4.『人生相談』
深夜に着信。暗い部屋が携帯電話の液晶の光で照らされる。
せっかく寝ついたというのに、目が覚めてしまった。
布団から手を伸ばし、携帯電話をつかむ。確認しなくてもわかる。どうせメリーさんだ。
まったく、メリーさんはこちらの事情を全然考えてくれない。
怒鳴りつけてやりたいところだが、残念ながら頭がぼーっとしている。
怒る気力もないまま、通話を開始する。
「もしもし、私メリーさん。ちょっと良い?」
「良くない。もう切って良いか?」
「あら、なんだか元気がないわね。あっ分かった。私がしばらくかけてこなかったから落ち込んでたのね。意外とかわいいところあるじゃない」
「逆だよ! かけてきたから落ち込んでんだよ! それに寝てたからだよ!」
「ああ、そういうこと」
「そう、そういうこと」
「このままずっと電話が来なかったら私のことを忘れられたのに……。なんで電話なんてかけてくるんだよ。またお前のことを好きになってしまうじゃないか! というわけね」
「全然違うよ! どこをどう解釈したらそうなるんだ!」
「え~違うの?」
「なんでそんなにプラス思考なんだよ」
「私、結構前向きなんだから」
「お化けのくせに」
「レッツ前向き! たとえ身体が後ろを向いていても、顔だけは前を向くわ!」
「怖いよ! それ絶対俺にやるなよ! 俺怖いの結構苦手なんだから」
「ホラー映画見てたくせに」
「あれは、まあなんだ。怖いもの見たさというか……」
「そんな偽物を見なくても、私ならいつでもオッケーなのに」
「こっちがオッケーじゃないよ! メリーさんは本物なんだから! 俺が死んじゃうだろ!」
「その時は、ようこそお化けの世界へ!」
「嫌だよ!」
「でも死ぬ前に確認しよう。ちゃんと生命保険に入っているかな?」
「だから死なねえよ!」
「いつもの調子になってきたわね」
「うるさい!」
「で、いつもの感じになったところで一つ相談なんだけど」
「なんの相談? っていうか、なぜ俺に相談するんだ」
「私って時代遅れなのかなあ」
「人の話聞けよ」
「もう私、死んだ方が良いのかも……」
「いきなり重いよ! さっきのプラス思考はどうしたんだよ!」
「どんな死に方が良いのかなあ」
「答えられねえよ! 元気出せよ」
「っていうか、お化けってどうやって死ねばいいのかなあ」
「難問すぎるよ!」
「今度生まれてくるときは、どんなメリーさんが良いかな?」
「メリーさん限定なのかよ!」
「やっぱり時代の最先端をいかないとね」
「勝手にしろよ」
「『メリーさんの手紙』とかどうかな?」
「退化してるよ! 一体手紙のどこに最先端の要素を見出したんだよ!」
「そんなの私の勝手でしょ」
「じゃあ聞くなよ!」
「なんて冷たい態度……。あなたには人間の血が流れているの!?」
「お化けに言われたくないよ」
「ひどい! お化け差別だわ!」
「意味わかんねえよ!」
「もう死んでやる~! 無残な姿であなたの枕元に立ってやる~!」
「それだけはやめてくれ!」
電話はそのまま切れてしまった。
無残な死体になったメリーさんが枕元に立つんじゃないかとドキドキしていたが、そんなことは起こらなかった。
後日ポストに封筒が入っていた。
中には、手紙が一枚と写真が一枚。どうやらメリーさんから来たようだ。
写真には夜の森が広がっている。他には、何も写っていなかった。
手紙によると、死ぬために森に行ってみたら、死にたてホヤホヤの幽霊と出会って、すっかり意気投合してしまったらしい。
記念写真を撮ったので送る、ということだった。
改めて写真を見る。手紙によると、肩を組んで笑っている二人の幽霊が写っているはずだが。
メリーさん、写ってねえよ……。