ったようだ。


 しかし、キール団長の目は獰猛に紅焔の狼を睨みつけていた。




 マリーとキール団長は同時に動く。



 紅焔の狼に剣撃を叩きこむキール団長と違い、マリーは紅焔の狼を持ち前の身軽さで攻撃をせずに飛び越えていく。


 マリーの狙いは……紅焔の狼を囮に退避しようとしていたマクミラン公爵だった。



 「クソがぁっ!!」



 マリーの狙いに気づいた紅焔の狼は、公爵を守ろうと振り返る。

 その隙を見逃さず、キール団長はハルバードを蹴り上げる。


 得物が手から離れたところに、キール団長が紅焔の狼にお返しとばかりに腹へと蹴りを叩きこむ。

 そしてバランスが崩れたところへ、背中から剣を突き刺す。



 紅焔の狼の背は、赤く染めあがった。

 



 そして歴戦の傭兵である紅焔の狼は、最後は呆気なく床へと倒れた。



 「終わりましたか」



 首にナイフを突き付けながらマリーがマクミラン公爵を連れてきた。

 マクミラン公爵は抵抗していないが、目は殺意に満ちていた。


 その様子を見て、キール団長が唇を尖らせる。



 「一緒に攻撃しようぜって目を合わせたのに、勝手にお嬢の侍女が行っちまうんだ……焦ったぜ」


 「そんな約束した覚えはありません。私はお嬢様の望みの為に行動するだけです」



 マクミラン公爵の首にナイフを突き付けながら、キール団長に淡々とした受け答えをするマリー。


 さすがね、マリー。慣れているわ。



 「どうやら、下も決着が着いたようだ」



 エドワード様の声を聞き、舞台へ目を向けると比較的に怪我が軽い騎士がミハエル神父を拘束し、此方へ向かってくるところだった。




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