表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
46/150

45話 宣戦布告

 エドワード様とキール団長と騎士二人が、マクミラン公爵と白仮面の手勢と相対していた。

 白仮面の手勢の中には、紅焔の狼――サムさんもいる。

 


 ……そして、わたしたちがエドワード様たちの背後に現れて挟み撃ちって訳ね。これは、かなり危機的状況なのではないかしら?



 ちらりと舞台を見ろ下ろすと、白仮面たちと騎士たちが戦っていた。

 騎士たちの方が連係が取れていて優勢ね。


 

 状況を分析していると、マクミラン公爵がわたしに気づいた。



 「カルディアか。丁度いい」



 エドワード様が警戒した目でわたしを見る。


 今はまだ、様子を見るためにカルディアを演じるべきね。

 


 「これは一体どういう状況なんだい、公爵」


 「そこの第二王子が暴れてくれたおかげで、貴族達が逃げた」



 逃げた貴族たちは、貴族用の出入り口で捕まっているわね。




 「折角、乱れ狂う貴族達を鑑賞しようと楽しみにしていたのに……酷い事をするね、第二王子殿下」


 「第二王子を殺せば、またサバトを開催できるだろう」



 無理よ。だって、今日ですべて終わるもの。

 貴方の妄執も、野望も、執着も、すべて……わたしが消し去るわ。


 睨みつけたい気持ちを抑えながら、わたしはカルディアらしく明るく底知れない態度を続ける。



 「では、邪魔な第二王子殿下には消えて貰わないといけないな」



 さて、これからどう動きましょうか。

 エドワード様たちに敵と判断されて、襲い掛かられると面倒ね。


 どう考えても、12人いるマクミラン公爵側よりも、わたしたち3人の方が防御が手薄だ。

 強行突破するのなら、わたしたちの方よね。その場合はマクミラン公爵側へ背を向ける訳だけど。

 エドワード様を守るためなら、多少の犠牲は覚悟の上でしょうし。


 それに……いくら瞳の色を変える余裕が無くて、完全にカルディアを演じきれていると言えない状態でも、演技を止めて自分から正体を明かすのは……あまりしたくないわ。

 もちろん、そんな事言っている場合ではないのだけど。


 悶々と考えていると、エドワード様が此方をじっと見つめていた。


 一体何よ……。



 「くふっ、あっはっははははは」


 「おいおい。ヤバイ状況だからって、こんな時におかしくなるなよ、エド」

 


 キール団長の言葉に、わたしは内心で同意した。


 本当にどうしたの!?

 前々からおかしな人だと思っていたけれど……。


 

 「こんな面白い事があって、笑わずにいられる訳がないだろう」


 「何だよ、面白い事って――エド、待て!!」



 わたしが内心で困惑していると、エドワード様がゆっくりとわたしに向かって歩いてくる。

 マクミラン公爵も怪訝な顔をしている。


 エドワード様を攻撃する訳にもいかないので固まっていると、エドワード様はわたしに正面から触れられる距離で止まった。

 そして、黒髪をひと房掴み、わたしに向けて微笑みかける。



 「さて、もう演技の時間は終わりだ……ジュリアンナ」



 その言葉を聞いた瞬間、わたしはカルディアからジュリアンナへと切り替わる。


 

 わたしの演技は完璧だったはず。でも……エドワード様は気づいた。

 優しい動作で黒髪の鬘とベールを外すエドワード様を、わたしは受け入れた。


 

 悔しいけれど、やっぱりわたしは……エドワード様に振り回されてばかりね。


 『運命』という言葉が頭によぎるが、馬鹿馬鹿しいと直ぐに消し去る。



 わたしの負けです、エドワード様。

 でも次は貴方に見破られない演技をしますわ。

 それと……わたしを見つけて下さり、ありがとうございます。



 澄みきった青色の瞳にわたしは微笑む。



 「いつお気づきになりましたか、エドワード様」


 「俺の知るレミントン元男爵夫人は、サバトに参加するような女ではない。少々変わり気味だが、彼女は夫を――そして家族を愛しているようだったからな。家族の迷惑になるような事はしないだろう。しかし、お前の演じていたレミントン前男爵夫人は、本人としか思えなかった。こんなにも完璧な演技をするのは、ジュリアンナしかいないだろう?」



 完璧すぎて見破られるなんて……複雑だわ。

 

 わたしは不機嫌な顔を隠さずエドワード様を見る。



 「エドワード様がカルディアと会っていたなんて知りませんでした」


 「嫉妬か? レミントン前男爵夫人に会ったのは、お前を探すためだぞ、ジュリアンナ」


 「勘違いなさらないでください。わたしは、カルディアからその話を聞いていないことに思うところがあっただけです」


 

 まったく、危機的状況には変わりないでしょうに。

 

 何故か嬉しそうなエドワード様を押しのけ、マクミラン公爵へ目を向ける。



 「ジュリアンナ……なのか?」



 混乱しているだろうマクミラン公爵に、完璧な淑女とは同一人物には見えないだろう挑発的な視線を向ける。



 「そうです。わたしはジュリアンナ・ルイス本人ですわ」


 「何故カルディアの……」


 「ふっふふ。マクミラン公爵、貴方が会っていたカルディアは全て……わたしです。エドワード様の手駒であるエレンとして王都教会に潜入しつつ、ジュリアンナとして騎士団授与式に出て、さらにカルディアを演じる。大変だったんですよ?」



 しかし、愉悦を感じるほど楽しい時間でもあった。

 存外わたしも演技に狂っているわね。



 「俺はレミントン前男爵夫人を演じているとは聞いていなかったが?」



 エドワード様の言葉にわたしは顔を顰めた。



 「エレンとしての報告をしていたではありませんか。手駒としての働きは十分に果たしていたと思いますが。それにいきなり情報交換に呼び出したり……大変だったんですからね。情報交換の後、王都教会へカルディアとして潜入し、またエドワード様の用意した宿に戻り、エレンとしてまた王都教会へ。本当に面倒でした」 


 「あの後、そんな事をしていたのか。ふっ……やはりお前は面白いな、ジュリアンナ」


 「わたしは道化になったつもりはありませんわ」



 ピシャリとエドワード様の言葉をはねつけ、わたしは未だ混乱から抜け出せていないマクミラン公爵を毅然と睨みつける。



 「ルイス侯爵家長女ジュリアンナが、当主ジェラルド・ルイスの代わりにジェームズ・マクミラン公爵に申し上げます」



 続いて淑女の礼を取り、そして顔を上げ、穏やかな表情でマクミラン公爵を見つめる。


 長かったわ……この日が来るのをどれほど待ったことか。



 「ルイス侯爵夫人カレン・ルイス、並びに名も無き子の命を奪った罪を贖って頂くため、ルイス侯爵家はマクミラン公爵家に宣戦布告をいたします。どうか、ご覚悟を――」


 

 わたしの後に控える石像のように固まったジャンの腰から細剣を抜き、マクミラン公爵へ向けて構える。



 お父様がわたしをエドワード様に近づけたのはきっとこの状況を作るため。

 復讐を遂げるのに必要な最後の情報を集めさせ、王族の前でマクミラン公爵と相対し、



 そして――わたしがマクミラン公爵に絶望を与えるために。







シェリー王女と名前が被るため、シェリルの名前をコーネリアに変更しました。本編修正済みです。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ