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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
2/150

02話 理想の王子様と完璧な淑女

また短いです。

 ――ローランズ王国

 パルフィア大陸の西にある建国300年の中堅国家。内陸国だが二つの大河があり、水源が豊か。また四季が存在し、様々な作物が育つ肥沃な土地でもある。

 王政は安定し、穏やかに繁栄している。


 ローランズ王国は、一人の英雄により建国された。

 300年前、隣国のディアギレフ帝国は全盛期であり、各地で侵略戦争を行い領土広げていた。

 戦争を仕掛けられた国は、王侯貴族は処刑され、村々は帝国軍により蹂躙された。

 土地は荒れ、帝国の者たちが我が物顔で闊歩し、人々に恐怖による服従を迫る。

 抵抗するものは容赦なく殺されていった。

 人々が絶望し、誇りを失いかけていたとき一人の青年が立ち上がる。

 彼こそが建国の英雄『アベル・ローランズ』

 数人の仲間と決起した彼は、瞬く間に勢力を広げ、帝国軍から虐げられた村々を解放し、失われた三つの小国を統一した。

 これにより、英雄王アベル・ローランズが誕生、ローランズ王国が建国された。

 その後、何度もディアギレフ帝国からの侵略戦争が仕掛けられたが、一度もその侵略は成功してはいない。


 民の一人ひとりが国に誇りを持ち、王侯貴族と騎士は最後まで国を守り抜く――

 戦えぬ者、戦う者、守られる者、守る者、すべてが国を誇りに思う愛国者。

 その結束の強さは、ローランズ王国に仇を成そうとしたものに手痛い報復として思い知らされる。


 何時しかローランズ王国は『英雄たちの国』と呼ばれるようになる。





#######




 ローランズ王国王城・睡蓮の間にて煌びやかな夜会が開かれていた。

 この夜会はローランズ建国300年を祝した夜会であるが、同時に第二王子の花嫁候補を探すことを目的にしていると貴族の中では囁かれていた。


 鮮やかな睡蓮が描かれたホールでは、輝く光を浴びて色とりどりの宝石たちが舞う。

 奏でられたワルツの旋律に合わせ、万華鏡のように景色を変えていく。

 その中に一際輝きを放つ、男女がいた。


 ホールの東側、そこに大きな人だかりがある。

 その中心に男はいた。名をエドワード・ローランズ。

 ローランズ王国王位継承権第一位の第二王子である。

 プラチナブロンドに澄みきった蒼の瞳。整った顔立ちは、その容貌もあって怜悧な印象を与えるかと思いきや、穏やかな微笑を携え、美しくも優しげな印象を与える。

 『理想の王子様』彼を見たものは、そう評する。

 まるでお伽噺の王子様を体現したかのようだった。


 彼の周りには、精一杯着飾り、色目を使う令嬢たちがいた。

 それらに嫌な顔ひとつせずに微笑を浮かべて相手をする彼は、今日も『理想の王子様』だった。


 「私と踊ってくれますか? マクミラン公爵令嬢」

 「エドワード様、イザベラと呼んでくださいといつも言っておりますでしょう?」

 「それは失礼」


 微笑みを浮かべ手を差し出したエドワードに、イザベラは頬を朱に染め、潤んだ瞳で答えた。

 取り囲んでいた令嬢たちは、選ばれたイザベラに嫉妬の目を向ける。

 エドワードとイザベラはホールの中央に移動した。






 エドワードがいる場所の反対、ホールの西側にも大きな人だかりがある。

 その中心に女がいた。名をジュリアンナ・ルイス

 建国からの王の忠臣『王家の三柱』の一つルイス侯爵家、その直系の令嬢である。

 ゆるく波打つハニーブロンドに深紫の瞳。10人が見れば10人全員が美しいと評する容貌をした麗しくも可憐な美少女だ。

 彼女の周りは、礼服を着こんだ令息たちが取り囲んでいる。

 令息たちに楚々とした微笑で接する彼女は、このローランズにおいて誰もが認める社交界の花のひとりである。

 容姿・家柄・教養・ダンス・所作すべてにおいて完璧な彼女は『完璧な淑女』と呼ばれている。

 まるでお伽噺の姫のようだと人々は言う。


 「ジュリアンナ嬢 わ、私と踊っていただけないでしょうか!」

 「は、はい……喜んで」


 手を差し出した年若い令息にハニカミながらジュリアンナは答えた。

 そのジュリアンナの笑顔に年若い令息は骨抜きに、取り囲む令息たちは悔しさを滲ませた。

 ふたりは手を取り合いホールの中央に移動する。


 ダンスホールに新たな曲が流れる。

 一際輝くふたりの宝石、それぞれを起点にして景色が変わる。


 曲が変わるたびにエドワードとジュリアンナはパートナーを変えたが、ふたりがこの夜会で踊ることはなかった。







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