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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
19/150

19話 素顔の仮面

時間軸は少し戻って、茶番デート後の第二王子陣営です。



 「随分と嬉しそうですね、エドワード様」


 口元を引きつらせながらサイラスは執務を行うエドワードに言った。


 「何を怒っている? ちゃんと半日で帰ってきて、しかもこうして真面目に執務を行っている……素晴らしい第二王子様だろう」


 「素晴らしい王子はホイホイ外に遊びに行ったりしません!」


 「失礼だな、情報交換という名の仕事だろう」


 「そんなの別の者に頼めばいいんです! 貴方はジュリアンナ嬢に会いたかっただけでしょう! 護衛も信用の足りない隠密なんて使って……」


 「奴は腕は確かだ……それでサイラス、例の件はどうなっている」



 エドワードが急に真面目な顔になったことに思わずサイラスは溜息を吐いた。

 やれやれと言った調子で『例の件』の調査報告を始める。



 「第一王子ダグラス殿下とマクミラン公爵令嬢イザベラ様の婚約は、やはり公爵とビアンカ側妃でお決めになったことでダグラス殿下は関与しておらず、望んでいなかったようですね……尤も国王陛下の承認を得ているため現状の婚約解消は無理かと。ですが、ダグラス殿下とイザベラ様はお互いに婚約を解消しようと躍起になっているようです」


 「予想通りだな。兄上はジュリアンナがいいのだろうな……イザベラ嬢も中々の血筋だと思うのだが」


 「マクミラン公爵家は近頃王族の降嫁はされておりませんし、ローランズとサモルタの王女をそれぞれの祖母に持つジュリアンナ嬢の血筋には叶わないでしょう。それにジュリアンナ嬢は誰もが認める社交界の華であり、完璧な淑女と名を馳せるような才あるご令嬢……例えそれが演技だとしても付属している物も違いすぎます」


 「演技だからこそ有用だと思うがな。サイラス、兄上は事を起こすと思うか?」


 謀反をという言葉を含ませ、エドワードはサイラスに問いかける。


 「手元にある情報から推測すると何とも言えません。確実性が今一つです……しかし、私的な意見を言わせて貰いますと第一王子陣営は行動を起こすと思います」


 「俺も同意見だ。兄上は昔から感情的なところがある……恐らく今回は利用できるものは利用するつもりなんだろうが、利用しようとしている相手が悪い。父上もさぞお怒りだろう。兄上の件は引き続き情報収集を怠るな」


 「了解しました……エドワード様自身は行動なさらないのですか?」


 「俺が兄上の為にすることはない。そもそも兄上は俺が嫌いだから、俺が何か言っても逆に意固地になるだろう?全くからかいがいがある」


 「そんなだからダグラス殿下に嫌われるんです」


 サイラスは半目でエドワードを見た。


 「真面目な話、俺が出るのはよろしくないだろう。兄殺しの次期国王など……外聞が悪い。それに今回のことは元々、父上が撒いた種だ。息子が尻拭いをする必要はないだろう」


 教会派がここまで勢いを増したのは、正妃が王子を産む前に側妃に王子を産ませたのが悪い、そしてその側妃も我が父ながら趣味の悪いとエドワードは内心毒づく。


 「貴族には悟られぬよう、表立っては動かないように注意します。それとジュリアンナ嬢の件なのですが……やはりアイリス商会はジュリアンナ嬢が立ち上げた商会のようです。経営自体は民間に移っているようですが、依然としてルイス家が実権を握っているようです。それと服飾店のメイラーズもジュリアンナ嬢の出資で大きくなったようです」


 「弱小服飾店が今や流行の最先端か……サイラス、何かおかしくないか」


 「はい、実は―――――」



 ―――――コンコン


 「失礼します。特務師団副団長ヴィンセント・ルイス様がお見えです、いかがなさいますか」


 廊下に控えていた侍女が来客を伝える。


 「通してくれるかな。給仕は必要ない」


 「畏まりました」





 「突然の訪問で申し訳ありません、エドワード殿下」



 入室した少年を見て、エドワードは丁度良かったと内心で笑う。


 彼の名はヴィンセント・ルイス。

 ルイス侯爵令息でジュリアンナの弟だが、母親が違うので誕生日は2週間ほどしか違わない。母は子爵令嬢でルイス侯爵とは幼馴染だったそうだ。

 ジュリアンナと同じ金髪に母親譲りの碧眼、中性的で儚げな美少年だが騙されてはいけない。

 王直属の諜報機関である特務師団で17歳という若さで副団長をしているのだから。

 尤もエドワードはヴィンセントの優秀さ以外に人柄も気に入っていた。



 「よく来たね。今回は随分長い間外国にいたみたいじゃないか」


 「そんなこと関係ないだろう、鬼畜魔王が。王子様口調とか虫唾が走る」


 「ふっ、お前の猫かぶりも中々のものだと思うが?」


 「当たり前だろ、姉さんの迷惑になるようなことはしない」


 「エドワード様もヴィンセントもその辺にして下さい。そもそもヴィンセント、仮にも第二王子殿下に何て口のきき方ですか」


 「何故、僕が敬わなければいけない。……僕が仕えているのは国であって、エドワードじゃない。直属の上司は陛下だし、何より姉さんを手駒に使うようなヤツは滅びればいい」



 ヴィンセントは幼少時にエドワードと何回か会っていた。

 それは未来の側近にと親同士が行ったことだったが、ヴィンセントが病弱だったのとエドワードのことをヴィンセントが嫌ったことから次第に行われなくなった。

 その後、士官学校を優秀な成績で卒業したヴィンセントは、エドワードの側近にならずに国王直属の特務師団に入団したのだ。


 ある意味もうひとりの幼馴染と言っても過言ではないヴィンセントにサイラスは頭を抱えた。

 ああ、この二人の相性は悪すぎる、と。

 だがエドワードは己を敬わないヴィンセントの気質を気に入っていた――常人には理解できないだろう。



 「俺の前ではあまりジュリアンナの話をしなかっただろうに……リーアがジュリアンナだと俺が知ったからか」


 「7年もかかるなんて馬鹿――否、姉さんが凄すぎるのか」



 キラキラとした眼差しをしながら、ヴィンセントは最愛の姉に思いを馳せていた。

 その様子をサイラスとエドワードは気持ち悪そうに見つめていた。



 「それで、ヴィンセント。お前は何か聞きたいことがあったんじゃないか」


 「逆だよ。エドワードが僕に聞きたいことがあるんだろう?」



 ヴィンセントはエドワードを挑発した。

 本性を現した第二王子にこんな態度をとれるのはヴィンセントだけだろうとサイラスはふたりを眺めながら思っていた。



 「この3カ月間どこに行っていた」


 「秘密」


 「王族の命令でも言えぬと?」


 「僕の上司は国王陛下だしね。というか、僕が何所に行っていたか何て目星はついているだろう? それよりも他に聞きたいことがある筈だと思うけど」


 「アイリス商会とメイラーズについてだ。あれはジュリアンナが創りだし、大きくした……それで相違ないか」


 「うん、合っているよ。姉さんは凄いでしょ」


 「私からもよろしいですか。アイリス商会の主力は紅茶に茶器で、現在貴族間で大変人気となっています。また、メイラーズにいたっては服飾において流行を作り出すほどの飛び貫けた地位を持っています……これらは以前、マクミラン公爵家の主事業でした。何より、我々でもこれらの情報を手に入れるのに相当手こずりました。単刀直入に言います、ジュリアンナ嬢……いいえ、貴方達姉弟は何を考えているのですか?」


 「さぁ、姉さんが考えていること何て判らない。だけど、何を目指しているのかは知っている」


 「ヴィンセント、ジュリアンナは俺に素顔を見せたことがあると思うか?」


 「思わないね。姉さんが誰かに素顔を見せるなんてありえない……たとえ姉さん本人が素顔を見せたと思っていたとしても、それは素顔じゃない。幾重にも重なった仮面が数枚剥がれた程度だ」


 「やはり、な。ジュリアンナは役にのめり込むタイプなんだろう」


 「姉さんを判っているようなことを言うな! 麗しい姉さんを手駒にするような鬼畜が」


 「お前がいない間に色々あったんだ、色々な。そもそも俺は別にジュリアンナを本気で手駒にするつもりなどなかった……言った後に冗談だと流すつもりだった」


 「え、冗談だったのですか!?悪趣味な……さすがエドワード様」


 「煩い、サイラス。少々の屈辱を与えたかったからな……だがジュリアンナは手駒になれと言ったら本気で思案していた。だから直感的に何かあると思った……俺が提案したことはジュリアンナにとっても渡りに船だったのではないか、と」


 「……へぇ。今回は見極め役として来たけど、まあまあだね」


 「ほう……」


 見極め役――その言葉は何かのヒントだとエドワードは瞬時に理解した。


 「そうそう、今度の夜会は僕が姉さんをエスコートするから、鬼畜魔王の出る幕はないから。あと、くれぐれも僕ら(・・)の邪魔はしないでね。たとえ王位継承権第一位でも容赦はしない」



 そう言い放ち、ヴィンセントは執務室を出て行った。

 嵐が去ったとサイラスはホッと息を吐いた。






 「なあサイラス、おかしいとは思わないか?」


 「何がでしょう」


 「何故、婚約者候補第一位のジュリアンナと俺の接触は今まで最低限だったんだ?エスコートはしたことはないし、夜会で踊ったのも最低限だ……何故俺はそれを今まで疑問に思わなかった? 何故ジュリアンナは成人するまで婚約者を作らないと公言されていた? あの国王の忠臣である侯爵が何故? 本当に権力争いを抑えるためか? 何故ヴィンセントは特務師団に入団した? 軍でも他の騎士団でもなく、何故特務に……」


 ぽつぽつと自分の疑問のみをエドワードは口に出した。

 それを聞きサイラスは意を決して問いかける。


 「ルイス家を調べますか?」



 それは情報を担うとされるルイス侯爵家を敵に回すかもしれない所業、しかしサイラスは己が主のためならば躊躇なく実行するだろう。



 「否、調べるのはルイス家ではない……国王陛下(父上)だ」


 「……御意に」




 一瞬目を見開いたサイラスだったが、すぐに最上級の臣下の礼をとった。


 




漸く弟出せましたー!!

生意気な姉至上主義で申し訳ありません。

これでも外面はエドワードと一緒でいいので、王族に不敬な態度はとりません。

むしろエドワードにだけです、それは追々過去編で。


次は時間軸が戻りまして、アンナがベッドにアンを押し倒したところから始まります。あっ、百合展開は始まりませんよ?



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