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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
11/150

11話 悪魔たちの狂演

急にブックマークが増えてる!?と思ったらランキングに載っていました。

驚きです、ビックリです、驚愕です…って全部同じですね(笑)

皆様に楽しんでいただけるようにこれからも精進いたします。



※今回は残虐なシーンと性描写が含まれます。

 苦手な方はお気を付け下さい。


 マリーに会った日の深夜。

 わたしは先日の禁止区域と言う名の怪しげな通路にいた。

 シスターの黒色修道服に身を包み、足音を立てないように歩く。

 隠密を演じたことがあるので気配を消すのは簡単だ。


 やはりおかしいわね。進んでも進んでも窓がない。

 今日は満月だけど、窓がないからもちろん月光は差さない。

 真っ暗な暗闇が広がるだけ。

 そう、まるで悪魔が好みそうな……ね。


 遠くから微かに音が聞こえた気がした。

 床に耳を当て、音の真偽を確かめる。


 足音、ね。数は……8人?いえ、もっと大勢いるわね。

 団体かしら?


 慎重に歩を進めると、赤い光が漂っていた。

 通路から様子を窺うと、ぞろぞろと大勢の人々が歩いている。

 性別・年齢の違う集団。共通しているのは着飾った礼服に派手な仮面。

 まるでこれから仮面舞踏会に行くような出で立ちだ。


 場所が王都教会の秘された場所でなく王宮ならば自然だったでしょうけど、今は違和感……いえ、これから悪魔崇拝の儀式を行うのならば正装なのでしょうね。


 仮面集団の後をつけると、豪奢な扉の奥へと入って行くのが見えた。

 全員が扉の奥へ入ったのを確認すると、辺りの気配を確認して中の様子を窺う。


 これは……ホールかしら?まるでオペラ座のよう。

 

 色彩は赤と黒を基調としている。

 通路には赤の絨毯が敷きつめられ、豪奢な印象を与える。

 ホールの中心が舞台のようになっていて、それを円で囲むように観客席と通路がある構造だ。

 幸いにも先程の仮面集団は舞台の上にいたので、わたしは難なく通路にある死角へと潜り込めた。


 息を顰めて様子を窺うと、舞台袖から一人、神父服を着た仮面の男が出てきた。

 男は仮面集団を一瞥して頷くと、高らかに宣誓する。


 「ようこそ皆様! お忙しい中、今宵の崇高なる儀式に足をお運びいただき感謝いたします。不肖ながら儀式の進行は私が勤めさせていただきます。どうぞ、私のことはマスターとお呼び下さい」


 とんだ大根役者ね。これなら7年前のエドワード様の方がマシよ。

 声から察するにミハエル神父ね……神父のトップが何やっているんだか。

 仮面集団が教会派貴族共でこれから行う儀式はサバトで間違いなさそうね……予想が当たり過ぎてげんなりするわ。 


 わたしは万が一の襲撃に備えて、用意していた黒猫の仮面を被った。

 じっと観察していると、舞台袖から数人の白仮面の男が現れる。

 男たちの手には鎖が握られており、その先には手かせの嵌められた10人ほどの子ども達がいた。

 子ども達は身綺麗な白い服を着せられているが、目には生気がなく虚ろだ。

 もはや"壊れて"しまったのだろう。


 「いやー!いやー!!」


 最後尾にいた金髪の幼い少女から発せられた声だった。

 少女には黒い豪奢なドレスが着せられている。まるで特別扱いだ。

 また、抵抗できるだけの生気を瞳に宿している。


 それだけの精神力を持っているのか……それとも、わざと抵抗させる意思を残しているのか。

 いずれにしても悪趣味なことこの上ないわ。


 「さて今宵、悪魔へと捧げられる子羊たちです! 特にこちらの金色の子羊は特別。先々代の国王陛下を暗殺者から守り爵位を賜ったマーシャル男爵家の末娘、ニーナ嬢です。彼女の無垢な心はきっと悪魔の善き贄となるでしょう!」


 マーシャル男爵家……確か末娘が先日馬車の事故で死んだはず。

 サイラス補佐官の資料ではマーシャル家は今代の当主に変わってから国王派から教会派へと変わったと書いてあった。それに事業に失敗して、没落寸前だとも。

 つまりあの子は親に売られたってこと?


 「まあ、可愛らしい子ね」


 「早く儀式を!」


 「甘美なる光景を!」


 興奮したのか、仮面集団が騒ぎ始めた。

 聞こえた声の中にはわたしの知る声も混じっていた。

 それらを脳内に刻み込み、成り行きを見る。

 これから行われるであろう惨劇は簡単に予想がつく。

 本来ならば助けに行くべきなのだろう。

 しかしそれは、わたしがが助けられるだけの力がある場合だ。

 今わたしが飛び出して何ができる?

 精々生贄が増えるだけで何も解決しない、ただの自己満足の偽善。


 わたしにできるのは子ども達の行く末を見届け、忘れないこと。

 そして……それを無駄になんてさせないことよ。


 

 白い服の子ども達が白仮面の男たちによって順に殺されていく。

 ナイフで首を切り落とされる子、腸を抉り出され絶命する子、メッタ刺しにされる子、足の先から小さく切られて徐々に失血死へと追い込まれる子、無理やり熱した針を呑みこまされる子、生きたまま眼球を抉り出されてそれを交換させられた子たち、四肢を切り落とされた子、顔を認識できないほど切り刻まれた子。

 子供たちは悲鳴1つ上げなかった。それほどまでに精神が壊れてしまっていたのだ。

 仮面集団は1人また1人と殺されるごとに歓声を上げ、盛り上がる。

 わたしは瞬きもせずにそれらを見ていた。


 9つの屍ができると、白仮面の男たちはそれらに長い棒を突っ込んだ。

 先端には布がついているらしく、すぐに真っ赤な汁を吸い上げる。

 それを使い、舞台の中央で何か書き始めた。

 出来上がったのは奇妙な陣。恐らく魔方陣と呼ばれるものだろう。

 この世界には魔法何てお伽噺のような概念は存在しない。

 もちろん悪魔もだ。


 「うぁ、うぁ、あ、ああああ」


 黒いドレスの少女――ニーナが9つの屍を見て、恐怖に駆られていた。

 当たり前だろう、次は自分だと思っているはずだ。


 「さて、メインディッシュを捧げましょう!」


 そう宣言するとミハエル神父はニーナの元へ近づき、無造作にニーナの金髪を掴んで陣の中央へと引き摺る。

 ニーナは必死に抗うが、手枷のついた状態ではミハエル神父に鼻で笑われるだけだった。

 陣の中央へ転がされたニーナは逃げようと這いつくばる。


 「いやぁ……、兄様ぁ、アル兄様ぁ、助け゛――――」

 

 ミハエル神父が片足でニーナを転がし、仰向けにさせる。

 すると白仮面の男が差し出した黒い槍で、ミハエル神父自らがニーナの胸へ迷いなく突き刺した。

 ひゅーひゅーと少しの間だけ舞台でニーナの息遣いが聞こえた。

 すると仮面集団たちが一際大きな歓声を上げた。


 「ああ、我らが父よ――」


 「悪魔様、どうかわたくしの願いをお聞き下さい!!」


 「なんと美しい……」


 恐怖の形相で絶命したニーナを見て、仮面集団たちは興奮を隠せないでいた。


 「悪魔様はまだ足りぬとおっしゃっています。さあ、我らで享楽と堕落の世界をつくるのです!!」


 ミハエル神父の叫びに舞台の興奮は最高潮となった。

 突然仮面集団たちが礼服を脱ぎ、あるいは剥ぎ取るように脱がせる。

 そして濃密な血の匂いの中で男女入り乱れ、淫蕩な行為をし始め快楽を貪る。

 相手を変え、趣向を変え、交わる仮面たち。

 それらの醜悪な行為はニーナの亡骸を取り囲むように行われた。


 狂っているわ。

 悪魔より悪魔らしい人間たち……なんて、おぞましい。


 ぎりりと奥歯を噛む。

 ふと、右手からぬるりとした液体がつたう。

 どうやら手を強く握りしめて、爪が食い込んでいたようだ。

 ハンカチを取り出し、血をふき取る。

 本当は手にハンカチを巻きたかったが、万が一誰かに見つかった時に手負いだとバレるのは避けたい。

 

 「わたしもまだまだね……」


 子供たちの死に憤りを感じていたらしい。

 きっと殺されたのが仮面集団やミハエル神父ならば、わたしは何の感慨も抱かない。

 所詮は自分の大切なものたちの範囲外だからだ。

 存外わたしも酷い人間である。

 しかし子ども達はこれからこの国を支える人材となりえる可能性があった者たちだ。

 勉学が優秀な者、人付き合いが上手い者、武の才能を持つ者などがいたかもしれない。

 才能などなくとも、この国を愛し誇りに思ってくれる大人になったかもしれない。

 そんな可能性の塊を奴らは己の愉悦のための道具としたのだ。

 

 「悪魔崇拝は国家への反逆よ。精々今は快楽を楽しんでいればいいわ。そしてわたしは自分に課された役を演じるだけよ」


 そう小さく呟くとわたしは、今だ狂演が続く舞台を後にした。

 




 気配を探りながら通路を進む。

 時折、白仮面をつけた男や女が走り回っている。

 おそらく警備やサバトの雑用を担う者たちだろう。

 通り過ぎるのを見送りながらわたしは接触しないように気を付けた。


 行ったわね……。


 帯剣した警備の者が過ぎ去ったのを確認して、わたしは通路を進もうとした。

 しかし、一瞬の殺気を感じ取ったわたしは勢いよく振り返る。


 ――――!?



 わたしの眼前に暗闇の中で光る銀の閃光が迫っていた。

 






 



 


 



評価・ブックマークありがとうございます。

特に連載初期からブックマークしてくれた皆様、ありがとうございます。

次回更新はなるべく早くお届けできたらな……と思います。



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