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第一話  真実は何処にある?

 人族大陸ヒューマノイアの南端、海に面した一つの王国がある。名は『カルディアルナ』。人族大陸最大の王国であり、今や知らぬ者は居ない有名国である。最大の国であった為、元から知らない人族の方が少なかったのだが、今はもう違う。

 それは、この国で誕生した勇者とその一行が、魔王を倒したからである。

 たった一人で一国の軍を壊滅することが可能な強大な魔力と魔法を持ち、剣術も達人級、再生能力も備えた、人類共通の敵である。

大凡100年に一度現れる最強と言われる魔王を倒した勇者の故郷、それがカルディアルナの田舎町である事は、魔王討伐の報と共に世界に知られたのだ。


 その大国で、歴史上初となるであろう珍事が行われようとしている。

集まる面々は各国の国王と近衛兵団長、各国冒険者ギルドで最も強い者に与えられる"S級"の冒険者達。更にカルディアルナからは魔術師ギルドのギルドマスター、ある神を崇拝する教団の教皇と大司教、そして勇者一行。

一般市民が思いつく、各国のトップクラスの人物が、カルディアルナの首都『アルテミナ』の中央にあるアルテミナ城謁見の間に急遽作られた巨大な円卓の席の半分ほどを借りて座っている。

 謁見の間の様々な場所に設置された水晶玉は『投影晶カメラクリスタル』と呼ばれるもので、水晶の半分は黒っぽく、残りは非常に澄んだ青色をしたものである。

これの澄んだ面に映った映像と、澄んだ面に当たった音の振動を拾い、指定したいくつかの水晶から放たれる光に乗せ映像として流す、という物である。

 今、謁見の間の映像は人族大陸全土の人が住む場所に設置された巨大な白布に映されているのだ。このような事をして挑む必要があるその珍事。


『新魔王と人族による、今後の魔物と人族の付き合い方について決める会議』


 三ヶ月と少し前、今は亡き魔王が倒された日から一週間ほどがたったあの日。

人族大陸にある全ての国に対して、小鬼族ゴブリンが魔王の手紙を持って訪問したのだ。

内容はいたって簡単であり、先ほど書いた会議の開催を呼びかける物であり、人族にとってかなり条件は良かったのだ。

 その1、開催地はカルディアルナのアルテミナ城とする。

 その2、其方は幾ら人を集めても構わないが、こちらは魔王本人と側近含め多くても10人とする。

 その3、出来れば勇者一行は全員集まってもらいたい。

 その4、開催は三ヵ月以上経った後、最初の満月の日の次の日とする。

 勇者一行は魔王集団から各国の人を守る最高戦力として、会議開催と見てすぐに決めていたので何も驚かなかったため、すぐに招集した。

 勇者一行は全員で九人。十人だったが一人は魔王との戦闘で死亡したと勇者一行からの報告があった。『勇者』ユーマ・サクラバ。『大賢者』エルフィン・マルティナ。『拳聖』ログナー。『粉砕者』ダイガン・ガルバド。『神速』カルミア。『鉄壁』バトリグ・ヴァン・アーデル。『必中』パトリシア・フーラル。『魔道王』クロム・ウィルス。『盗王』ウィルティオ。そして今は亡き『魔操』ソウマ・ツキノ。

この10人の活躍により、死んだ魔王。次の魔王が現れるのは、大凡100年先のはず…だった。

 しかし、現に魔王を名乗る者が現れ、今後の付き合い方について話そう、などと言われたら警戒するしかなかったのだ。


 人族側の参加者が揃ってから10分経過したその時、『大賢者』と呼ばれる長耳族エルフの女性、エルフィンが、2人の人間の魔力と、そうでない者の魔力を10個、感知する。


「皆さん、どうやら魔王側は10人のようです。数では圧倒的にこちらが有利、落ち着いていきましょう」


 あの勇者一行でも、精霊魔法や神聖魔法で様々な魔物を倒したと言われている大賢者の言葉で、ざわついていた室内が静かになる。

 そして、その扉が開かれる。

後、世界最初の魔物と人族の会議として歴史に『アルテミナの大会議』として名を残す出来事が、今、その扉と共に開かれた。



2人の兵士の後ろから、魔王を先頭に魔王側のメンバーが入ってくる。

先頭に立つ魔王は、病的なほどに白い肌と、同じくらいに白い髪、真紅の瞳の男。背中に大剣を背負い、黒い鎧を着ている。後ろに続く九人のうち、一人を勇者達は知っていた。

 前魔王配下、八魔将軍最強の騎士、ルグルード。仕留める前に転送魔法で逃げられた、前魔王が最も信頼していた部下である。

彼が付き従っているということは、新魔王は彼以上の実力者ということだろう。

 その後ろにはさらに人型の魔物が8人続く。種族は不明だが、この場に連れて来たということから実力は高いことは想像できる。

 人族側が半分を埋めた円卓の反対側、『カルディアルナ王』ザルディン・アルカトライズ・カルディアルナの反対側に魔王が座り、右にルグルード、左には白髪蒼眼の女性が座る。その他の者も次々に座り、会議に参加する者全員がこの場にそろった。


「…ひーふーみー…おぉ、勇者が全員揃ってる。全員招集してくれたのか。感謝する、カルディアナ王」

「魔王に指名されたから、と言うよりは、各国の重鎮の護衛の為だがな」

「それでも、全員呼んでくれたんだ。さて、僕が『新魔王』ソウゲツだ。僕の右に居るのは、勇者一行は知っているだろう。前魔王配下、八魔将軍の一人、ルグルードだ」


 ルグルード。その名を聞いただけで謁見の間が少し騒がしくなる。

魔王の命令とあれば、どんな残虐な行為でも顔色一つ変えずに従う、魔王の忠実な僕。魔王が魔王ではなかった頃から彼と共に居たとされる、魔王の最大の理解者。

そのルグルードが、新たな魔王を認め、従った。それは、前魔王と同じくらいの力を、この魔王が持つことを何よりも分かりやすく表しているからだ。

 

「やはり、あの時逃がしたのは貴方でしたか…」

「『勇者』ユーマ、か。あぁ、貴様に殺されかけたが、何とか逃げ切り、新たな主を見つけられた。また何時か戦ってみたいものだな」

「ルグルード、話を進めても良い?」

「…申し訳ございません」

「良いよ。お前が勇者の事を高く評価しているのは知ってるからさ」


 勇者一行はこのやり取りに、ポカンとしている。

前魔王はとても魔王らしい魔王だった。『フハハハハ!よく来たな勇者よ!』から始まり『調子に乗るな若造が!』や『思ったよりもやるなぁ!本気を出してやろう!!』といった発言が非常に似合っており、その低い声と圧倒的な存在感に圧倒されたからだ。

 しかし、目の前の魔王は?正直言ってしまうと、装備は魔王らしい、黒い鎧や巨大な剣などではあるが、他はあまり自分達と変わらないようにも思える。

 

「さて、と。本題に入ろうか!」

「ずいぶんと軽いのぅ…こっちはSランク冒険者を総動員してまで来たと言うのに」

「まぁまぁそこは置いておいて。今後のこっちとそっちの付き合い方なだけれど、此方から一つ提案がある」

「ほう。どのような?」

「此方は魔族大陸マギノイアだけに存在する鉱石や植物などを提供したいと考えている。そして、其方からは、人族の技術を教えてもらいたいんだ」


 魔王の口から更に具体的な話をする。

魔族大陸だけに存在する鉱石や植物は非常に多い。龍の鱗と同等の硬さを誇る鉱石『龍鱗鉱ドラゴライト』や魔力を非常に多く蓄え、神石と人族大陸では言われている『魔蓄石マナクリスタル』などである。

人族大陸のみに伝わる技術というのも非常に多い。大陸の東側、鍛冶師族ドワーフが1000年前に生み出したと言う『刀』や『着物』等の物や、長耳族が自分達だけ使い、多種族に流していない秘術など。

それらを交換しようと言うのだ。


「なるほど。たしかに其方にある鉱石などを貰えるのは非常に嬉しい。が…此方の技術を用いて、戦争をするような事が無いとは言い切れないだろう?」

「そこは僕の命にかえても止めると誓おう。それと、今人族大陸に居る魔物達についてなのだが」

「それも気になっていた。一体どうするつもりなんだ、魔王!」


 『鉄壁』バトリグ・ヴァン・アーデルが糾弾する。様々な種族の魔物が前魔王の時、人族大陸に渡り勢力を広げており、魔族大陸のある北側は殆ど魔族に占領されている状態なのだ。北側以外にも広がっており、中には迷宮ダンジョンを作りそこを拠点に一帯を支配している魔物も居るのだ。


「撤退させようとは思うけど…其方の生活に必要な素材を持つ魔物なども居るだろ?というか、どの魔物の落とす素材だろうと、其方には有効に使う技術があると考えれば、撤退させないほうが良いと思うんだけど」

「むぅ…確かにそうだが…」

「あ、そうだ。人族大陸に居る魔物が殺されたとしても此方はそれを理由になにかしたりはしないと約束するよ。これでどうだろう?」

「此方としては嬉しいのだが…そんなポンポンと決めてしまって良いのか?幾ら魔王といえど…」

「ん?いや別に良いよ?だってこの案件、既に魔族大陸で決めてた奴だしさ。ドラゴン死霊ゴースト魔獣ビースト魔人ナイトメアの各種族とね。他にも色々とな種族とも話してきた」


 そんな馬鹿な、と各国の王達は心の中で叫んだ。

前魔王ですら龍や死霊といった勢力を完全に従えることは叶わず、一部の者を配下に加えることしか出来なかったのだ。

今自分達の目の前に居る新たな魔王は、今後の世界のあり方を決める話をそのような者達にし、了承させたと言ったのだ。それは、この魔王は前魔王と同等どころかそれ以上だということに繋がる。

先ほど自分達の予想を上回る事――ルグルードを従わせている――をした後、更にその事すらちっぽけに思える事をしてきたのだ。彼らがそう思ったのも無理は無い。


「で…これで良い?別の話もしたいからさ、この話は速めに切り上げたいんだ」

「…では、人族側の全国王の方々の内、この案件に賛成する方は挙手を」


 ルグルードの発言の後、真っ先に手を上げたのはカルディアルナ王だった。

その後に続き鍛冶師族ドワーフの国『ガルディアリ』の王、耳長族エルフの国『ルーファリウム』の女王が挙手する。

その後も次々と手を上げ、全王国が賛成し、可決となった。



「…で、ついさっき言った別の話っていうのなんだけどさ」

「そういえばそのような事を言っていたな。あのような重大案件を早々に切り上げてまで話したいこととはなんだ?」

「まぁ個人的な話なんだけどね?僕が勇者一行を全員集めてくれ、なんて言ったのはこれを聞きたかったからなんだよね」

「…俺達に聞きたいこと、だぁ?」


 『粉砕者』ダイガン・ガルバドが面倒臭そうに言う。鍛冶氏族ドワーフの彼は、鍛冶氏族の男性全員に当てはまる、低身長――160センチ程――と鋼の様な筋肉に覆われた体を背もたれに預けていた。


「あ、この話をするにあたって、君達に協力してもらいたいんだよ、『公平の神』サンダリフィアを崇拝する君達にね」

「私達ですか?何故私達にも招待状が届いたのかと気になっていたのですが、このために?」

「そう、君達の内、教皇と大司教の二人が共同して唱えて始めて使える最大の神聖魔法『断罪ジャッジメント』が必要なんだ」


 何故知っている、そう教皇と大司教は思う。

自分達以外に知っているのはカルディアルナ王のみのはず。もう一人も知っているがこの場には居ないし、この魔王がその人物にあってそれを聞いたとも思えないのだ。


「何故知ってるかは聞かないでおきましょう。効果も、知ってて言っているのですよね?」

「もちろん。『自分達が指定した部屋の中に居る全ての知性あるものを対象とし、一度嘘をついたら右手の甲に黒い十字、二度目は左の手の甲に黒い十字が浮かび上がり、三度目は死に至る』だよね?」

「…つまり、この部屋に『断罪ジャッジメント』を使え、と?」

「そういうことだね」


 教皇がカルディアルナ王に『使ってもいいか?』と確認するような眼を向ける。

王は首を縦に振る。使えと言うことだ。


「…分かりました。私が詠唱を行います。大司教、貴方もです」

「はっ!教皇様、こちらを」


 一冊の辞書ほどの大きさの本を渡す。


「「 『我ら神の信徒、偉大なる神の名の下に、この領域に居る全ての者に平等に裁きを与える事を誓おう。神は全てを知る者。其の前に我らの考えうる全ての嘘など無意味。それを知り、其の上で嘘をつく全ての者に、平等な裁きを!』 」」


 二人の詠唱が終わり、謁見の間に居る全ての者は、皆視線を感じる。

神は全てを知る者。その神の意識が、この部屋の中に居る知性あるものに向けられているということだろうか。


「『断罪ジャッジメント』は発動しました。この場で嘘をついた全ての者に、先ほど魔王が言ったような現象が起きます」

「信用できるの?」


 『必中』パトリシア・フーラルの質問。


「えぇ、では、私は今から嘘を言いますよ?『私は実は先日娼婦を買いました』」


 それが嘘だと証明できるのは大司祭とカルディアルナ王である。先日三人で集まっていたのだ。

そして、彼の右手には黒い十字が浮かび上がった。


「これで分かっていただけたでしょうか?」

「私が保証しよう。『彼はそんなことをしていない』」


 王がそう言うが、何も起きない。つまり、王の発言は嘘ではないと証明されたのだ。


「えぇ、疑って悪かったわね」

「いえいえ」

「よし、じゃあ僕が聞きたかった話をするよ。嘘で答えちゃ駄目だからね?」


 魔王の言葉に、人族大陸側の全員が魔王の話を聞こうと集中する。

魔王がこんな事をしてまで、勇者一行に聞きたかった事、それは一体何なのか?

投影晶カメラクリスタルの映像や音を通じて全人族が聞いていると知っていて魔王が質問をする事はそこまで重要な話なのか?

全人族が興味を、疑問を抱きながら彼の質問を待つ。

そして、全人族にとっては馬鹿馬鹿しい、彼にとってはとても真剣な質問をした。


「なんで『魔操』ソウマ・ツキノは『戦死』扱いになってるの?」


 はぁ?と言いたげな表情に、これを聞いた人族がなったのは仕方ないだろう。

何を言っている、ソウマ・ツキノは魔王との戦闘時に死んでしまった。だからこの会議に居ないのだ、と、彼に言おうか各国の重鎮は考えた。

 しかし、すぐに、ある変化に気付く事になるだろう。

勇者一行の表情がとても驚いた表情に変わったことに。


「な…何を言っているんだ!?彼は、ソウマは前魔王との戦いで死んだんだ!それ位の事も知らないのか!!」


 『鉄壁』バトリグ・ヴァン・アーデルが叫ぶ。

全くだ、そんな事も知らないのか?とカルディアルナ王が言おうとしたその時…

バトリグの右手には黒い十字が浮かび上がった。彼は嘘をついたのだ。


「あれあれぇ?君は嘘を言ったみたいだねぇ!一体どこが嘘なんだい?」

「な、な…!?」

「そりゃあそうだよねぇ。自分達が広めた事、今ここで嘘って分かっちゃうんだもんねぇ。僕が当ててあげるよ、真実を!」


 勇者一行以外の人族は驚愕していた。

ソウマ・ツキノは魔王との戦闘で死んだのではないのか?だとしたら何故この場に居ない?生きているのか、死んでいるのか、どちらなのだ?

真実を当てると豪語した魔王の言葉を待ち、静まり返る世界。

魔王の口から出たのは、誰もその可能性を思いつかなかった選択肢だった。



「ソウマ・ツキノは、君達勇者一行によって…殺された!」

誤字等を発見された方はメッセージで教えてください。

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