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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小人の世界に召喚された結果

作者: 蚊とんぼ

 子供の頃、親によく言われたもんだ。

「ばたばたと大きな音を立てて歩くじゃありません!」てな。


 昔の俺はその教えをよく守って、どんな場所でも音を立てないよう気を付けて気を付けて歩いていた。

 漫画の影響もあったな。敵味方問わず、クール系のキャラって足音を消して動く奴が多いし。

 まあ、さすがに漫画ほどうまくはいかないけど、音消して歩ける俺かっこくね? って思った時期もあった。音を消して歩くのがいつの間にか習慣になっていることに気が付き、一人でニヤニヤしたこともあった。

 うん、若いな。口に出して言ったことがなくて本当に良かった。


 で、だ。

 俺は今、子供の頃からのこの習慣に、大いに感謝している。

 躾けてくれた両親よ、お気に入りの漫画達よ。ありがとう、本当にありがとう。

 おかげさまで、俺、余計な被害を最小限に抑えられてます。




「勇者さまー! もっと、もっと、そーーーっと歩いてくださいー!」

「あー、そこは駄目! そこ踏んじゃ駄目! 右です、右! もっと右ですー!」




 足下から魂の絶叫が聞こえる。

 いや、ほんと、声の限りに叫んでいるんだ。

 俺のために、国で一番声がでかい奴を探して来てくれたってことも、よーく知ってる。

 お供の魔術師も、拡声魔法がうまく使える奴を選んで付けてくれたってこと、よーく知ってる。

 でもね、正直、それでギリギリ聞こえるか聞こえないかというレベルなんです。


 だって、君達、ちっちゃいんだもの。

 でかい奴で俺の小指くらいしかない、小人さんなんだもの!



「お、あれが魔王城か?」

「え!? 見えたんですか、勇者様!?」

「あー、多分。禍々しいなぁ」

「あ、それ違います! 王城から一番近いその手の城は、先代王妃様の別邸です!」

「王妃様なにがあった!?」



 思わず全力でツッコミを入れ、その衝撃で世界が揺れる。

 お供の二人……国一番の大声を買われた案内役のダントンと、普段講演会くらいしか仕事がないというジョン君が、泡を吹いて気絶した。二人が乗っていた馬も同様である。……この馬、騒音訓練、頑張ったのにな。


 足下も危険極まりないが、俺の体の上はどこも半端なく揺れるし、高度がありすぎて凍え死にかねないという理由で馬に乗ってもらっていた。だが、それでもやはり、俺の絶叫を受けるには近過ぎたらしい。

 ジョンが対俺用に防護魔法を使ってるって話だったんだけど、まだまだ未熟なようだ。拡声魔法なら随一らしいけどな。ごめんよ、頑張ってレベルアップしてください。

 心の中で謝罪をしながら指先でそっと摘まみ上げた。俺が歩くせいでみんな逃げたが、一応この辺りも魔物が出る地域である。目が覚めるまで、両手でそっと包んでおこう。ああ、バッタを捕まえた幼き日を思い出す。


 ガリバーもこんな気分だったのかな?

 ちゃんと読んだことはないけど、地球に帰ったら絶対に読もう。きっとすごく共感できる。泣きながら読める自信がある。


「あー、もう、魔王だか何だか知らないが、さっさと踏み潰して終わらせてぇ……」


 溜め息という名の強風を吐き、魔王城を目指してまた一歩、そっと歩き出した。

 そーーーーーっとな!







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼








「あれが魔王城か」

「はい、確かに!」

「遂に辿り着きましたね!」


 俺の手の平の上で、ダントンとジョンが歓声を上げる。

 ここ数日で二人ともすっかり逞しくなった。腰の高さまで下ろしているとはいえ、俺の手の平に乗っても酔わなくなったし、寒さにもある程度まで耐えられるようだ。

 まあ、寒さに関しては俺のポケットに入っていたハンカチのお蔭でもあるのだが。……毎朝「ちゃんと持った?」と確認してくれた母ちゃんよ、うるせーなーだなんて思ってた俺をお許し下さい。めちゃくちゃ感謝してます。

 あ、馬は魔族の領内に入る前に預けました。相当グロッキーだったので。


 さて、魔王城だ。

 この世界の建物はどれもこれも小さく、魔王城とて例外ではない。しかし、それでもこの城、今まで見たどんな城よりも大きいぞ。この世界基準でとはいえ、これは脅威だ。


 なんと魔王城、最上階が俺の胸元近くまであるのだ!

 俺もあまり背の高い方ではないが、それでも170は……四捨五入すればある。その胸元まで、だ。

 魔王よ、いい仕事してるな。まあ、俺が台無しにするんだが。


「よし、やるか。ちょっと寒いだろうが、胸ポケットに入ってくれ。あと揺れが酷いと思うが……それは我慢して」

「りょ、了解です!」

「あ、防護魔法かけ直すのでちょっと待ってください!」


 ジョンが何やら呪文を唱えるような動きをすると、ダントンとジョンの上にきらきらと光る何かが降り掛かった。うん、綺麗だな。魔族から身を守る光ではなく、俺から身を守る光だってのが申し訳ないがな。

 「終わりましたー!」と身振り手振りを交えて伝えて来たのを確認し、そーっと胸ポケットまで運ぶ。二人が素早く潜り込んだのを確認し、さてと魔王城に向き合った。


 魔王も慌てただろう。こんな巨人が攻めて来たんだ。

 実はさっきから足下を小さい奴等が一生懸命攻撃しているみたいなんだが、ごめんなぁ。あんまり痛くないんだ。


 召喚された時に、身体強化のチートが付けられてたから。


 ……あかん、召喚ものの鉄板だけど、本当に理不尽だと思うよ、このチート。

 まあ、俺を召喚した小人さん達も、まさかこんなのが出て来ると思わないもんな。できるだけ強化された勇者が出て来て欲しいと思ったらチート付けるよな。仕方ないよな。崩壊した王城の修復工事手伝ったんだし、許して欲しいな。

 でもね、痛くはないけど、くすぐったいんです。むずむずします。ああ、もうさっさと終わらせよう。


「はい、ごめんよー……いしょっとお!」


 体当たりはしない。小さいとはいえ、建物だ。まともに当たれば痛そうだ。


 だから、蹴りました。ヤ○ザキックで。城の最上階を、えいやって。


 結論を言いましょうか。魔王城、脆かったです。でもって、怖かったです。

 城の一角を崩したら色々飛んで来たんで、背筋ぞわっとして滅茶苦茶に暴れちゃいました。飛ぶなよ、魔族! 羽虫みたいで怖いんだよ! 俺、虫大っ嫌いなんだよ!

 あと、魔王っぽいのを見付けたから、頑張って踏み潰しました。影武者じゃないと思います。一発二発じゃ死ななかったから。

 うーん、罪悪感と嫌悪感。こう、ちょっと大きめの虫潰すのと同じような感覚。一発で仕留められなかったせいで、余計な苦しみを与えてしまった。ごめんなぁ、魔王。成仏してくれ。


 配下の魔族達も散り散りに逃げて行く。

 深追いはすまい。小さ過ぎて面倒というのもあるが。


「よし、二人とも、もういいぞ」


 ポケットの中に声をかける。

 滅茶苦茶に暴れたし、思わず大声も上げてしまったが、二人はギリギリ意識があった。そして、顔面蒼白なくせに、俺に賞賛と労いの言葉をくれた。

 本当に、本当に、逞しくなったなぁ。俺よりお前等のが勇者だよ。



「さあ、帰ろうか。お前等の国へ」

「はいぃぃ……」

「ありあと、ございますぅぅ……」



 こうして小人の世界は救われた。

 送還の魔法によって、俺は無事に日本に帰った。

 誰に話しても信じてもらえないが、この数日間の戦いは俺の大事な思い出だ。

 ダントンもジョンも、俺のかけがいのない友人だよな。俺が帰る時、泣いて別れを惜しんでくれたのあの二人だけだったし。……うん、俺と長く一緒だったせいで感覚麻痺させちゃったのかな。ごめんな。


 あ、音消して歩くの、前より上手になりました。





end.

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませていただきました。 確かに召喚チートの行く先はこういう自分が優位になれる世界での無双ですものね。 いつかこれが真面目に書かれる日が来るかもしれませんね。
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