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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
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35話 表情を変えるダンス

 わたしとヴィンセントは主催者である陛下に挨拶をするため、ホール内を移動した。


 ホールの奥にある檀上に国王一家は座っていた。


 陛下は御年50歳とは思えないほど若々しい。

 髪は少々白髪が混じっているが、綺麗な栗色の髪だ。

 エドワード様の銀髪はダリア正妃譲りなのだろう。

 瞳の色は陛下と同じ綺麗な青だけど。


 陛下の隣にはダリア正妃が凛とした姿勢で座っており、とても2児の母には見えないほどに美しい。

 令嬢の中にはダリア正妃に憧れている者も多い。

 美しく気高く、気品ある姿にはわたしも憧れざるを得ない。

 それなのに、どうしてエドワード様のような腹黒王子が生まれたのかしら?



 陛下のすぐ後ろにはお父様が補佐として立っていた。そして少し離れた所に第二王子であるエドワード様と第一王子であるダグラス様が控えている。


 

 今回は正式行事だからか、側妃であるビアンカ様とクラウディア様、そしてまだ幼いミシェル様は不参加のようだ。



 しかし……決まり事とは言え、毎回の挨拶はする方もされる方も大変ですね。


 わたしたちの後には、長い貴族の列ができている。


 挨拶は会場入りの順の場合もあるが、こういった王宮で行われる正式行事では基本的には身分順である。

 ルイス侯爵家は特殊で、公爵位を授かる条件を満たしていながら、権力を持ちすぎないため侯爵位に留まり続けている。扱いとしては公爵家と同じだ。


 わたしたちルイス侯爵家は、シェリー王女の嫁いだイングロット公爵家の次で、順番で言うと2番目なので挨拶の為に長時間並ぶ事はなかったので良かった。



 イングロット公爵家の挨拶が終わり、ルイス侯爵家の番になった。

 今回、次期侯爵であるヴィンセントはあくまでも騎士としての参加なので、名代であるわたしが宰相職であるお父様の代わりに挨拶する事になる。


 お父様は相変らず陛下の後に控えており、子どもであるわたしたちが現れても表情一つ動かさなかった。

 

 いつものお父様ね。

 傍から見れば子どもに無関心で陛下に忠実な宰相。

 けれど、わたしはお父様の愛情を信じているので不安に思う事はない。



 陛下の元へ行く途中にエドワード様と視線が交わり『理想の王子様』の笑顔で微笑まれたが、わたしも『完璧な淑女』の微笑みを返してやった。動揺などしてなるものか。


 お父様が一瞬表情を動かしたような気がしたけれど……気のせいね。

 後ろも詰まっていますし、手早く挨拶を済ませてしまいましょう。

 


 わたしは陛下に礼を取り、ヴィンセントと共に主催者である陛下に挨拶をした。

 

 

 「陛下。栄えある騎士団授与式、並びに祝賀会にご招待いただき恐悦至極にございます」


 「ジュリアンナ、其方の優秀さは聞いておる。ヴィンセント共々、ローランズ王国のためにこれからも支えておくれ」


 「はい。この身はローランズ王国に捧げる所存です」


 「我が剣は王家に捧げています。これからも誠心誠意お仕えいたします」



 私は国の為に結婚を、ヴィンセントは国王派であり続けると暗に明言する。

 陛下の前で宣言し、教会派貴族を牽制する。


 ちらりとお父様を見ると、相変らず無表情だ。

 わたしは、こっそりと悲しむ表情を作り近くに居る者たちに見せる。

 これでルイス親子不仲説はますます信憑性を増すだろう。

 

 そして何より、イングロット公爵に見せつけるのが目的だ。



 印象操作は小さな積み重ねが大事だ。

 復讐のためならば、わたしの――ひいてはお父様の評価がどうなろうと気にしていられない。



 そのまま挨拶を終えたわたしたちはホールの隅へと移動する。



 「鬼畜魔王が姉さんを見て笑っていたんだけど、何かあった?」


 「さあ? 知らないわ」


 「姉さん、僕に嘘を吐くの?」



 キラキラと子犬のような目でヴィンセントがわたしを見る。

 うっ……その目は止めて。

 

 わたしは降参とばかりに軽く溜息を吐くと、騎士団授与式の前の事を話す。



 「騎士団授与式の前に、庭でミシェル殿下とエドワード様に会ったの。それだけよ」


 「本当に?」


 「ほ、本当よ……」



 さすがにエドワード様から言われたプロポーズまがいの愛の言葉については話さないけれど。



 「ふーん。姉さんが言うなら信じるよ」


 「そう、ありがとう」



 そうこうしている内に貴族の挨拶が終わり、音楽が流れ始める。


 すると壇上から陛下とダリア正妃が降りてきた。

 ファーストダンスが始まるのだ。



 「相変わらずダリア正妃はダンスがお上手ね」


 「あれ、陛下がリードされているよね? 情けないな」


 「ヴィー、言葉に出してはダメよ。誰が聞いているのか判らないのだから」


 「誰も聞いていないよ」


 「読唇術で判るわ」


 「使える相手はそういないんだけどね」


 「使える事を隠す者が一番厄介なのです。わたしたちは何所で恨みを買うのか判らないのですから、警戒するに越したことないわ」


 「うん。姉さんに心配かけないようにする」


 「少しは心配かけてくれないと、姉としては寂しいわ」


 「ふっ、何それ。さじ加減が難しいね」



 わたしとヴィンセントが笑い合っていると、陛下とダリア正妃のファーストダンスが終わった。

 そして曲が変わり、沢山の男女がダンスホールに向かった。



 「今宵、姉さんと一番初めに踊る栄誉を下さい」


 「はい、喜んで」



 わたしはヴィンセントの手を取りダンスホールに向かい、踊りだす。

 表情・ステップ・姿勢・ドレスの翻り方まですべてが計算された完璧な動きだ。

 完璧な淑女の名に相応しい姿だろう、他の貴族たちが感心した表情でわたしを見ている。


 その中でも一際強い眼光をわたしに注ぐ者がいた。

 ヴィンセントもそれに気づいたのだろう、1曲終わるとわたしから離れていった。



 「ジュリアンナ嬢、一曲よろしいですか?」


 「はい、喜んで。マクミラン公爵」



 湧き上がる殺意を微笑みの仮面で隠し、わたしはマクミラン公爵の手を取る。



 踊っている最中も微笑んだままでいると、マクミラン公爵はまるで愛しい者を見るように目を細めた。



 「ジュリアンナ嬢はダンスが本当にお上手ですね。エリーとは大違いです」



 またこの男は、わたしを通してエリザベスお母様を見ているか。

 内心呆れながらも、わたしは無垢な笑顔を見せる。



 「病弱だったお母様が出来なかったことを、せめて娘のわたしがやろうとダンスの練習をたくさんしたんです。マクミラン公爵にお褒めいただけるなら、練習した甲斐がありましたわ」


 「……貴女は本当に美しい」


 「あ、ありがとうございます……」



 純情な令嬢らしく頬を染め、マクミラン公爵から目をそむける。

 ああ、早くこの茶番を終わらせたいわね。


 マクミラン公爵とのダンスは、体調を理由に1曲で終わらせた。

 

 今日はダンスではなく、情報収集のために会話をしたいのだけど……。

 周りを見るが、話をしたいと思える集団は今の所無かった。


 しょうがない、少し休憩しましょうか。


 給仕からシャンパンを受け取り、壁際に向かう。

 さすがに壁の華にはなれないだろうが、少しは休憩できるだろう。




 「失礼、ジュリアンナ。少し時間を貰ってもいいだろうか?」



 シャンパンを一口飲み、休憩しているわたしの邪魔をしたのは、この国の王子。

 ビアンカ側妃を母に持ち、王位継承権第二位の第一王子ダグラス様だった――――






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