はじまりはほんとうにながい
三月一日
とおさんとかあさんと一緒にぼくは車輪の王国にやってきた。
いろんなひとにであって、いろんなけいけんをして、ぼくはボウケンシャになる。
奇妙な形の宿。ぼくはそこで、『女神』と出会った。
……。
……。
「ふにゅ」
あたまに痛みが走る。ちょっと気合入れてぶつけすぎた。
軽くあたまをふりながらりょうあしを振る。靴のさきが綺麗におにいちゃんたちに入る。
「……」「……」
ノンビリやきとりを食べ、お酒を呑んでいる二人。ちょとてつだってほしいな。
「ぼく。さんじょう! 」
構えをとって、黒髪の女の子の前に立つ。
「……」
お兄ちゃんにおっちゃん。かずは20程。
やっつけるには、ちょっと時間がかかりそう。
まさか、跳びすぎてあたまぶつけてぎゃくにやっつけられるなんてねぇ……。うん。
でも、おかげでおにいちゃんたちがてつだってくれたからよしとする。
20にんいじょうのわるい人相手に敢然と挑む。
優しくて強くて明るい。女の子。男の子の格好をして、男の子より勇気があるおんなのこ。
『黒い髪と黒い目の半妖精は神の子』
お母さんがそういってたけど、その日までは信じていなかった。
お母さんの言うことが信じられないなんて、ぼく、悪い子だね。
かんわきゅうだい。
「その時、武器もない俺はどうしたと思う? 持ち物はランタン、剣の鞘、針金かな? 」
へんなクイズだか武勇談に付き合う僕たち。父さん曰く、これが恒例らしい。
「針金でシャッターつきの金属ランタンを鞘にくくりつけてぶん殴ったの? 」
すぐぶっこわれちゃうけど、その敵の数ならなんとかなりそうだし。
そういうと、「正解だっ! 」といってその人は僕の頭をなでてくれた。
そのひとはもういないけど、すごくやさしい。いいひとだった。
「お酒は呑めなくても、持ち歩いたほうがいいの? では何故だと思う? 」
このおねえちゃんは、『いのちのせいれいの加護を失って』引退した。
高位の精霊使いなら、また命の精霊を操れるらしいけど。
癒しが使えるかどうかは死活問題なの。「バカだが、いい奴らと組んだ」ってろぅは言った。
でも、わるいことじゃないよね。死なずにすんだんだし。
「傷の消毒に、つかうんだったっけ? 」「そう。吹雪のときも便利。でも切れると逆に身体が冷えて死ぬわよ」
おおめにお酒もってて、ほんとうによかったね。
「この知らせを一刻も早く届けなければならぬ俺はどうしたか? 」
「弓矢に手紙をつけたんだよね」「そうだっ!! 」
このお兄ちゃんは、まもの討伐の報を王都に届けるために走りぬいて、力尽きた。
ほかにも、いっぱい、いっぱいおしえてもらった。
だから、ぼくは忘れていない。みんなのこと。ずっと。忘れない。
「旅立つに当たって」
エイドさんは言った。
しゃっきんがいっぱいできて、はらわないとダメらしいけど、ドワーフさんたちと交渉しだいなんだって。
「生き残れよ」うん。そうおもう。
でも、僕には、まもりたいひとができちゃったみたい。
やさしいめがみと。すてきなおにいちゃん。