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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第三部 ディアギレフ帝国編
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124話 人形の皇帝

 アヴローラ第四皇女の囚われている塔は、ディアギレフ帝国宮殿にあるという。

 そのため、わたしたちは早急に宮殿へ潜入しなくてはならなくなった。

 アヴローラ第四皇女がいなくなったら、導師グスターヴが精鋭を使って追ってくるだろうとイヴァンはが予想していたので、できることならマリーとキール様を連れて潜入したい。

 そこでカルディアとテオドールが考えた作戦は――――



「お初にお目にかかります、皇帝陛下。今宵は我ら黒猫劇団の演目をごゆるりとお楽しみください」



 わたしとエドワード、それにキール様とマリーはディアギレフ帝国宮殿の宴の間で、深々と頭を下げた。



(まさか、旅芸人を演じていたわたしとエドワードが、皇帝の耳に入るほど噂になっていたとは思わなかったわ)



 セラフィム皇帝は毎夜、楽師や踊り子、旅芸人などを城に招き入れ宴を開いているという情報を手に入れたカルディアとテオドールは、積極的に黒猫劇団のことを帝都で広めた。

 イヴァンとの交渉の後、黒猫劇団はマリーとキール様を加えた四人体制で演目を行ったところで、狙い通り役人に声をかけられ、皇帝の前で演目を披露することになったのだ。



「まずは剣舞からお見せいたします」



 手足に鈴を括り付け、四人で剣舞を踊る。

 シャンシャンと軽やかな音を鳴らしながら、円を描くように回り、剣を中心に突き立てて華に見立てた。わたしたちの剣舞に、宴の客たちは釘付けだった。



(……あれがセラフィム皇帝と導師グスターヴね)



 剣舞を踊りながら、わたしは一際豪奢な椅子に座る二人を横目で観察していた。

 セラフィム皇帝は病のせいか、十代前半の少年にしては幼く見える。彼の目はがらんどうで、わたしたちの剣舞もただ目に映しているというだけといった様子だ。



(イヴァンの言っていた通り、セラフィム皇帝はお人形のようだわ。……本当に恐ろしい)



 導師グスターヴは、一見穏やかそうな普通の男に見る。歳は五十代半ばぐらいだろうか。白髪交じりの茶髪に、聖職者の服のようにも見える白衣を着ていた。しかし、彼の碧の瞳には、底知れない空虚さをわたしは感じた。

 導師グスターヴは満足そうに頷くと、セラフィム皇帝に笑いかける。



「今宵は当たりですね、陛下。これほど洗練された剣舞を平民が踊れるとは……いやはや、旅芸人も馬鹿にできない」


「……そうであるな」



 セラフィム皇帝はボソリと抑揚のない声で呟いた。



(こんなにも近くにいるのに、手が出せないなんて……歯がゆいわ)



 ディアギレフ帝国の実権を握っている導師グスターヴを排除すれば、ローランズ王国は此度の戦に勝利できる確率がぐんと上がるだろう。

 しかしそれでは、両国の間に遺恨が残る。それに厳重な警備の敷かれたこの場所では、わたしたちは皇帝の側まで行くこともできない。



(やはりセラフィム皇帝との直接的接触は諦めて、カルディアとテオドールの計画通り、夜明け前に決行ね)



 剣舞を踊り終えると、今度は演劇に取りかかる。

 まだ宴は始まったばかりだ。


 



 

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