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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
33/150

32話 願わくば愛しい君を

 「お久しぶりです、第二王子殿下。それでは失礼しま――」


 

 淑女の礼を取り、逃げようとしたわたしの腕をエドワード様ががっちりと掴んだ。離して下さいな。



 「他人行儀はいけないな、ジュリアンナ。俺の事はエドワードと呼べと言っただろう?」


 「嫌ですわ、そんな事言いましたか? わたしたちは数か月ぶり(・・・・・)に再会したと言うのに」



 わたしとエドワード様は召喚状を使って会った時以来会っていない事になっている……表向きは。

 どこに誰の目があるか判らないのに……まったくこの腹黒王子は何を考えているのやら。



 「わぁ……エド兄上が身内以外の女性と楽しくおしゃべりしているのを初めて見ました!」



 そう言えばミシェル殿下がいたんだわ!



 わたしはきつくエドワード様を睨む。



 「大丈夫だ、ジュリアンナ。ミシェルも――クラウディア側妃も味方だ。それに周囲には俺たちの他に人はいない」


 「左様ですか。ですが、わたしとの距離取り方は少し考えて下さいまし」


 「何故だ? 美しい令嬢に取る距離としては正解だと思うがな。とても綺麗だ、ジュリアンナ」



 そうしてわたしの手を取り、エドワード様は口づけを落とす。

 手袋越しに伝わる柔らかな感触にわたしは思わず赤面した。



 「な、何をするのですか! いくら王子とは言え、許可もなく口づけするなど……」


 「婚約者候補にしても咎は受けない」


 「受けます!!」


 「その時は、俺が責任を持ってジュリアンナを貰い受ければ解決する」


 「しません! それに、わたしが嫌なのです!!」



 素早く手を引っこめて、わたしはエドワード様と距離を素早くとる。



 「ジュリアンナは、エド兄上の婚約者なのですか?」


 「そうだ、ミシェル。将来の姉だぞ」


 「うわぁ!! ジュリアンナが姉上になってくれたら嬉しいです。結婚したシェリー姉上とはあんまり会えないですし……」


 「ジュリアンナは王宮に住むことになるからな、会い放題だぞ」



 ニヤリと腹黒く笑うエドワード様。


 この野郎!!わたしはあくまで婚約者候補よ、候補!

 完全に決まった事ではないのに……ミシェル殿下を使って外堀を埋めるつもり?



 「エドワード様、それは確定事項ではないのですから、ミシェル殿下にさも事実のように言うのは止めて下さい」


 「強情だな。だが俺はジュリアンナを妃に望んでいる」


 「知っております。わたしには2つの王家と大貴族の血が流れておりますから」


 「お前は何か勘違いをしているな。血筋などどうでもいい、むしろ血筋だけ良い妃など邪魔なだけだ。俺が望む妃は、お互いに背を預け国を守れる有能な妃だ。そして……その妃が、俺が愛する女であることを願うだけだ」



 再び近づき、わたしの髪に触れるエドワード様。

 彼がわたしを見る目は熱をおびている。

 いくらわたしでも自覚する。この人は……わたしを愛しているのだわ。


 わたしはエドワード様のために生まれた。

 10歳になり真実を知ったその日から、わたしはこの人に嫁ぐ覚悟はできていた。沢山の候補がいたとしても、エドワード様が最有力だと思ったから……。

 たとえ愛のない結婚になろうと、自分がリーアであることを生涯隠し、産んだ子だけは大切に愛そうと決めていた。

 だけど秘密を暴かれて、エドワード様にわたしが愛されるなんて誰が予想出来ただろうか?


 わたしは――――



 「わ、わたしは貴方に愛する覚悟も、愛される覚悟もしておりませんでした……」



 蚊の鳴くような声でわたしは俯きながらエドワード様に伝えた。

 エドワード様は確かにわたしの言葉を聞き取ったようで、いつもの腹黒い笑みでも、理想の王子様の笑みでもない、今まで見たことのない穏やかな笑みをわたしに見せた。



 「……今はそれで十分だ、ジュリアンナ」



 掴んでいたわたしの髪に口づけを落とすエドワード様。

 その顔は卑怯よ!


 わたしは赤くなった顔を見せないようにしながら、いつもの調子でエドワード様に問いかける。



 「ミシェル殿下をお探しに来たのでしょう? 見つけたのですから、わたしにはもう用はないでしょう?そろそろ式典も始まるでしょうし、わたしは失礼いたします」



 この居た堪れない空気をこれ以上吸いたくない!



 「エド兄上、僕はジュリアンナともっとお話ししたいです」


 「随分とジュリアンナを気に入ったんだな、ミシェル」


 「はい! でもエド兄上の恋路は邪魔しません。キールが言っていました、人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死ぬと。僕はこの国の役に立ちたいのでまだ死にたくありません!」


 「そうか、俺は良い弟を持ったな」



 くしゃりとミシェル殿下の頭を撫でるエドワード様。

 しかしその目は慈愛に満ちたものではなく、腹黒さの滲むものだった……絶対この男、楽しんでいるわ。


 「ミシェル殿下、それはまたの機会にお願いいたします。それでは、御前を失礼します」


 「ああ、式典と夜会でまた会おう」



 淑女の礼をとり、素早くわたしはその場を去る。

 後ろから良からぬ視線を感じたが、全力で気にしない事にした。


 腹黒王子に振り回されるのはもう嫌です!!




漸く恋愛タグに相応しい展開になったかと思います!!

何度恋愛タグを外そうかと悩んだことか(途中恋愛ジャンルから文学ジャンルに変えたけどw)……作者的にも中々甘くならない二人で困りものでした。

今まで手駒宣言や嘘ラブレター、殺伐デートばかりでしたからね(笑)



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