5.『呪いのビデオ』
休日の朝。俺は珍しく早朝に目が覚めた。
二度寝しようかと思ったが、妙に目が冴えて寝付けない。
諦めて起き出し、せっかく早く目が覚めたのだから、どこかへ出かけようかと思っていると、携帯電話が鳴った。
非通知。まさか朝っぱらからかけてくるとは。
まあいい、さっさと済ませてしまおうと思い、俺は携帯に出る。
「ふぁ~あ。こんにちわ~、メリーさんで~す」
「いきなりやる気ねえな」
「だって眠いんだもん。今何時だと思ってんのよ。あなたお化けの生活スタイル知らないの?」
「そんなもの俺が知るわけないだろ」
「良いお化けはそろそろ寝る時間ですよ?」
「だから知らねえよ! なにが“ですよ?”だ」
「朝っぱらから不機嫌ねえ」
「誰のせいだと思ってんだ」
「まあいいわ。で、突然なんだけど……」
「ん?」
「呪いのビデオって、いる?」
「いらねえよ! 本当に突然だな!」
「せっかくだから作ってみたんだけど」
「何がせっかくなのか全然わかんねえよ! 呪いのビデオって、完全にアレじゃねえか!」
「パクリじゃないよ」
「絶対パクリだろ!」
「主演と監督は私」
「聞いてないよ!」
「ちなみに、この呪いのビデオを見たものは、三分後に死にま~す」
「シビアすぎるよ! 某呪いのビデオよりよっぽどタチ悪いじゃねえか!」
「でもきっかり三分間だから便利よ? カップラーメンを作るときにも使えるし」
「カップラーメン喰えねえじゃねえか!」
「その時は私がテレビから出てきて、いただきま~す」
「メリーさんしか得してない!」
「ちょっと被験者になってくれないかなあ?」
「なるわけないだろ! 危ないもん作ってんなよ」
「だって暇なんだもん」
「働けよ! ……いや、やっぱり働くな。お化けは怠けてる方が人類は平和だ」
「むう~。そんなこと言われると、逆に労働したくなるなあ」
「めんどくさい奴だな。だけど実際、メリーさんに頑張られると人類は困るし」
「あ、ホント? 私ってそんなにすごい?」
「まあ、そこらのお化けよりかはよっぽど知名度もあるだろうな。そう考えると、結構すごいよな」
「わあ、嬉しいなあ。ね、もう一回言ってよ」
「もう言わねえよ。メリーさんってすぐ調子に乗るよな」
「もう一回! もう一回!」
「しつこいぞ」
「アンコール! アンコール!」
「だから言わねえよ!」
「マンホール! マンホール!」
「いきなりどうした!?」
「マンホールって、響きがなんだかいやらしいわよね」
「意味がわかんねえよ!」
「で、ビデオに話を戻すけど」
「戻さなくていいよ!」
「やっぱりいらない?」
「だからいらないって」
「NG集とかもあるんだけど……」
「だからなんだよ!」
「困ったなあ。もう送っちゃったんだけど」
「余計なことを! っていうか前から気になってたんだけど、俺の部屋の住所なんで知ってんの?」
「え? あなたの家、お化けの間じゃ有名よ?」
「マジで!?」
「私が広めたのよ。良いカモが住んでますよって」
「ひどすぎる!」
「まあ、しばらくの間は、あなたにちょっかいかけられるのは私一人だけだから安心して」
「安心できねえよ! それに“しばらくは”ってなんだよ。不安になるよ!」
「小心者ねえ。まあいいや。ビデオもそろそろ届くと思うから、料金払っといて」
「着払いかよ!」
通話を終えると、どっと疲労が押し寄せてきた。
せっかくの爽やかな目覚めも台無しだ。
外出する気も、すっかり失せてしまった。
もう一回寝なおすかな。
そう思った俺は、昼まで二度寝した。
メリーさんから届いたビデオは、着払いで送り返した。
NG集を見てみたい気もしたが、命の方が大事だ。