第五話 僕らは何時でも一緒
「あの日は、とても素晴らしい、快晴の日だったんだ」
古代妖精の言葉に、全ての人が緊張する。
今まで表に出てこなかった真実が、語られているのだ。
「あの時も、僕はあの石の中に封印されたまま、一日を過ごすのだろうな、って思っていたんだ…」
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僕が何故あの石の中に封印されていたか、と言うと、僕がルーファリウムの近くの森で木の実を取ってたときに攫われたからなんだ。
確か、それこそルグルードだったと思うけど…まぁ、どうでもいいや。
で、魔王の城に近くて、目立たない石の中に封印されたんだ。
理由はルーファリウムに混乱を起こすことだって、言ってたよ。
長耳族の皆は僕を、まるで神様の様に見ていたからね、大混乱さ。
でも、そんなルーファリウムを救ってくれたのが、ソウマ君達なんだってね。
で、あの日もやる事…出来ることが無かったから、空を眺めていたんだ。
そうしたら、人が来たんだ…そう、勇者一行だよ。
僕の目の前で…封印されていた石の前で、ソウマ君は拷問じみた行為を受けたんだ。
手を地面に剣で固定されて、殴る蹴るの暴行を、ログナーに受けた。
他の人たちの内、何人かが止めにいったけど、ウィルティオ、パトリシア、クロム、カルミアに武器を向けられて、動けなかった。
友達を拷問している奴に協力してるからって言っても、魔王を殺した仲間だから、殺し合いになるのは避けたかったんじゃないかな?
で…最後にログナーは僕の封印されていた石を蹴って上に跳び、ソウマ君の背中にエルボーを決めた。
それより前からずっと暴行を受けて、血が結構流れていたのもあるんだと思うけど、その一撃でソウマ君は気絶しかけていて、なんも反応しなくなった。
それを死亡したと勘違いした他の勇者一行は、ある人は泣き、ある人は怒り、ある人は現実を受け入れられないまま、その場を立ち去った…ログナーは笑って、パトリシアは肩の荷が下りたのか大きく息を吐いていたのを覚えているよ。
そんな事が目の前で起きて、僕は最初、何がなんだか分からなかったんだ。
一緒に行動してたから、多分10人皆仲間なんだろう、なら何故仲間割れしたのか、ってね。
そこで、死に掛けてはいるし意識は無いけどソウマ君を回復させて、話を聞こうと思ったんだ。
で、最上級の回復魔法をこれでもかって位に使って、ソウマ君は完全回復したんだけど、気絶したまんま。
だから、取りあえず気絶から起きるまでは結界を張って待っていたんだ。
起き上がったのは、夜中になったけどね。
で、起き上がったソウマ君に、僕は自己紹介した。
『僕はアリス、古代妖精だよ』って。
『俺はソウマ、さっきまでは勇者一行の仲間だったんだけど…今じゃ死亡扱いの、肩書き無しの人間さ』って、白い歯を見せながら親指を立てて言ってきたんだ。
『仲間に殺されかけたのに、君はなんでそんなに元気な風に振舞っているんだい?』って聞いたよ。
『慣れてるから』って返ってきたときは、どう反応して良いか分からなかった…
『俺の髪、灰色だろう?』って言ってきて、少し分かったんだ。
灰色の髪は異端の証だって、聞いたことがあったから。
『髪の色で魔法の適正が1個は分かるのが、この世界の常識だ。黒は闇魔法、白は神聖魔法、赤は炎魔法…様々な適正が分かる。じゃあ灰色は?無、だ。なにも適性が無い。魔法が使えない。そういう奴らを、この世界では異端として纏めて、排除しようとしてくる。異端の者に暗殺者を近づけ、仲良くして油断させ、殺したりとかな…俺も、そんな目に何回も遭った。だから、慣れたんだよ』
そう言ったソウマ君の顔を、ハッキリと覚えている。
悲しさと、諦めと、怒りと…それらが混ざった、複雑な表情だった。
『仲間って呼べたのは、ユーマ…いや、今はもう仲間ではないから、ちゃんと『勇者』って呼び方の方が良いか?『勇者』『大賢者』『鉄壁』『粉砕者』って呼ばれてた4人と、一緒に居てくれた魔物達だけ…その魔物は、今魔王城で敵の大群を相手に時間稼ぎしてくれているはずだ。まずはそいつ等を助けて、その後は…復讐だ』
そう言ったんだ。
『俺を殺したログナーを…俺の仲間に武器を向けたあいつ等を、許さない。幾ら俺が裏切られるのに慣れているからって、仲間も巻き込んだんだ。恐らく計画したんだろうログナーは何があっても許さない。他のやつらも、会った時反省してなかったら許さない。少しでも反省していたんなら、罰を与えて許してやる』
そう言ったソウマ君の顔には、ちょっと前に浮かべていた複雑な表情は無かった。
あったのは、やる事を決めて、それに向かって頑張るぞ!って顔。
そんなソウマ君に、興味を持っちゃったんだ。
『じゃあ、僕も連れて行ってよ』って、僕はソウマ君に言った。
『僕は、君を髪の色なんかで差別しない。魔法が使えないなら、僕が君の中に入るよ。妖精が、気に入った人族の中に入って、魔力を高めてくれるって話は知ってる?古代妖精の僕が入ったら、例え魔法が使えない君でも、きっと魔法が使えるようになるよ。そうしたら、世界で最初の、魔法が使える灰色の髪の人族になれるかもね!』
ソウマ君に聞いた話だとね、僕、微笑んでいたんだって、その時。
特にそうした記憶は無いんだけどね…気遣って言ったんじゃない、本当の気持ちだったから?
まぁ、僕はそう言ったんだ。そうしたら、ソウマ君、泣いちゃったんだ。
『有難う』って何回も、僕に言いながら。
『良いの良いの、君は悪くないんだ。髪の色なんかで差別するこの世界がいけないんだ』って良いながら、頭を撫でてあげたよ。
その後は、魔王城に乗り込んでソウマ君の仲間を助けて、再会したルグルード(重症につき戦闘不可)と数時間もかかった話し合いの末、魔王(仮)を名乗って人族大陸との会談を開くことにしたんだ。
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「って感じだよぉ。あー、真面目に話すの疲れたよ。ソウマ君、褒めて褒めてぇ~」
「はいはい、お疲れ、アリス」
さっきまで真面目に話していたのに、急に子供っぽくなったアリスを、ソウマは撫でる。
そんなのほほんとした雰囲気とは違い、他の人族は、固まっていた。
髪の色で差別されてきた人物は、とても多い。
しかし、殺そうとしてきたなんて話は、初めて聞いたからだ。
それは、彼の親友達を含めて、である。
「…なんで、そんな重要な事を言わなかった…!そんな、お前を殺そうとしてきた奴がいるなんて、知らなかったぞ、ソウマ…!!」
「私も知らなかったぞ、ソウマよ。言ってくれれば、暗部でも派遣して炙り出してやったのにのぅ」
ユーマとカルディアルナ王が言った言葉に対し…
「ん?だって、俺が信用できる人は少ないんだ。巻き込みたくないからさ…」
「…お前が、誰よりも戦果を挙げているのは、俺達全員が知っているんだ。お前が欠けていたら、きっと魔王は倒せなかっただろう。それに…俺達は仲間だ。もっと頼れ」
「まったくだ。もっと俺達を頼れよ!鍛冶師族の、この鋼とも言われる筋肉を貫ける暗殺者なんざそうそういねぇんだからよ!いつもの役割分担で、俺が肉壁担当になってやっても良いんだからな!」
バトリグ、ダイガンの順番でそう言う。
「…そんな輩が居たんですね…ふふふ、次そんな輩が出ましたら、私が塵も残さず消し飛ばしてあげますからね、ソウマさん…!」
「…エルフィン、そんな事しなくていいから、ね?」
そして、軽く暴走しかけているエルフィンだった。