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第三話  仲間殺しは互いの意思のすれ違いから

魔王…いや、死んだ筈の勇者の仲間『魔操』ソウマ・ツキノの発言に、全ての人族は絶句した。

己が報酬の為に、仲間を殺した。それも勇者一行と言う、人族の希望そのものと言える集団が、である。

嘘だろう、そう思い、ソウマの右手を見るが…右手には何の変化も無い。

嘘ではないのだ。


「ま、待ってくれ!そ、ソウマ!!」


一人の女性が、叫んだ。

全員の視線がそちらに向けられる。その人物は『盗王』ウィルティオであった。


「なんだいウィルティオ?」

「こ、この魔法があるなら、私の言葉を信じてもらえる…聞いてくれソウマ、『私はあいつらに脅されていた』んだ!わ、私が協力しないなら、私の仲間だった者達を殺すと!!」

「…マジかよ。其処まで下種だったのかよ、あいつら…!!」


ウィルティオは名前の通り盗む者だったが、それは己が利益の為だけではなかった。

彼女が盗む相手は金持ちのみ、盗んだ物で得た利益の9割以上を貧しい農村や町の貧民層の人々に分け与え、一割にも満たない金で自分達は暮らしていた義賊である。

彼女は結局のところ勇者一行を襲い倒され、仲間は今王国の牢獄で普通の罪人以上一般市民以下の生活をしている。

なぜそんな生活を出来るか、と言ったら、当時の勇者一行メンバーがウィルティオの能力は自分達の足りないところを埋めてなお余るほどの物と判断し、『ウィルティオが魔王討伐まで力を貸す』と言う条件で彼女の仲間達の待遇を良くしたのだ。

因みに、先ほどのウィルティオの発言が嘘ではない事が、『断罪ジャッジメント』の効果で判明している。


「幾ら仲間の為とはいえ、ソウマを殺す手伝いをしてしまった…すまない、あの時は悪かった…!!」

「…そう、か。お前の発言に嘘が無い事も分かったよ、分かったけど…謝罪だけかい?」

「いや、私のやった行為が、人族として、いや、知性ある者として、してはいけない物だとは自覚している。私は、ソウマが私を殺そうと思っているんだろうと思ってる。そして、私は君が私に何をしようと逆らわない」

「お前の命を俺に差し出す、か…じゃあ、お仕置きだ」


一部の性癖の方々大歓喜な笑顔で、鍛冶師族ドワーフ伝統の最上級に位置する謝罪の姿勢『土下座』をしているウィルティオに近づくソウマ。


「顔を上げろ、ウィルティオ」

「は、はい…」


顔を上げる彼女のでこに手を近づける。


パンッ!!


少量の火薬が炸裂した様な音と共に5m程吹き飛ぶウィルティオ。

各国の重鎮の方々は目を点にして驚いている。

驚く観点はもちろん、『あれ、人体ってデコピンで吹き飛ぶようなモノだったっけ?』である。


「い、イッタァァァ!!い、一応淑女レディーである私の、か、顔に…!!」

「だれが淑女だ馬鹿。お前加害者、俺被害者。俺、君に罰与えた。オーケー!?」

「い、イエス、サー…」

「よーし、良い子だ。さ、て、と…これで、俺が怨む相手は四人。『拳聖』ログナー、『神速』カルミア、『必中』パトリシア・フーラル、『魔道王』クロム・ウィルス…俺を殺した5人の中でウィルティオを除いたお前らが、俺の敵だ」


冷たい視線を四人に向ける。

ログナーは先ほどの言い合いの熱がまだ残っているようで、ソウマに怒りの視線を送る。

獣人族ビースティアのカルミアは、猫のような尻尾をピンと立てて睨んでいる。

パトリシアは『何か悪いことをしたか?』と言いたげな表情で此方を見ている。

クロムはただ怯えながら独り言を呟いていた。何を言っているかまでは分からないが。


「ソウマ、君の事は前から危険だと考えていたんだ」


パトリシアは大きく息を吐いた後、そう言った。


「俺が危険?だったらお前らのそのイカれた思考回路はもっと危険だなぁ」

「そう言う問題ではない。君のその良く回る口と、相手を言いくるめる言葉を生み出す頭脳、そして…」

「俺と言うたった一人の人族しかこの世界に持っていない神級特性オンリースキルの事か?」

「そうだ!君が持つその特性スキル、『魔族操者モンスターマスター』!それがどれだけ危険かお前は知ってるのか!?」

「そんな事知ってる、誰よりも、俺が知っている。この能力があったからこそ、助かった場面が幾つもあった。この能力があったから、俺は勇者一行の一員として世界を救う事が出来たんだ」

「君の引き連れている魔族の強さを、お前は分かっているのか!?」

「知ってるよ。八魔将軍最強と謳われるルグルードと同等かそれ以上、下手すれば前魔王級の力を持つものも居るんだ」

「なら!勇者一行として王国に帰還し、戻った後、その力を使って君が世界を征服する可能性を考えたことは!?」

「無い」


きっぱりと、世界征服する気は無いと言い切ったソウマ。嘘ではない。


「だって、面倒じゃん」


さらに言い切る。もちろん、これも嘘ではない。

今まで言い合っていたパトリシアも、流石に口をパクパクとさせ糾弾を止める。

特性スキルとは、人族魔族ともに持つ、所謂才能の事である。

個人、個体差はあるが、魔族は同種族で持っている種族特性モンスタースキルがある。

ルグルードを例に挙げれば、魔人ナイトメアの種族特性である、空気中の魔力吸収を高める『魔力高速回復』の他に、剣技が得意になる特性『剣士ソードマン』や、転送ワープなどが使えるようになる『跳躍者テレポーター』等、20を超える特性を持っている。

そして、特性はその希少さによって、強特性ハイスキル希少特性レアスキル等と名称を変え、世界に一人だけのスキルの事を神級特性オンリースキルと言う。

神級特性は、その特性一つで世界に多大な影響を及ぼすと言われる力で、特にソウマの持つ『魔族操者モンスターマスター』は、『自分の事を気に入ってくれた魔族を僕とする事が出来、ある程度の命令であれば従わせる事を可能とする』と言う、魔族に対しては前魔王以上に影響力のある、非常に強力な物であった。

それを持っていて、世界征服を『面倒』の一言でやらないと言い切ったのだ。

カルディアルナ王が大きく息を吐き出した。


「う、うむ。私個人の意見だが、ソウマに敵意が無くて、非常に助かったよ…」

「世界征服なんて、俺としては友であり戦友ともである魔族を極力失いたくないんでね」

「じゃ、じゃあ、私達が、世界の為と思って君を殺したのは…」

「うん、全くの無意味だった、ってことになるね!」


その言葉に反応し、『魔道王』クロム・ウィルスが泣き叫ぶ。


「だ、だからあの時言ったじゃないか!『ソウマが敵かどうかは事を起こしたときに判断すればいい』って!なのに、なのに…!!」


黒髪に金眼、童顔の彼はその少し大きめな眼から大粒の涙を流しながら、更に続けて言う。


「なのに、お前達は『事が起きてからでは遅い』とか言って!!今では僕達は殺人者だ…もう、僕はどうすれば良いんだよぉ…!!」


泣き崩れるクロム。そこに数多の魔法を用いて魔族を焼き払った『魔道王』と呼ばれた男は居なかった。

ただ、周りに振り回され不幸に陥った、可愛そうな青年が其処に居た。

彼の今までの発言は嘘ではなく、本当に彼は彼以外の三人を止めようとしたのだろう。


「…ん?僕とソウマ、バトリグはカルディアルナ王国からの仲間で、エルフィンはその次、ダイガンとウィルティオが仲間になって、その次がクロム…残った三人は最後に仲間になった奴らじゃない?」


勇者ユーマの発言に、皆が納得する。

ソウマを殺したのは、彼を信じ切れなかった者達なのだ、と。

最初期からの仲間は完全に彼を信用しており、エルフィンも信用している。ダイガンとウィルティオも信用していたが、脅されてウィルティオは敵に回る。

クロムも彼のことをある程度は信用しており、彼を信用してない三人を止めようとしたが、言いくるめられたのだろうか、三人とウィルティオと共に敵となる。


「あ、因みに私が敵に回ったのはこれよ、これ」


『神速』カルミア、猫の獣人族である彼女は、親指と人差し指で輪を作り、それを指差す。

金、である。

彼女は、その非常に優秀な剣士としての腕を買われ、ソウマとユーマの私財で雇われた傭兵である。

彼らが払った金以上の金を積んで、ログナーとパトリシアが雇った、と言うことだ。


「私もさぁ、嫌だったけどさ…あの二人が払ってくれたお金を合わせれば、ようやく母さんの病を治せる『神薬』エリクシールが買えたんだ…ごめんね」

「ウィルティオは脅し、クロムは無理やり言いくるめ、カルミアは買収…糞共が」

「ぐ、ぐぬ…げ、現に貴様は魔王となって現れたではないか!」


それを今言うか。ソウマは思う。

確かにソウマは新魔王ソウゲツと名乗って現れた、が。


「あぁ、その事ね。では、此方が前々から決めていたことを発表する。『新魔王ソウゲツはその全権を元八魔将軍ルグルードへと委ね、退位する』!!」

「…私としては、ソウゲツ様…いや、ソウマ様が魔王を続けて頂ければ嬉しいのですが…」

「やだ、面倒だし、勇者一行だった頃からしていた約束があるんだ」

「と言いますと…?」

「様々な村や街で、俺は様々な約束をしてきた。それを、守らないと」


その言葉に、一部の人々が反応する。

ある者は頷き、ある者は笑い、ある者は泣いた。

皆、ソウマと約束した事を、楽しみにしていた者達だ。

その一人に、『大賢者』エルフィン・マルティナが入っている。

彼女は、涙を浮かべ、震えながらソウマに尋ねる。


「そ、その…私との約束、も…ですか?」

「もちろん、覚えているよ。忘れるわけがないだろう…その話は後で、だ。で、ログナー、パトリシア、君達はどうする?今なら死ぬまで牢屋行きで許してあげるよ?」

「…もはやこれまで、か…ならばせめて、貴様だけでもぉぉぉ!!」


謁見の間の天井までログナーが飛び上がり、天井を蹴り飛ばす。

蹴り飛ばした反動と重力で加速し、両腕を前方に…ソウマに突き出す。


「死ねぇ!!『天地滅殺拳』!!!』


全魔力を拳に纏わせ、触れた物を分子レベルで崩壊させる、彼の持つ最強の一撃。

それの前に、ソウマの左に居た女性が立つ。


「己が間違いを指摘され、主が特別に許すと言ってくださったのに、返答はこれか…『人化限定解除』」


褐色の右腕が、肥大する。

肘から先が大木のように太くなり、黒い鱗に覆われる。

黒曜石のような鋭い爪の付いた五指を開き、ログナーの拳を止めた。


「なっ…貴様ぁぁぁ!!」

「主、この屑はどう処分しますか?」

「煮るなり焼くなり、お好きにどうぞー。カルディアルナ王様、それで良いですか?」


ソウマの笑顔に、世界が凍りつく様な錯覚を覚える。

元とはいえ、仲間を殺す事に、躊躇いを見せない、この男。

まだ二十歳にもなっていない青年のして良い笑顔では、無い。


「あ、あぁ…仲間殺しの罪と、この場での狼藉の罪…そして、勇者一行の名を汚した罪がある」

「だってさー」

「有難う御座います…さぁ、死ね!!『龍帝之咆哮ドラグ・ロア』!!!」


爆音が、『投影晶カメラクリスタル』を通して、世界に響き渡る。

龍の腕を通じログナーへと送り込まれた魔力が、爆発。

極小の太陽が生まれたかの様な光が、視界を染める。

凡そ10秒程か、火球は消えた。

塵一つ残らず、ログナーという存在は『消滅』した。


「ひ、あ…あ、ああ…」


パトリシアは目の前で起きた仲間の消滅を見て、心が、折れた。

勝てるわけが無い、挑むことすら無謀。

暖かさがジワリと広がっていく。失禁している事に、気付いていない。


「あーあ、高そうな椅子なのにおもらしして…」


ソウマの笑い声も、聞こえない。

彼女は、後悔していた。

何故、あの時、自分とログナーは…


「なんで、貴方みたいな化け物を、殺せるって、思ったんだろう…」

「さぁね…連れて行って、そいつ」

「「 はっ!! 」」


最初に付いて来た二人の兵士に連れて行かれるパトリシアは、抵抗しなかった。

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