112話 嫉妬のポーカーゲーム 3
一階へ降りると、そこには大勢のギャラリーが中央にある円卓を囲んでいた。
既に準備は終えているようで、円卓の中央にはご丁寧にカードが置いてある。
(……準備が良すぎるわね。一体、何を考えているの?)
僅かに警戒心を抱き、勝負を仕掛けてきた男たちを窺う。
すると、小声で背の高い男が呟いた。
「……調子に乗れるのも今のうちだぜ。大勢の前でこき下ろして、奴の彼女を奪ってやる」
(あ、実に単純でくだらない動機で安心したわ)
わたしとエドワードは何も知らない振りをしながら椅子に座り、円卓越しに彼らと向かい合う。
席は四つ。エドワード・わたし・背の高い男・恰幅のいい男の順だ。勝負を仕掛けようと鼻息を荒くする彼らに、エドワードは制止をかけた。
「アンナはルールをうろ覚えなので、私の次ぎに勝負してもいいですか?」
「かまわねーよ」
「しっかりとルールを覚えな。まあ、お嬢さんが出る暇もないかもしれないがな」
「私に格好付けさせてくださいよ。どうぞお手柔らかに」
暗に速攻ですかんぴんにすると言っているが、エドワードは嫌みに気づかない振りをしてニコニコと笑っている。逆に怖い。
「ディーラーは店主の私が行いますね。さあ、ギャラリーの皆さん! 勝敗をどちらに賭けるのも結構。ただし、酒と料理を観戦のお供に必ず注文してくださいね。タダで見たら出禁にすんぞ! あ、酒のおかわりは大歓迎なので、どんどんお願いしますねぇ」
店主がそう言うと、ドッと笑いがおきる。「この悪徳店主!」と野次を飛ばす人もいて、随分と雰囲気が和やかになった。
「まずは順番を決めますか。ではクジを引いてください」
店主が握った棒を、背の高い男と恰幅のいい男、それにエドワードが引いていく。赤い印が付いた棒を背の高い男が引き当てる。彼はエドワードの左隣で、そこから時計回りに回るため、わたしたちの順番は一番最後になる。
「では、ゲームを始めましょうか」
店主は円卓の上にあるカードをシャッフルし、勝負をしかけてきた男二人とエドワードの三方向へとカードを配った。
そして第一ラウンドが始まる。
「まずは参加料を払おうか」
カードを伏せた状態。エドワードのかけ声で、プレイヤーの三人が銅貨一枚を円卓へ置く。
それを確認した後、三人は同時に自分の手札を確認した。
(……ワンペアすらないのね)
イカサマを防ぐためか、手札は周りのギャラリーから見えないようになっている。
しかし、ルールを思い出すためという前提のあるわたしは、エドワードの手札だけはしっかり見えていた。
(ディーラーの店主が、勝負を仕掛けてきた男たちとグルになっているということは、考えたくはないわ)
わたしの心配を余所に、エドワードは文字通りのポーカーフェイスで決して手札の弱さを悟らせない。
「ベット! 二枚チェンジ。 今日の飯代はいただくぜ?」
一番目の背の高い男が、円卓に硬貨を投げ入れ、ディーラーからカードを二枚もらう。
男の言葉通り、一人分の夕食代ほどの金額だ。最初のラウンドは様子見ということだろうか。
「コール、一枚チェンジ。今日は酒がうまく飲めそうだ」
次いで恰幅のいい男が、一番目と同じだけの賭け金を円卓に置いた。
そしてエドワードの番が回ってくる。
「私もコールで。三枚チェンジかな。食費が浮くのは有り難いね」
エドワードはそう言うと、懐から二人と同じ賭け金を取り出し、円卓に置いた。
(最初だから、エドワードも様子見ということね)
わたしは納得して、勝負の成り行きを見守りつつ、ギャラリーの様子を見た。
皆、酒と料理に夢中で、実際に勝負を真剣に見ているのはごく少数のようだ。
「さて、勝負!」
店主の声かけで、プレイヤーの三人が円卓に役が見えるかたちで手札を置いた。
わたしはエドワードの役に目を見開く。
いつの間にか、全てのカードが変わっていた。
「「「ロイヤルストレートフラッシュ!?」」」
ギャラリーと他のプレイヤーが、エドワードの役に驚愕の声を出す。
そしてわたしは「エド、すごーい!」と言って、無邪気にはしゃぐアンナの演技をした。
(先制ロイヤルストレートフラッシュって、何をやっているのよ! どう見てもイカサマしてますって言っているようなものじゃない!)
わたしは内心で頭を抱えた。