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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
30/150

29話 侯爵の仮面と父親の素顔

ジェラルド視点。

ジュリアンナがエリザベスの日記を解読して家を飛び出した後です。



 「あ、アンナが屋敷を飛び出しただとっ!?」


 「そのようにハワードから伺っております」


 「どうして止めなかった、スチュワート!」


 「どうしても何もハワード曰く、お嬢様は酷く絶望した目をお持ちだったとか……ひとまずお嬢様の好きにさせようと言う事になりました」


 「あんなに愛らしいアンナが外に出たら危ない!攫われてしまう!!」


 「きちんと護衛を付けております。何よりお嬢様は聡明で優秀ですので、護衛の手を煩わせる事もないでしょう。旦那様に似ず、エリザベス奥様に似たのでしょう、とても喜ばしい事です」


 「うぐぐぐ」


 「はぁ……娘のいないところでそんな醜態をさらすのなら、いっそきちんと向き合えばいいのでは? マクミラン家の間者の件も多少情報を得辛くなりますが、どうにかできない事もありません。それに今回のお嬢様件は完全に旦那様が悪いです。折角お嬢様がバースデーカードを書いたと言うのにあの対応……」


 「あの時はヤコブがいた……」


 「だとしても他にもやりようはあったはずです。旦那様、不器用と言い訳すれば許されるわけではないのです。お嬢様があそこまで素晴らしい令嬢に成長された事は奇跡です」


 

 私はジュリアンナから受け取ったバースデーカードを撫でる。

 端正で美しい字。何時の間にあの子はこんなにも綺麗な字を書けるようになったのだろう?

 淑女の礼も以前のようなぎこちなさはなく、完璧だった。

 ルイス家の者として誇れる令嬢に成長していた……私の見えないところで。



 「昔はあんなに身体が弱かったのに、ヴィンセントは士官学校で良い成績を収めているようだな。それにアンナも素晴らしい令嬢に成長している」


 「当たり前です。お二人はルイス家の至宝ですよ。お二人とも周辺国の語学は習得済みですし、マナーも完璧。正直に言って旦那様のお小さい時よりも優秀です」


 「よ、容赦ないな、スチュワート」


 「(わたくし)は執事ですが、旦那様の乳兄弟でもあるので……遠慮する必要はないですからね」


 「それは助かる。お前とグレースがいて良かった」



 幼き頃から知っているグレースとスチュワートがいるからこそ、私はルイス侯爵として立っていられる。

 情けない私を支えてくれる二人は、同時に私の愛しい子ども達を、私の手が届かない場所で守ってくれている……なんと心強い事か。



 「今回の件、グレースは怒り狂っていますよ。バースデーカードを書く事を進めたのは彼女ですからね……後で説教は確実でしょう」


 「うぐぐ……それは甘んじて受けよう」



 愛する娘――ジュリアンナには多くの業を背負わせてしまった。

 完璧で冷徹な宰相、そう呼ばれる私は父親として最低なのは自覚している。

 本当は子ども達を抱きしめたいのに抱きしめられない。

 私があの子たちを愛しているとマクミラン家が知れば、今は将来利用できるかもしれないと危害を与えていないあの子たちに、躊躇なくあの子たちに矛先を向けるだろう。

 スチュワートの言う通り、マクミラン家の間者をルイス家から排除する事は出来る。

 だがそれにより今より優秀な間者が送り込まれ、あの子たちを危険に晒す可能性が高くなる。

 それは絶対に避けたい。

 私がマクミラン家を侮ったためにカレンを死なせ、子ども達を危険に晒しててしまったのだから。



 「それと、お嬢様と坊ちゃんはいつまでも旦那様に守られているような子どもではありません。小さくともルイス家一員なのですから。そう遠くない内に旦那様の庇護など必要なくなります……そう思ったからこそ、坊ちゃんにカレン様の手帳を送ったのでしょう?」


 「まぁな。士官学校で良い成績を修められるのならば、今は無理でもこれからこの家を守れるようになるだろう」


 「しかし旦那様はジュリアンナお嬢様には過保護ですね。言っておきますが、ジュリアンナ様はエリザベス奥様に外見だけではなく中身もそっくりですよ」


 「そんな訳が……」


 「性格は違いますが、お嬢様は守られる事に甘んじる令嬢ではありません。むしろ嬉々として戦いに赴く気質です」

 

 「身体が弱く泣く泣く行動をセーブしていたエリザベスと違ってアンナは健康体だ!危険に巻き込まれたら……アンナの警備体制を見直さねば……」


 「それは手遅れでしょうね。あの偏屈なハワードも色々とジュリアンナお嬢様には色々手を貸しているみたいですし。ジュリアンナお嬢様も懐いています」


 「あの陰険ハワードがアンナと仲良くしているのか!? 私だってアンナと仲良くしたいのに……」


 「これだから男親は……そうしたいのなら、早く復讐を遂げませんと」




 ――コンコン



 執務室に無機質なノック音が響く。



 「旦那様、ヤコブです」


 「入れ」



 スチュワートはすぐさま冷静沈着な家令に戻り、扉を開けた。



 命がけであの子たちを守ったエリザベスとカレン。

 私の最大の理解者と最愛の人。

 ふたりの妻が今の私を見たら、叱り飛ばすだろう。



 だが、あの子たちを守れるのなら、私は仮面を被り続けよう。

 復讐を遂げるその時まで――――






  

ブックマ&評価ありがとうございます。

この間久々に確認したら、すごい増えていてびっくりしました。

万人向けじゃないなーと思いながら書いている作品なので、予想外に多くの人に見られていて嬉しいです。

感想返しも暇が出来たらしますね。


ジェラルドがジュリアンナをアンナと(影で)呼び、ヴィンセントを愛称で呼ばないのは、男親特有の息子には厳しく接するけど、娘には甘くなっちゃうアレですww


これにて過去編は終了です。

今回の話が中々の難産でしたので、実は先にこの後の話を少し書き溜めております。

なので数日間ですが、連続更新になります。

お待ちくださいませ。

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