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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
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40話 第二王子は動き出す

エドワード視点です。





 王都教会近くの狭い路地に俺たちはいた。



 「配置完了しました、殿下」


 「ご苦労様」



 報告に来た騎士に微笑むと、何故か顔を青くさせて逃げて行った。

 失礼な奴だ。



 「エドワード様、味方の士気を下げるような真似はしないでください。騎士たちには、貴方の鬼畜具合は知られているのですから」


 「そうか。これからは、よく笑うように心がけよう」


 「止めて下さい……」



 そう言って溜息を吐くサイラス。

 

 それとは反対に、隣にいたキールは豪快に笑っていた。



 「恐怖で逆に指揮が高まるかもしれないな!」


 「馬鹿な事を言うのは止めなさい、キール」


 「ねえ、今が作戦前だって分かってる? まったく、なんで僕が鬼畜魔王の手伝いをしなくちゃいけないんだ……」



 ヴィンセントは、俺たちをゴミを見るような目で睨みつけた。

 まあ、ヴィンセントがいう事も分からないでもない。



 「それは父上が命令した事だ。今回は俺に力を貸せ」


 「姉さんの情報無駄にしたら許さないよ?」


 「無駄になんてしない」



 キッパリと言い切ると、ヴィンセントは不貞腐れながらも黙った。

 ヴィンセントは優秀だ。内心はどうあれ、きちんと命令に従うだろう。



 「本当に行くんですか、エドワード様」


 「何度も言っただろう。ジュリアンナがもたらした情報によると、今日がサバトが行われる日。そしてタイミング的にも、教会派貴族たちを摘発なら今日だ」


 「しかし、エドワード様自ら赴かなくても……」


 「くどい。今動ける王族は俺だけだし、第二王子自らがサバトを摘発したという事実が欲しい。そして何より、ジュリアンナを送り込んだのは俺だ。それなのに俺が危険だからと、脅えて隠れることなどするはずがないだろう」



 俺の言葉にサイラスの代わりに答えたのは、ヴィンセントだった。



 「……チッ。やっぱり姉さんを狙っているのか。適当な令嬢で済ませればいいものを……」


 「ジュリアンナが、俺に好意を抱かせるような事をするのが悪い」


 「言っておくけど、姉さんの一番は僕だから!」


 「今だけ、だろ?」



 挑発すると、ヴィンセントは怒りで顔を真っ赤にした。

 やはり、からかうと面白いな。



 「そこまでです。どうして貴方たちは昔から相性が悪いんですか……大方、エドワード様のせいですが」



 呆れた口調で仲裁に入るサイラス。

 そろそろ作戦を実行したいし、ヴィンセントをからかうのは止めるか。



 「これより、王都教会内で行われているサバトを摘発する。サイラス、説明を」



 俺の声を聴いた路地裏にいた騎士たちが、サイラスの方へと目を向けた。



 「はい。それでは最終確認を。王都教会への突入は、ここにいる少数精鋭で行います。私たちの役目は、貴族たちを捕まえる事ではなく逃がす事。貴族たちの逃走経路の先には、すでに他の騎士たちを配置済みです。捕まえるのは彼らに任せて下さい。そして、それが終わったら、サバト運営関係者を速やかに拘束します。以上です」


 「情報によると、1人厄介な傭兵がいるらしい。そいつは……キールお前に任せる」


 「了解!」


 「私は此方で待機し、続いて来る部隊との連絡役になります。何か不足の事態があれば、此処へ戻って来て下さい。ヴィンセントの部隊は別行動で、混乱が起きないように、サバト関係者ではない教会内の人々を制圧をお願いします」


 「それでは、作戦を開始する」


 「「「了解」」」




 闇夜に紛れ、作戦は開始された――――















 門番を気絶させて、俺たちは難なく王都教会へ侵入した。

 ジュリアンナが作った地図通りに、人の気配のない道を進む。

 途中でヴィンセントたちの部隊と別行動を取る。

 そして俺とキールが率いる部隊は、教会内で禁止区域と呼ばれる場所へ入った。


 

 先頭にいた騎士が、停止の合図をする。

 息を顰め、様子を窺うと白い仮面を着けた男が走って行った。

 仮面の男が居なくなった後、一気に進むように手で合図する。



 「だ、誰だお前たち!!」


 「報告を――」



 白仮面を着けた者たちを倒し、道を切り開く。

 暫くすると一際豪奢な扉が見えた。


 ジュリアンナの報告だと、あれが儀式会場への入り口か。



 騎士たちに警戒させながら、慎重に扉を開けた。



 そこはオペラ座のような空間になっていて、扉の先は観客席のように舞台を見下ろせるようになっていた。

 赤と黒の色調の空間で、どうにも趣味が悪いと感じてしまう。



 舞台には、華美に着飾り、悪趣味な仮面をした貴族共がいた。

 そしてその中央には、神父服を着たふざけた男がいた。


 確か……あれが第一神父だったか。本当に地に墜ちたものだな。



 儀式は始まったばかりのようで、舞台はまだ血に塗れていない。

 貴族共も、まだ俺たちの存在に気づいていないようだ。



 「数人を俺の傍に残し、後は下に降りろ。神父は速やかに拘束しろ」


 「「「了解」」」



 騎士たちが階段を駆け下りた。

 それを見て、漸く侵入者に気づいたのか、貴族共が騒ぎ出す。


 無理もない。王族直属の騎士団の紋章を持つ騎士たちなのだから。



 「何故、騎士が――――」


 「退いて、はやく退いてちょうだい!!」


 「金なら払う、だから――――」



 貴族共は我先にと出入り口に殺到し、阿鼻叫喚の渦に包まれている。


 しかしそれも数分もすれば落ち着き、逃げる際に踏みつけられて怪我をしたり気絶したりした者以外は逃げたようだった。

 後は、複数の貴族用の出入り口に待機している他の騎士たちが上手くやるだろう。


 

 


 「随分と余計な事をしてくれたな、第二王子」



 現れたのは教会派の長であるマクミラン公爵だ。

 そしてその傍らには、ハルバード使いの傭兵がいる。


 俺の傍にいたキールは既に抜刀しており、剣先をマクミラン公爵へ向けていた。



 「何か不快になられる事でもあったのですか、公爵」



 柔和な笑みを浮かべると、ますます公爵の怒気が強くなる。



 「まあいい。お前を此処で殺せば修正できる範囲だ」



 マクミラン公爵が言うと、わらわらと武装した白い仮面の者たちが現れ、マクミラン公爵の後に控えた。


 ちらりと舞台の方へ目を向けると、そちらにも白仮面の者たちがいて、騎士たちと戦っている。

 此方の援護まで騎士は回せないか。


 マクミラン公爵の近くにいるのは、傭兵の男を合わせて12人。

 対して此方は俺とキール、そして騎士2人の4人だ。

 完全に不利な状況だな。さて、どうするか。



 内心で焦っていると、背後にある俺たちが侵入した扉が、勢いよく開け放たれた。



 「おやおや。これはとっても愉快な事になっているね?」



 現れたのは、喪服を着て黒いベールで顔を隠した女と、白い仮面の男女だった。



 「カルディアか。丁度いい」



 カルディア・レミントン前男爵夫人か。

 以前、リーアを探していた時に会った事があるが、以前と変わらず妖艶な美女だった。



 「これは一体どういう状況なんだい、公爵」


 「そこの第二王子が暴れてくれたおかげで、貴族達が逃げた」


 「折角、乱れ狂う貴族達を鑑賞しようと楽しみにしていたのに……酷い事をするね、第二王子殿下」


 「第二王子を殺せば、またサバトを開催できるだろう」


 「では、邪魔な第二王子殿下には消えて貰わないといけないな」


 

 マクミラン公爵とレミントン前男爵夫人に挟まれる形になり、絶体絶命の状況と言えなくもないが、不思議と焦りは無くなっていた。


 何かがおかしい。


 何がおかしいと感じるのか分からず、マクミラン公爵を見る。

 だが特に何も感じない。

 続いてレミントン前男爵夫人を見るが、特におかしい所はないはずだ。

 それなのに何か引っかかる。


 その違和感について思考していると、ある結論にたどり着く。



 「くふっ、あっはっははははは」


 「おいおい。ヤバイ状況だからって、こんな時におかしくなるなよ、エド」



 キールが心配そうに声をかけるが無視した。

 俺はおかしくなった訳ではない。



 「こんな面白い事があって、笑わずにいられる訳がないだろう」


 「何だよ、面白い事って――エド、待て!!」



 俺はキールの静止の声を聞かず、レミントン前男爵夫人の前に立つ。

 そして彼女の黒髪に優しく触れた。




 「さて、もう演技の時間は終わりだ……ジュリアンナ」




 黒髪の鬘ごとベールを外すと、金髪に深紫の瞳を持つ少女が花開くように微笑んだ。





34話、コーネリアとジュリアンナの会話を一部、加筆修正しました。

少しばかり重要な部分なので、お暇でしたらご確認ください。



次回は、ジュリアンナ視点に戻り、39話の続きからのお話になります。



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