30話 儀式の始まり
時間軸が元に戻ります。
20話から数週間後です。
「それでモニカ、王都教会で薬師たちは何をやっているのかしら?」
モニカと共犯関係を築いて3日後、夜勤が重なった日に情報交換をすることになった。モニカの恋人は王都教会で薬師をしている。それにハワードにより特別な毒の抗体を得たわたしを、短い間とは言え苦しめた薬師だ――実力は折り紙つきね。
「ジャン――私の男爵令嬢時代の使用人なんですけど……彼が言うには、昔は不老不死の妙薬やどんな病気でも癒す万能薬の研究をしていたそうです。今現在はその名残で薬師の人数が多いそうです。また、良い薬を開発することで貴族のパトロンを得ています。ジュリアンナ様は王都教会で行われている儀式を知っていますか?」
「サバトね。勿論存じています」
「どうやら、昔の怪しげな薬の研究から儀式に発展したようです。私が知っているのはこれぐらいで……」
「十分よ。とても貴重な情報だったわ……そうして繋がるのね……」
昔やっていたと言う薬の研究……恐らくエリザベスお母様が関わっているわね。
愛した女性に生きて欲しいと願い、実行したと言う事?
そしてサバトは迷走したマクミラン公爵が行ったのが始まりって事かしら?
それに王都教会が医療を盾にしてさらに力を持つのは喜ばしい事ではないわね。
「モニカ、ありがとう。そして一週間後に頼みたいことがあるの」
「なんでしょう?」
「式典と夜会に出席するから1日留守にするわ。その時、寮でわたしが不在なのを隠してほしいの」
「外出届を出してはどうでしょう?」
「そう頻繁に外出は出来ないわ。目立つ行動は避けたいし……何より、寮には上層部の息のかかった狗がいるわ」
「それは……誰ですか!?」
驚きながら、モニカは問いかけてきた。
「マーサ寮長よ。以前、わたしの恋人とのデートについて話題になった事があったでしょう? あの時マーサ寮長はわたしが出した手紙の内容を知っていたのよ。シアナ公園に行くなんて誰にも話した事がなかったのに。間者を洗い出すためにどこかしらに王都教会の狗がいると思って幾つか罠を張っていたの……随分身近にいてビックリだわ。モニカも寮室とかは定期的に調べられているから気を付けなさいね」
「寮長が……人は見かけによらないのですね」
明るくサバサバとした性格で面倒見のいいマーサが教会の狗だとは予想がつきにくいわよね。
でもそれは紛れもない事実だわ。
人は何かの為に自分を偽り仮面をかぶる事が出来る生き物だもの。
「わたしとモニカが言えることではないでしょう?」
「ふふふっふ、そうですね」
わたしはモニカと笑い合いながら、当日の打ち合わせを始めた。
切りが悪いので今回は短めです。