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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第三部 ディアギレフ帝国編
137/150

131話 鈴蘭の因縁 3

マリー視点




「上等だ!」



 キールは私よりも先に飛び出すと、襲いかかってきた兵たちを斬り伏せる。

 私は彼を狙う弓兵にナイフを投げてそれを援護した。



「手負いの九九番がいても、彼らだけでは相手が難しいようですね」



 ロディオンは改めて剣を握り直すと、キールへ斬撃を放つ。

 ギンッと音を立てながら、剣と剣が交差した。



「ほう……やはり、中々の技量の持ち主ですね。まだ、剣筋が若いですが」


「ぐっ……」



 キールは歯を食いしばりながら、ロディオンの攻撃を受け止めた。

 防戦一方の彼の後ろに、剣を構えた兵が忍び寄る。



「危ない……!」



 私は咄嗟にキールの後ろにいた兵へナイフを投げる。

 ナイフは見事、兵の背中に突き刺さり地面へと倒れた。

 


(……まったく、自分の状況も把握できずに援護するなんて……私も馬鹿になったものです)



 無意識に獲物を手放したことで、今の私は著しく戦闘力が落ちている。それを見逃すディアギレフ帝国の兵たちではなかった。

 一人二人と私へ斬りかかり、それらを体術で躱し、沈めていくが再び獲物を持つ隙を与えてくれない。腹の傷もあって、私はどんどん追い詰められていく。



「死ねぇ!」



 背後から剣を振りかぶる兵に私は気づいていたが、身体がその反応に追いつかない。腕一本を緩衝材に使うことを覚悟しながら、歯を食いしばり私は左手を突き出した。



「――ぐぁっ」



 いつまで経っても、腕に痛みが奔らない。呻き声を上げたのは私ではなく、斬りかかってきた兵の方だった。



「やっぱり騎士に憧れる傭兵崩れは弱いな」



 そう言って斬りかかってきた兵の後ろから、燃えるような赤毛の男――紅焔の狼サムが現れた。

 私は驚きで目を見張るが、すぐに元の無表情へ戻る。



(新手……という訳ではないようですが)



 お嬢様の話では、サムは傭兵としてディアギレフ帝国に飼われていると言っていた。現に彼の服は、城内を警備する兵たちと同一。王都教会で相対したサムは雇い主を裏切ることを良しとしない、己の矜持を曲げるぐらいなら死ぬまで戦うような男だった。



(何故、この男が私を助けた……?)



 サムはハルバードで手近な兵を切り倒すと、私の隣に立ってハルバードをロディオンへ向けた。

 ロディオンはキールを蹴り飛ばして距離を取ると、サムを睨み付ける。



「一兵卒の分際で、軍を裏切るのですか? 立派な軍規違反になります」


「生憎、俺は根っからの傭兵でね。報酬を貰っている限り、雇い主の意向に従うだけだ。こんなしみったれた軍に好き好んで俺が服従するわけねーだろ」


「傭兵として軍に入ったのも、貴様の雇い主の命令ですか。九九番の反応から言って、どうやら彼女と雇い主は別のようだ」



 ロディオンはただただ冷静に、こちらをじっと観察する。



「……紅焔の狼、どうして私を助けたのですか?」


「雇い主の思いを汲み取るのも、できる傭兵の力でね。お前がいるってことは、黒猫のお嬢ちゃんが来ているってころだろう? それなら、加勢するのが正しい選択だ……!」



 サムは地面を蹴り、ハルバードを振りかぶってロディオンに渾身の一撃を放つ。



「鬼畜の犬! 黒蝶を連れてずらかるぞ……!」


「分かった!」



 キールはロディオンと打ち合うサムに背を向けて、私を抱えて走り出した。



「は、離しなさい……!」


「あはは! マリーは怪我人なのに元気だな」



 何度言っても私を離さないキールを諦めて、ロディオンとサムの様子を確認することにした。

 小規模な爆発音がしたかと思えば、白い煙幕が彼らの戦っていた周囲を覆う。それと同時に私たちを追いかけるように、赤い影が現れた。どうやらロディオンとの戦闘から離脱できたらしい。

 


「あの傭兵は良い奴だな! これでエドたちのところへ行けるぜ。遅刻すると昔からうるさいからな」



 ロディオンとの関係を詮索するでもなく、キールはいつも通りに私へ少年のように輝いた笑みを向ける。



「……貴方の脳天気は最大の才能かもしれませんね」



 私は脱力し、キールに完全に身体を預けて、お嬢様をお守りするための体力を温存するのだった。




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