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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第三部 ディアギレフ帝国編
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135話 帝都革命戦 1



 二手に別れた革命政府は、各地の領主を制圧するごとに戦力を大きく膨らませていった。協力関係にあった貴族が次々と関所を解放し、血気盛んな男たちは交易都市での革命宣言の噂を聞いて、次々と義勇軍に加わっていく。

 イヴァンが盗品を換金して少しずつ揃えた武器とカルディアが支援した兵糧のおかげで、義勇軍の士気も高い。テオドールはどれだけ義勇軍をまとめられるかが勝負の分かれ目だと言っていたが、最低限の準備は整っていたのだ。



(……今回ばかりは、テオを思いっきり褒めてあげないとね)



 わたしは帝都前の街道付近に設置された革命政府の簡易基地で、地図を広げるテオドールを見つめる。



「さてさて、思っていたよりも革命政府の進撃が早い訳だけど、気を抜かないで頑張ろうねー」



 テオドールの気の抜けた言葉に、地図を囲んでいた、わたしとアヴローラ第四皇女、エドワード、それにカルディアは頷いた。

 念入りにイヴァンが作り上げた革命政府と、テオドールの緻密な作戦によって、わたしたちは予定よりも早く帝都の前に集結することができた。

 今は導師グスターヴとセラフィム皇帝を拘束するために、革命政府軍が宮殿へと進軍している。ここは後方のため、先陣を切って戦っているイヴァンとヴィンセント、ユアンの無事を祈ることしかできない。



「……気がかりなのは、二手に別れた俺たちへのぶつけられた捨て駒が予想よりも小規模だったことか」



 エドワードは思案顔で呟いた。



「捕らえて尋問した兵によると、宮殿内でも内部分裂が起こっているらしいけどねー。利権に誘われて従っていた貴族たちばかりだから、離れるのが早い。それにおそらく、導師とやらは戦慣れしていないみたいだね」


「テオドール様。導師グスターヴは元は聖職者です。城にいるとき、派閥争いなどにも無関心でした。しかし、力に対して興味がないということではありません。ベリンスキー将軍を始めとして、貴賤問わず、卓越した才能を持つ者を重用する傾向がありました」


「戦いの基本は足し算じゃなくて、掛け算なんだけど……アヴローラ皇女殿下の言ったことを加味すると、協調性はないけれど、一人一人が強力な駒がまだ控えているってことかなー。奇策をしかけてくる可能性も高いか。苦戦しないといいけど」



 テオドールは遠く離れた宮殿を見た。

 宮殿にはディアギレフ帝国の赤い旗が靡いている。革命政府が宮殿を制圧した後は、赤い旗をすべて下ろすことでこちらへ勝利を伝える算段になっているのだ。



「前線でのことは、ヴィーたちに任せるしかないわ。戦局の把握に、兵たちへの采配、兵糧の管理……後方でもやることはいっぱいある。テオの役目は考えることだから、無理しない程度に頑張って」



 わたしは一口サイズのチーズを取り出すと、テオドールの口の中に放り込んだ。



「んー、おいしいなぁ。動かないでいいなんて、幸せだぁ。アンナ、クッション持って来て。あとチーズをもっとちょうだい」


「……だらけるのが早すぎだわ。緊張感を持ちなさいよ」



 わたしは呆れながら、クッションをテオドールに投げつける。すると彼は容易くクッションを受け止めた。てっきりクッションは肘掛けに使うのかと思っていたが、彼は雑草の上に敷布を引き、クッションを枕にして横になった。そして隠し持っていたチーズを食べ始める。



「……戦場でこの余裕。さすがローランズ王国の軍師ですね」


「褒めないでください、アヴローラ第四皇女殿下。これはただの碌でなしです」



 わたしがジトッとした目でテオドールを見ていると、カルディアも敷布の上に座った。



「……何をしているの、カルディア?」


「戦場に来ることもないだろうし、ネタ帳をメモしておこうと思ってね」


「だから緊張感を持ちなさいって言っているのよ!」



 そう叫ぶが、カルディアは気にした様子もない。

 代わりにテオドールがカルディアに険しい視線を向ける。



「この敷布の中は私の領土。寝る場所が狭くなるから、カルディアは出て行ってよ」


「領土侵犯に御立腹かい、軍師殿。二人でいても十分に広い敷布だと思うけどね。……まあ、これで許してくれると嬉しい」



 カルディアはポケットから飴とビスケットを取り出すと、それをテオドールの手のひらに乗せる。

 テオドールは神妙な顔でそれを見た。



「許す!」


「それは良かった」



 テオドールはカルディアから受け取った飴を口に入れて、満足そうに頷いた。



「良くないわよ……!」



 わたしは耐えきれず叫ぶと、両腕を組んでテオドールとカルディアを見下ろした。

 二人はわたしの鋭い睨みを受けて、条件反射で正座をする。



「ここは戦場なの。それは軍人であるテオドールがよく知っているでしょう? 息抜きをするなとは言わないわ。だけど、ふざけるのは止めなさい」


「「ふざけてなんか……」」


「チーズを食べながらだらける軍師を見て、反感を覚えないと思う? 嬉々とした顔でネタ帳に書き殴っている女性を、命を懸けて守りたいと思える? そんなことばかりしていると、敵に襲撃された時に動けな――――」



 わたしが説教を言い終わる前に、二人の後ろにある木にザクッという音と共に鋭利なナイフが突き刺さる。テオドールとカルディアはゆっくりと振り返ってナイフを見上げた。



「「…………敵襲ぅぅううう!!」」



 テオドールとカルディアの耳を劈くような悲鳴と共に、敵が姿を現した――――





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