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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
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25話 紐解かれる思い

 「わたしは、愛されていたの……道具として以外にも望まれて生まれてきたの?」


 「うん。姉さんはエリザベス母上に愛されていたし、幸せになることを望まれて生まれてきたんだ」


 わたしの呟きをヴィンセントが肯定してくれたことで、今が現実だと認めることができた。

 エリザベスお母様の日記にはわたしに向けて沢山の愛の言葉が書かれていた。

 涙が溢れてくる。しかし、この涙は嬉し涙だ。

 強がって冷めた子どものふりをしていたって、わたしは寂しかったのだ。



 ヴィンセントが涙を拭い、わたしを抱きしめてくれた。

 お姉さんなのに、弟に慰められるのは、なんだかくすぐったい。


 

 「ありがとう、ヴィー」


 泣き止んだわたしは、ヴィーに笑顔を向ける。


 「落ち着いた? そうしたら姉さんにこっちも見て欲しいんだよね」


 そう言ってヴィンセントは一冊の手帳を取り出した。

 茶色で酷く汚れた手帳だ。

 泥が付いているのかしら?ページも泥水を吸って前半は殆ど読めないわ。


 仕方ないのでわたしは、かろうじて読める後半部分から読み始めた。

 中身は暗号文などではなく、柔らかい女性の筆跡だった。









 今日、わたしは愛する人と結婚した。

 晴れてわたしは、カレン・アスキスからカレン・ルイスになった。

 第二夫人としての結婚だけど、本来ならば幼馴染と言ってもジェラルドは侯爵だ。

 末端の貧乏子爵令嬢なんかが結婚できる相手じゃない。

 でも一週間前にジェラルドと結婚した第一夫人であるエリザベス様が、わたしを第二夫人にしてもいいと言って下さったらしい。

 そのエリザベス様は、オルコットの秘宝と呼ばれるほどの美姫で社交界では知らない人がいないぐらいの有名人。弟もエリザベス様の姿絵を隠し持っていた。

 今日、初めてそのエリザベス様に会った。

 結婚式では、花嫁のわたしが霞むんじゃないかと思った。

 あんなに綺麗な人見たことがない。わたしは身分不相応にも嫉妬した。

 ジェラルドもわたしなんかと結婚する必要ないじゃないと思ったら、あの男はエリザベス様を見ても何の反応もない。わたしが言うのもあれだけど、こいつ本当に男か?

 エリザベス様は、意外にもさっぱりとした性格で安心した。

 これから、このルイス家でやっていけそう。




 今日、エリザベス様の妊娠が発覚した。

 おめでたいことなのに、ジェラルドは複雑そうな顔をしていた。

 何故だろう?




 リズが妊娠して数週間、わたしも妊娠した。

 お祝いにリズとショコラを食べた、頬が緩むほど美味しい。

 仲良くなったわたしたちは名前で呼び合うようになった。

 エリザベス様の事は恐れながらリズと愛称で呼んでいる。

 気遣いができて男前でカッコいい……リズは素敵な人なんだろう。

 昔からヘタレなジェラルドとは大違い。

 敏腕宰相なんて呼ばれているけど、わたしは未だに信じられないわ。




 悪阻が辛い。

 妊婦がこんなにも辛いだなんて思わなかった……。




 最近お腹の子がよく動く……と言うか暴れる。

 蹴り上げるんじゃないかって勢い。

 リズの子を少し見習ってほしい。




 今日は陛下とダリア正妃がお忍びでリズを訪ねてきた。

 わたしは別室にいたけど、少しだけ陛下たちとお話をした。

 最初は人生の中一番緊張したけど、リズとジェラルドの子のことを聞いて、緊張何て吹き飛んだ。

 リズとジェラルドは国の安定のために結婚し、子を産むことを決めたそうだ。

 正妃よりも先に側妃が王子を産んだため、政治派閥のバランスが崩れたのだという。

 貴族ならば家のための結婚は当たり前。

 でもリズとジェラルドは国と陛下のために結婚し、次期王のために子を捧げるのだ。

 呑気に恋愛結婚をしたわたしは、批判することは資格なんてない。

 何故なら、この結婚で国王派の派閥は結束を高め、リズの子は国の安定に繋がるのだから。

 わたしは貴族として王家に忠誠を誓っていると思っていた。

 でも、そんなのは勘違いだ。




 リズが最近ベッドから起き上がって来ない事を訝しんだわたしは、リズの部屋を突撃した。

 顔を真っ青にして、前より痩せたリズが横たわっていた。

 絶対におかしい、無理をしていると思ったわたしはリズを問い詰めた。

 するとリズは「わたくしの身体は出産に耐えられないでしょう」と凛とした顔で言った。

 その顔に後悔など一つもなく、リズは愛しそうにお腹をさすっていた。

 この人はお腹の子を深く愛しているのだと思った。

 リズに隠し事をするのは嫌だったので、リズとジェラルドが結婚した理由を知っていることを話した。 わたしはリズのために何ができるだろうか……。




 もうすぐリズの出産予定日だ。

 今日はリズの部屋でジェラルドと3人、サンドイッチを食べた。

 実家にいたころは、よくピクニックに行って食べたっけ、懐かしい。

 こうしてリズと一緒にいられるのは、あと僅かだ。

 それは判っている、だけど女神ルーウェル。

 どうか、リズを連れて行かないで――――




 リズの陣痛が始まった。

 わたしはすぐに王宮にいるジェラルドに連絡した。

 リズの傍にいたかったが、わたしもいつ生まれるか判らない妊婦だ。

 邪魔だと追い出されて、部屋の外で祈ることしか出来ない。

 どれだけ祈っていただろう、わたしの横にジェラルドがいることに気づかなかった。

 赤ちゃんの泣き声がした瞬間、わたしとジェラルドは部屋に飛び込んだ。

 赤ちゃんが女の子だと言われたリズは「ジュリアンナ」と呟き、すぐに死んでしまった。

 わたしは泣き崩れた。だけどリズの顔はとても幸せそうだった。




  

 今日はリズのお葬式だ。

 オルコット公爵家は勿論、陛下やダリア正妃など国の重鎮が揃い踏みだった。

 リズの亡骸を見て、オルコット公爵はジェラルドに殴りかかった。

 だけど、それを止めたのはジュリアンナの泣き声だった。

 ジェラルドはリズが死んでから1回も泣いていない。

 本当は悲しいくせに、不器用な人。

 わたしはもう一児の母。そしてもうすぐ二児の母になる。

 ジェラルドの妻として、子どもたちの母として、わたしは強くならなければならない。

 リズの分までジュリアンナを愛そう。





 

 ルイス家長男であるヴィンセントを産んで3日経った。

 わたしの体調は大分回復した。

 でもヴィンセントはたまに咳き込むことがある。

 とても心配だ。





 今日はアンナの誕生日。

 リズの命日でもあるけれど、沢山お祝いした。

 きっとリズもこの方が嬉しいだろう。

 アンナは元気に成長している。

 それと反対にヴィーはわたしの子なのに病弱だ。

 だけど、ハワード先生が言うには成長すれば丈夫になるそうだ、良かった。

 ジェラルドはリズが死んでから……と言うかアンナが生まれてから一度も抱いていない。

 それはヴィーも同じだ。

 どうやらリズに似ているアンナと自分に似ているヴィーにどう接していいか判らないらしい。

 相変わらず、ヘタレだ。

 アンナとヴィーに「お父様なんて大っ嫌い」って言われてから後悔しても遅いんだから。




 

 アンナとヴィーが2歳になった。

 沢山喋りかけているからか、単語だけどふたりは喋るようになった。

 とっても可愛い。

 ジェラルドは殆ど家に帰って来ない。

 どうやら仕事が忙しいみたいだけど……少しは相談して欲しい。

 このままじゃ、この子たちに存在を忘れられてしまうんじゃないかな。





 わたしとアンナとヴィーがルイス家の領地に移ることが決まった。

 恐らく、教会派が活気づいているから非難のためだろう。

 せめてジェラルドの邪魔にはならないようにしたい。

 




 今日は嬉しい事があった。

 わたしは妊娠していたのだ!新しい家族が増える。

 ジェラルドに話すと、涙を滲ませていた。

 この子の名前はリズにあやかった名前にしようと二人で話した。

 アンナとヴィーには、お腹が膨らんでから話そうと思う。

 ちゃんと判ってくれるかな?




 アンナが珍しく風邪で寝込んだ。

 丈夫な子だけど、心配。

 ヴィーにはアンナに近づいてはダメだと言ったけれど、目を離した隙にアンナの傍にいた。

 お姉ちゃん子で少しだけ将来が心配になる。

 案の定、ヴィーは夜に熱を出した。この子は病弱すぎる。





 明日わたしは、領地に行く。

 本当はアンナとヴィーも一緒のはずだったけど、ふたりが風邪をひいているため、わたしだけが行くことになった。

 早くあの子たちの風邪が治ることを祈っている。








 ここでカレンお母様の日記は終わっている。

 わたしたちに弟か妹がいたなんて……知らなかった。

 それに、侍女長が言っていたように、カレンお母様もわたしを愛していてくれた。



 白紙のページを捲り、最後の背表紙のところでわたしは驚愕した。


 浅黒くザラザラした塗料で文字が書き殴ってある。

 これは……血文字?


 「……マ、ク……ミ、ラ、ン」


 『マクミラン』その言葉が指すのは一つしかない。

 ローランズ建国当初から続く貴族――マクミラン公爵家だ。


 「この日記は、一か月前に突然寮に送られてきた。宛名はなかったよ」


 「それって……お父様がヴィーに送ったということ?」


 「たぶんね。調べたけど送り主は判らなかった。姉さん、カレン母上の死因って何だか知ってる?」


 「土砂崩れによる事故死……」


 「カレン母上の事故について、僕なりに調べてみた。そうしたら、おかしなことが判った。事故現場は本来通る筈のルートから大きく外れていたんだ」


 馬車での移動は楽だが、安全な道を辿らなければ危険を伴う。

 脱輪したり、野盗に襲われたりするからだ。

 余程の事がない限り、ルートを変えることはない。

 つまりは、『余程の事がカレンお母様の身に起った』ということ。


 「カレンお母様の死は事故ではなく、仕組まれた事だったと言う事かしら?」


 「その可能性が高いと思う」


 わたしとヴィーはお互いの顔を見つめ合う。

 この推論が正しいとして、マクミラン公爵家がどう関わっているのか。

 母とわたしたちの弟妹を殺したのは誰なのか。

 そもそも、お父様は何故ヴィーに匿名でカレンお母様の日記を預けたのか……

 多くの疑問が浮かぶが、調べる術が今の私たちにはない。


 ――――パチパチパチ


 突如背後から場違いな拍手が聞こえた。

 ヴィンセントは直ぐにわたしを背に庇い、警戒態勢に入る。


 「誰だ」


 「流石はジュリアンナお嬢様とヴィンセント坊ちゃんです。ですが……盗聴されていることに気づかないなんて、軍人としてヴィンセント坊ちゃんはまだまだですね」


 いつの間にか半開きにになっていた扉から入ってきたのは、侍女長だった。

 手には紅茶とお菓子を乗せたトレーを持っている。


 「折角の紅茶が冷めてしまいます。お茶にいたしましょうか」





また中途半端ですが切ります。


意味深な侍女長で終わってすみません。

あと、侍女長はトレーをキャビネットの上に置いて、拍手して、またトレーを手に取っています。

決してトレーを持ったまま拍手できる超人ではないです、はい。


次回は謎解き回になるはず。





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