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第二話  魔王は魔王ではなかったようです

 『魔操』ソウマ・ツキノは、勇者一行によって殺された。

魔王はそう断言した。腕を組み、まっすぐカルディアルナ王を見ながら。


「…なぜ、断言出来る。その現場を見ていた訳ではないだろう!そもそも、お前の憶測でしかないだろうが!」


 『拳聖』ログナー、狼人族ウルフィンの質問はもっともである。もっともなのだが…


「なんでそんなに強く否定するんだい?まるで僕の話が本当みたいじゃないか」

「そんな馬鹿な話のせいで、俺達『勇者一行』の信頼を落とされるのに腹が立っているんだ!!聞け!『ソウマ・ツキノは戦死した』んだ!こんな馬鹿の話を…」

「残念だね、その右手、見てみろよ」


 ログナーの右手には、黒い十字が浮かぶ。嘘という真実が浮かぶ。


「下手に否定したら、当事者である君達が不利なのが分からないのかい?」

「くそっ…し、しかし!まだ戦死ではないと言うだけで、お、俺達がやったとは分からないはずだ!」

「あ、うん、それもそうだねー。じゃぁ、もう一つ君達を追い込もうか。『僕はあの現場を見ている』」


 じっと魔王の手を見つめる全員。しかし、一分経っても、黒い十字は浮かばない。

言い合っている勇者一行と、魔王の護衛以外の、この現場を見ている全員が驚愕する。

魔王が、魔王ではなかった時、目の前で勇者は死んだ、と。

そして、この言葉が表すのは、それだけではない。


「な、ならば貴様は!さ、最初から知っていて、俺達に嘘を言わせたと言うのか!?」

「そういう事だよ、『拳聖』ログナー。君は…あぁ、君はソウマ・ツキノの右手を蹴り砕いて、彼の首を掴み地面に叩き伏せただろう?」

「き、貴様ぁぁ!そこまで知っているのか!!」

「あぁそうだ、僕はあの日!あの場所で!!貴様ら『勇者一行』が、ソウマ・ツキノに何をしたか!!全て覚えている、全てをだ!!」


 魔王が腹を抱えて笑う。

勇者一行は揃って苦い顔だ。自分達の罪が、隠し通してきた罪が露見されたからだ。

各国の重鎮達の眼は皆勇者達に向かっている。狂ったように笑う魔王は気にしていない。


「…質問をして良いかい、魔王」

「なんだい?『勇者』ユーマ・サクラバ」

「…お前達が言い合いをしてる間、ちょっと、四人で話し合ったんだ」

「あぁ、『勇者』ユーマ・サクラバ、大賢者』エルフィン・マルティナ、『粉砕者』ダイガン・ガルバド、そして『鉄壁』バトリグ・ヴァン・アーデルの四人」

「…貴方なら、この四人がどのような理由で集まっていたか、分かるのだろう?」

「知ってるとも!君達はソウマ・ツキノを除く9人の中で、彼を助けようとし、仲間に押さえつけられ、目の前で彼を殺された者達だろう?私が断言しよう!『君達4人は、殺しに加担していない』!」

「…右手に反応無し、か。貴方は、本当に全てを知っているんだね、魔王…いや、僕の考えが正しいなら……君は」


 勇者の手の平に魔方陣が浮かび上がる。

色は紫、つまり回復系の補助呪文。魔王の護衛も、回復系補助呪文だと分かっていても警戒する。

一方魔王は、勇者の続く言葉に期待していた。

――お前なら分かってくれると信じているよ、勇者!いや、ユーマ!!――


「君は…ソウマ、なんだろう?」


 勇者が魔法を発動する。その効果は、『幻覚解除』。

魔王の、いや、ルグルードを除く全ての魔王側の人物の姿が、つま先から変わっていく。

魔王の白い肌は変わらないが、髪は灰色に、瞳は黒く変化する。

黒い鎧は、黒い布のズボンや服、ローブに変わる。背負っていた大剣は、明らかに成人男性以上の重さを想定させる超巨大な戦槌ハンマーに変わる。


「さっすがユーマだ!信じてたぜぇ俺!!今度、飯奢ってやるよ!!」


 ひゃっほー!と叫びつつ、円卓を飛び越え勇者に抱きつく魔王…ソウマ。

それを、先ほどまで魔王の左側に座っていた女性が引っぺがす。

彼女も、見た目は黒髪に真紅の眼、褐色の肌の…バインバインなお姉さんになっていた。


「主よ、久しぶりの再会とお遊びが成功した喜びで嬉しいのは分かりますが、各国の重鎮や、この場面を見ている全人族の為に説明をするのが先です」

「あ、ゴメンゴメン!で、っと…お久しぶりです、カルディアルナ王様。勇者ユーマ・サクラバの第一の配下にして、ユーマ・サクラバの友人、世界にたった一人の魔物使い『魔操』ソウマ・ツキノ。ただいま帰還しました!」

「え、あ、いや、ちょっと…お、お主が、なぜ…魔王!?」


 これを見ている、つまり、世界中の人族が、驚愕した。

新魔王ソウゲツは、元勇者一行で、先ほどの話から仲間に殺されたと想像される、ソウマ・ツキノだった。この事実に、驚かない人族は居なかった。

魔王は勇者の仲間で、殺された勇者の仲間は魔王だった。

なんの冗談だ、と、笑いたかった。


「そこも含めて、話していきますから!その前に…教皇様、私に、真実を発言する許可を…私は、神が認めた、勇者一行を、否定します」

「先ほども否定しまくっていたでしょう…良いですよ。むしろ、騙されていた私達の分も、ちゃっかりやっちゃってくださいね」

「ほんと、貴方はそっちの方が似合ってるよ、教皇様。さて、この話を聞いている全人類の皆様…私は!『断罪ジャッジメント』の魔法の下に、断言する!『私を殺したのは、あの四人以外の、勇者の仲間達だ』!!こいつ等は…己の報酬を増やす為に、俺を殺したんだ!!」

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