33話 騎士団授与式
騎士団授与式の式典会場に入ったわたしは、適当に貴族たちと挨拶を交わしつつ貴族席に向かった。
周りにいる貴族は、当主やその奥方が多く、年配の方が多い。
捕まると口々に婚約者の件を聞いてくるのだから、面倒なことこの上ない。
18歳になるまで婚約者は作らないとお父様が公言しているでしょうに……いくら有力な情報が出回らないからといって本人に聞くなど、下策ですね。
貴族席に近づくと、ガッチリとした肉体を持つとても目立つ老人がいた……御爺様だ。
「御爺様!!」
「アンナか! 久しぶりじゃな」
抱擁を交わし、久々の御爺様との再会にわたしは嬉しくなる。
御爺様はエリザベスお母様の歳の離れた兄で、本来ならばわたしとの関係は叔父と姪だ。
しかしわたしが生まれた時には御爺様に孫がいたし、その関係でわたしも御爺様と呼んでいる。
「御爺様、今日は貴族席なのですか?」
「そうじゃ、今日はオルコット公爵としての参加になるのう。式典警備の方はライナスが取り仕切っておる。テオドールもその手伝いじゃ。儂もそろそろ隠居したいんじゃが、王太子が決まるまでは隠居するなとライナスが鞭を打つのじゃ~」
「まぁ!でも軍の元帥である御爺様が隠居されたら、大勢の人が悲しみますわ。御爺様の武勇伝を聞いて軍に入った方も多いと聞き及んでいますし」
「あれなぁ……人伝に聞くと儂は怪物かと思うぐらい話が盛られていて吃驚するんじゃよ」
「ふふふ、噂とはそう言うものですわ」
わたしがエドワード様に召喚された日から数日は、第二王子がルイス家令嬢を弄んだと噂されたけれど、いつの間にか第二王子が貴族たちに迫られていたルイス家令嬢を助けた美談って事になっていたし……もう少し苦しめば――ごほんっ、サイラス補佐官は随分と優秀と言うか、慣れていらっしゃると言いますか。火消も大変ね。
「これはこれは、オルコット公爵にジュリアンナ嬢ではないですか」
わたしの心は一瞬にして冷えたが、それをおくびにも出さずに『完璧の淑女』と持て囃される微笑みを携えて優雅な動作で振り向いた。
「お久しぶりです、マクミラン公爵」
「今日は一段とお綺麗ですね。本当にエリーの生き写しだ」
「そうなのですか? お母様は肖像画でしか知らないので、わたしには分かりませんわ」
「オルコット公爵もそう思いませんか?」
「確かに似ておるが、ジュリアンナはジュリアンナじゃ」
マクミラン公爵の問いに不機嫌な様子で答える御爺様。
御爺様は相変らず表情を取り繕わないのですから……しょうがない人です。
ですけど、御爺様はわたしをジュリアンナとして見てくれています。
わたしをエリザベスと重ねて見ているマクミラン公爵とは大違い。
同じ愛情でも家族愛と恋情では、やはり違うのかしら?
恋をした事なんてないから分かりようがないけど。
ふと出入り口の方へ目を向ければ、エドワード様が入場する所だった。
『理想の王子様』の微笑を張り付け歩く様をわたしが内心胡散くさそうに見ていると、バッチリ目があった。
すると、エドワード様は自身の髪を触りその後口に人差し指をあてた。
その仕草は先程のわたしの髪への口づけを示唆しているのを一瞬で理解し、思わず叫びそうになったがそれを寸でのところで飲み込んだ。
あの腹黒王子、からかいやがって……。
「どうしました、ジュリアンナ嬢? 気分が悪いなら休める場所へお連れしましょうか?」
「いいえ、何でもありませんわ。 お気遣いありがとうございます、マクミラン公爵」
「アンナそろそろ席へ座ろう。ではマクミラン公爵失礼する」
「ええ、オルコット公爵……そうだ、ジュリアンナ嬢。夜会では是非、貴女と踊る栄誉を私に下さい」
「……マクミラン公爵のお気が変わらなければ是非に。それでは失礼いたします」
淑女の礼をとり、わたしは御爺様とその場から辞した。
貴族席と言っても王家の三柱である貴族と、教会派貴族の席は、余計な問題が起きないように離れている。
わたしは御爺様と一緒に席に座り、王家の席を見ないように終始務めることにした。
気分を変えるのよ、ジュリアンナ。
ヘタに反応したらエドワード様の思う壺だわ。
やがて国王陛下とダリア正妃、ダグラス王子が揃い、音楽隊の音色と共に騎士団が入場する。
その中から、わたしは直ぐにヴィンセントを見つけた。
ヴィンセントも貴族席に座るわたしに気づいたようで、わたしが小さく手を振ると少しだけ表情を崩し微笑んだ。
ウチの弟は何でこんなに立派で凛々しくてカッコいいのかしら!
もはやエドワード様の事などわたしの頭から抜けていた。
これにて連続更新は終了です。
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