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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
14/150

14話 恋人たちの待ち合わせ

主人公ジュリアンナ視点に戻ります。

「これでいいかな……」


 わたしは手鏡を覗いて身だしなみを確認する。

 白のシフォンワンピースに手作りの薔薇のコサージュを付けている。

 暇な時間にお遊びで作ってしまった。でも、なかなかの力作。

 ちなみにこの薔薇は窓際に飾っていたサーモンピンク色の薔薇造花を使っている。

 濃茶色の髪は簡単なハーフアップにまとめた。

 年頃の女の子のデート風コーディネート。

行くのはデートじゃなくて、情報交換ですけどね。



 マリーに潜入報告書をライナス様経由でエドワード様に届けるように頼み、返信が返ってくるかと思いきや……ラブレターもどきの返信しか来なかった。

 もちろんジークからエレン宛だ。

 日時が指定してあって、今日がその指定日。

 確かに返信して欲しいと書いたけど、デートに乗り気な返信が来るとは……正直、予想していなかった。

 報告書の返信がないので今日の情報交換には行かなくてはならない。

 たぶん、エドワード様の部下が来るんだろうけど。


 死にそうな目に遭ったからって、ラブレターもどきでからかうなんて、やつあたりでしたね。

 大人げないですよね……わたし、成人前ですけど。

 それに何か嫌な予感がするのよね、憂鬱。


 そろそろ待ち合わせ場所に向かわないと時間に間に合わない。

 わたしは意を決して寮室から出た。



 階段を下りて玄関へ向かうとマーサとミリアがいた。

 ふたりともニヤニヤしていて気持ち悪い、正直今は関わりたくない。

 しかし、ふたりの前を通らないと寮から出られない。

 わたしは腹をくくって玄関までの道を歩いた。


 「エレン~、声かけないで行っちゃうの?」


 「おっ、気合十分だな!」


 やはり捕まった。

 わたしは嫌々……ではなく、ちょっぴり頬を朱に染めてふたりに向き合う。

 今はジュリアンナじゃなくてエレンですし。


 「おはようございます、マーサさん、ミリア。ふ、ふたりがニヤニヤしてて恥ずかしかったんです!」


 「何よー、おススメのカフェ教えてあげたでしょ!ちょっとくらいジロジロ見たっていいでしょー」


 「それはそれよ!」


 ジークからの返信が来てからこの一週間。

 ミリアを筆頭に色々な人にデートについてについて根掘り葉掘り聞かれて弄られ続けた。

 正直、ストレスが溜まりに溜まっている。


 「そういやシアナ公園に行くんだってなぁ、今は秋の花が見ごろらしいぞ」


 「へぇ、シアナ公園に行くんだ。 つまりカフェの後は恋人同士でまったりですかー?くぅー羨ましい!!」


 ミリアは現在、恋人募集中。

 あんまり恋人とは長続きしないタイプらしい。


 「もう、からかわないで下さい! マーサさん、明日の昼に帰って来ますね」


 「あいよー、ちゃんと外出届けだしてくれたし大丈夫。教会出るときは門番に声かけろよー、忘れんなよー」


 「了解です。では、いってきます!」


 「帰ったら話聞かせてねー」


 「デート頑張れよ、健闘を祈る」


 

 白の寮を出たわたしは門へと向かっていた。

 並木道を抜け、門が近づくと赤髪の門番が見えた。

 サムさんである。


 何食わぬ顔で門番をしているわ……なかなか器用ね。


 傭兵といえば戦うことに特化したものが多い。

 サバトの傭兵と教会の門番、二つの仮面を被っているなど、サムさんを見て気づくものはいないだろう。

 ずいぶんと多彩な傭兵である。

 本当はサムさんについて詳しく調査したいが、今は他に優先するべきものが多いため後回しだ。


 「あっ、サムさん! おはようございます」


 「あー、エレン嬢ちゃんか。3か月ぶりぐらいか? あれから失敗とかしてねーか?」


 「し、してませんよ!たぶん」


 「やっぱりしたのか……」


 「失敗は成功の元って言いますし、平気です」


 「お願いだから医療ミスはしないでくれ」


 「失礼な!しませんよー」


 ちらりとサムさんを観察する。

 背筋をピンッと伸ばした姿は数か月前と変わらない。

 つい10日程前に小規模とは言え、爆発に巻き込まれたのに。


 あの時、逃げることを即決して正解だったわ……。

 この人にわたしでは敵わない。

 馬鹿正直に戦っていたら、その場で殺されるか、拷問されて殺されるかのどちらかだったでしょうね……あ、どっちも最終的には殺されているじゃない。

 

 「で、何か門番に用か?」


 「はい。外出する前に門番に声をかけるようにってマーサさんが」


 「そうか。何時頃帰ってくるんだ?」


 「明日の昼ごろ帰ってくる予定です!」


 「了解。その服装から察するに……デートか?」


 「ふふん♪そうですよー」


 「エレン嬢ちゃんに恋人がいて、俺にいないだと……」


 「まあまあ、いつかいい人が見つかりますよ! い・つ・か」


 「ぐぬぬ……俺のピュアハートが傷ついた!」


 「そんなの知りませんよー。では行ってきますね」


 どんよりと暗い顔のサムさんを置いて、わたしは歩き出した。

 別に殺されそうになった仕返しじゃないです、本当にね?


 


 待ち合わせ場所の時計塔に向かう。

 門を出てからというもの、誰かにつけられている気配がする。


 確実にサバトの侵入者を警戒してのことでしょう。

 面倒な。

 しかし……おざなりな尾行ですね。

 人数は一人。こんなにも判りやすいなんて素人ですか?

 まったく、マリーならばわたしに悟らせずに完璧な尾行をすると言うのに。


 家を抜け出し、外に演技をしに行ったわたしは、よく家の者に尾行されていた。

 何度も捕まり叱られたわたしは異様に気配察知能力が高くなった。

 その結果、誰にも邪魔されずに演技ができるようになった。

 反省?そんなものする暇があったら役者としての能力を磨きます!

 しかしマリーがわたしの侍女になってからは撒くことが出来なくなった。

 気配すら感じないのである。

 最初は連れ戻されていたが、父に情報収集と言う名目で外に出ることが許されてからは、マリーは密かにわたしの護衛をするようになった。

 尤も、後でお小言を頂戴するのだが。


 でもそう考えると……ハルバードを振り下ろすギリギリまでわたしに気配を察知させなかったサムさんは、マリー並みの戦闘能力を持つのかもしれない。

 ああ、考えるのは止めます。今は己の生をかみしめましょう。


 

 時計塔が近づくと、金髪の男性が見えた。

 手紙で指定した通りの容貌である。

 あっ、眼鏡もかけてる……青の瞳?

 そのことに気付くと、わたしの中でまさかという考えがよぎる。


 まさか、まさか、まさか!

 近づくごとにそのまさかが現実だと思い知らされた。

 ああ、現実逃避したい。


 金髪に眼鏡の商人らしい風貌の青い瞳の男性。

 それは第二王子の部下――ではなく、第二王子エドワード様本人だ。

 どうしてこうなったのよ……。

 サイラス補佐官は保護者のくせに何をやっているの!


 わたしは思いきりエドワード様を睨みつけた。

 するとエドワード様は微笑んで「エレン」とわたしに優しく呼びかけた。




 こ の 腹 黒 王 子 が ! 仕 事 し ろ ! !



 わたしの内心の叫びはエドワード様には届かなかった。

 否、気付いて微笑んでいるのでしょうね。

 わたしは怒りを湛えながらエドワード様へと駆け出した。





 

やっぱりエドワードがジーク役になりました。

予想されていた展開だったと思います。

ちなみにサイラスは必死に止めました。

でも相手は鬼畜魔王、力及ばず現在は胃痛のため家で療養中。


次回はジークとエレンの殺伐?デートです。



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