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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第三部 ディアギレフ帝国編
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120話 お騒がせな黒幕


「な、なんでもないわ」



 わたしは慌ててイヴァンから離れる。

 すると、エドワードが何かを恐れるように、わたしを強く抱きしめた。



「……お前を失ってしまうかと思った」


「大袈裟ね。わたしはここにいるわ」


「行動力があるのは素晴らしいが、あまり心配をかけるな」



 エドワードはわたしの頬に手を添えると、柔らかな笑みを見せる。



「それで? 何故、見知らぬ男と手を握り合っていた」



 一気にエドワードの笑みが氷点下に落ちた。

 ばつの悪くなったわたしは彼から目を逸らそうとするが、ガッチリと顔を掴まれて身動きがとれない。わたしは諦めて、エドワードの双眸を見つめる。



「エドワードも彼とは初対面じゃないわ。ポーカーゲームをした酒場の店主よ。……正義の怪盗の正体でもあるけど」


「……目立った特徴がないから、顔なんて覚えていなかったな。……俺の妃と知って、ジュリアンナに手を出そうとしていたのか?」



 エドワードはイヴァンを睨み上げた。

 だがイヴァンはそれに堪えた様子はない。



「そんな恐れ多いことはしませんよ。私とジュリアンナ様は演技で遊んでいただけです。いやはや、よい友人になれそうだ」


「……ジュリアンナと友人だと?」


「もちろん、エドワード王子ともですよ。貴方がジュリアンナ様を追いかけてくる人で良かった」



 イヴァンは一頻りと笑うと、エドワードに一礼した。



「私の名はイヴァン。怪盗業を営んでおりますが、その傍らで革命政府の指導者なんかもやっております。この度は突然の招待に応じていただき恐悦至極に存じます」


「……怪盗が革命政府の指導者ですって?」


「俺たちをここに来させた理由はなんだ?」



 わたしとエドワードがイヴァンに疑問を投げかけた瞬間、部屋の中が暗闇で満ちる。窓を見ると、いつの間にか外からシャッターを閉められていた。



「敵襲か!?」


「お嬢様、私の後ろにお隠れください」


「お願いね、マリー」



 暗闇の中だが、ぼんやりと見えるマリーの背中を見てわたしは少しだけ安心した。

 廊下からカツンカツンとピンヒールで歩く音が聞こえる。その音は徐々に近づき、開け放たれた扉から真っ黒い喪服を着た女が、ランタンを持って現れた。



「理由? 人が命を賭けるのは、愛のためと創世記から決まっているだろう。だから私は物語を紡ぎ続けるんだ」


「カ、カルディア!? 貴女、どうしてディアギレフ帝国にいるの!」



 喪服の女は、わたしの親友……カルディア・レミントン前男爵夫人だった。

 何故、どうしてと、疑問が尽きないが、カルディアはいつも通りに艶然とした笑みを浮かべるだけで、わたしの質問には答えてくれない。

 


「さあ、軍師殿。そろそろ登場のお時間だ」



 カルディアがパチンッと指を鳴らすと、今度は天板が外れて大きな人影が降りてくる。



「アンナと殿下が到着したから、やっと私も楽ができそうで安心したよー」


(……このやる気のない言動は、まさか……嫌な予感がするわ)



 本能が警告した通り、カルディアのランタンで照らされた人影の顔は、わたしの良く見知った男だった。



「テオドール。お前はオルコット領で戦の指揮を執っているはずだろう!」


「ええー。そんなに怒らないでよ、殿下。耳がキンキンするよー」



 エドワードがテオドールに掴みかかるが、彼は耳を押さえてヘラヘラと笑っているだけだ。

 カルディアとテオドールのふざけた態度に怒りの沸点が越えたわたしは、できるだけ穏やかに優しく微笑んだ。



「テオ、カルディア、こんなところで何をしているのかしら?」


「「ちょっと隣国を革命しに」」


「そこに直りなさい!」


「「はぃぃいい!」」



 扇子で自分の手のひらを思い切り叩くと、カルディアとテオドールが怯えた目をしながらわたしの前に正座した。

 



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