3.『ホラー映画』
ある夜、携帯電話が着信を告げた。
丁度そのとき、俺はホラー映画を見ていた。
俺はテレビの画面から目を離して、携帯電話を確認する。
非通知。ため息が出た。
映画もそろそろクライマックスで、これからだというのに。
このタイミングで本物のお化けから電話がかかってくるとは……。
「もしもし、私メリーさん。今、コンビニにいるんだけど、そっちに行っていい? お酒とかいる?」
「買い物中かよ! なんでかけてきたんだよ! それに俺は酒飲まないから……」
「あ、そうなの? なんだか健全ね」
「飲めないだけだ」
「じゃあ、今から行くね」
「いや、来なくていいよ!」
「相変わらずノリ悪いわね。せっかく今日は恋人風でかけてみたのに」
「何がしたいんだよ……」
「ちなみに、つきあい始めてから半年って設定よ」
「そんなこと聞いてねえよ!」
「つきあい始めてはみたものの、彼氏もあんまり構ってくれなくて、なんか違うなあって思い始めてて、それで自分の気持ちを確認するために、彼氏の部屋に押しかけようとしているって場面設定なんだけど」
「なんでそんな嫌な設定に……」
「私と仕事、いったいどっちが大事なの!」
「仕事だよ! 選択の余地なんてこれっぽっちもねえよ!」
「まあいいわ。それより今何してた?」
「相変わらず切り替えが早いな。映画見てたよ」
「映画……。ま、まさかホラー映画を!?」
「ホラー映画だよ。っていうかなんでそんな驚いてんの」
「私と言うものがありながら……偽物のお化けなんかに夢中になるなんて!」
「いや、意味わかんないから」
「怖い話好きなの?」
「まあ、好きと言えば好きかな」
「え、じゃあ呪いは……」
「嫌いだよ! その期待に満ちた声をやめろ! いや~呪いをかけられるのも悪くないよな~とか言うわけないだろ!」
「お~ノリツッコミ」
「やめろ! なんか恥ずかしくなるからやめろ!」
「要するに、フィクションの方が好きと言うわけね」
「当たり前だよ!」
「でも、なんでフィクションが怖いの?」
「え?」
「だって全部作り物なんでしょ? そんなもの、なんで怖がるのよ」
「う~ん、そうだな……」
「本物がここにいるんだから」
「でもメリーさんはあんまり恐くないぞ」
「うらめしや~」
「最近キャラ忘れてきてるよな、メリーさん」
「そう?」
「メリーさんの口から“うらめしや~”なんて聞くとはね」
「だってメリーさんって超失礼なキャラじゃない? いきなり電話かけてきてさ、今からそっちに行くわよなんて、どんだけ厚かましいのよ」
「メリーさんがそれ言っちゃダメだろ!」
「迷惑なお化けよね」
「自己否定!?」
「いやいや、違うわよ。ただもう少し、なにかあってもいいかなって思っただけよ。時代と共に私にも変化が求められているのかなって」
「変化?」
「例えば国際化とか?」
「そんなもの求めてる奴がいるとは思えんが」
「ハ~イ。アイム、メリー。ファッ●ユ~! みたいな感じ?」
「やかましい!」
「キス、マイ、ア●! ハッハ~↑」
「ケンカ売ってんのか!」
「罵り言葉って楽しいわよね」
「お前絶対国際電話だけは使うなよ」
「使い方なんて分からないから心配御無用。あっレジ開いたから切るね。またそのうち掛けるから」
それを最後に電話は一方的に切られてしまった。
本当に何がしたかったのか。っていうかコンビニ利用してるのかメリーさん。
テレビに目を戻すと、とっくに映画は終わっていて、エンドロールがむなしく流れていた。結局、ホラー映画のクライマックスを見逃してしまった。
巻き戻して、メリーさんが電話をかけてきた辺りから見直した。
映画はメリーさんよりよっぽど怖かった。
偽物の方が本物よりよっぽど怖い。
でもまあ世の中そんなものかもな、と少しだけ思った。