第04話 ダンジョン作成開始
7月13日。後の話に合わせて、少し加筆・修正しました。
インプにリーダーを作り、名前を付けています。
※DC=ダンジョンクリスタルの略です。
DP=ダンジョンポイントの略です。
“名もなき世界”へ侵入する日を迎えた僕は、アレレッティに確認をしながら、dPadを操作して、狙いをつけていた鉱山の坑道の一番深いところから通路を伸ばし、その先に3つほど部屋を作り、その一番奥の部屋にダンジョンの中心ダンジョンクリスタルを仮置きした。DCの設置が終わると、僕らはいつの間にか、謎の支度部屋から、真っ暗なダンジョンへと移動をしていた。覚えた魔法の中の基礎中の基礎である‘灯り’の呪文を唱え、持っている杖の先に、魔法の灯りを灯すと、DCの部屋には、DCの他にサイズだけは立派な大きさだが、シンプルなつくりで飾りもない、石の玉座が設置されていた。
とりあえず、立ったままっていうのもなんなので、玉座に座るとアレレッティが声をかけてくる。
「おめでとうございます。
ガルドゥーニ=ラ=ソーム様は、冥神“堕とすもの”サリバーン様の使徒たる魔王として、名もなき世界への侵入を果たされました。これで、正式に魔王様でございます。さぁ、ダンジョン作りを始めましょう」
こうして、僕は、ついに名もなき世界への侵入を果たしたのであった。
事前のプランの通り、dPadを操作し、さっそく最初の魔物インプを5匹召喚してみる。
ーーー
インプは、幼稚園児くらいの大きさの全身灰色、無毛でツルツルテカテカした表皮を持ち、背中の翼で宙に浮いて移動のできる悪魔族の魔物で、悪魔族に分類される魔物の中で最下級(というか全ての魔物の中でも下から数えた方が早いくらい)の弱い魔物だ。しかし、暗闇の中でも物を見ることのできる暗視能力に加え、それなりの知能と手先の起用さ、そして、強い物に逆らわない下っ端根性で忠実な僕となるところと召喚コスト・ランニングコストの安さで、初心者魔王に大人気の魔物なのだそうだ。
ーーー
召喚が終わり、僕の前に姿をあらわした5匹のインプたちは、ビクビクした様子で、周りをキョロキョロと見回していたが、その中の一匹が悪魔語でオドオドと話しかけてくる。
「あなたが僕たちを呼んだ魔王さま?。僕たちはどうしたらいいの?」と。
インプを呼ぶために、悪魔語(会話のみ)を習得しておいた僕は、悪魔語で、返事をする。
「エサと寝ぐらを用意するから、このダンジョンに住み、私の命に従え。」
「分かりました。ちゃんと言うこと聞くから、いじめないでね。エサもちゃんとちょうだいね。」
こうして、インプから服従の約束を取り付けた僕は、dPadを操作して、‘魔物取り込み’の作業をする。
召喚した魔物、天然の魔物に関わらず、この‘魔物取り込み’の作業をすることで、ダンジョンに取り込まれ、完全に魔王の支配下に入るのだが、服従させた魔物の取り込みの方が、普通の状態の魔物の取り込みよりもはるかにDPの消費が少なくて済むため、わざわざこんなやり取りをしたのだ。
こうして、完全に僕の支配下に入った5匹のインプたちの最初の仕事は、鉱山の探索である。鉱山の奥にダンジョンを作ったが、鉱山は、まだ僕のダンジョンの領域ではない。鉱山を僕の領域に取り込むためには、dPadのアプリ上に地図を完成させ、‘領域取り込み’の作業をしないといけない。流れとしては、dPadのアプリ‘ダンジョンアイ’・‘オートマッパー’’とインプを接続する。こうすることでインプの見た映像をdPadで見ることができるようになり、また、インプが移動して確認したエリアは、‘オートマッパー’上に自動的に地図が書き込まれていく。そして、地図の出来上がったところを、‘ダンジョン取り込み’作業をすることで、僕の支配権の及ぶダンジョンの領域となるのだ。
探索に向かわせる前に、5匹の中で、僕に話しかけてきた一匹を選び、名前を確認する。そして、そいつをこの5匹の、そして、これからも数を増やしていく予定のインプたちのリーダーにするべく、ちょっとだけDPを使って、能力を伸ばしてやる。見た目にもすぐにリーダーだと分かるように体格を一回り大きくしてやると、それに合わせて少しだけ力や体力、生命力も成長したようだ。そして、リーダーたるべく、知力を伸ばして、リーダーシップというタレント【天賦の際のこと、スキルとは少し違う】を賦与する。
こうして、一気にリーダーらしくなったリーダーインプ、イーニーを中心に慎重に坑道を探索し、鉱山の地図を完成させることを命じ、僕はダンジョン作成の次の段階にとりかかる。
僕は、穴を掘りながらダンジョンを作っていくのではなく、先に巨大な空間を作り、そこに壁や天井を配置していくことで、いろいろな部屋や通路を作るという形でダンジョン作成を進めることにしていた。あくまでも一つの部屋という認識のためかほとんどDPを消費しないで巨大な部屋を作れることは、下調べで確認をしてあったので、床が1辺2kmの正方形の高さが200mの平べったい直方体の形をした巨大な部屋を一つ作る。
さっそく作った部屋の様子を見に行くと、(魔術を使うための補助となる)魔法の杖の先に灯した‘明かり’の魔法の光ですらぜんぜん奥まで届かない巨大な空洞の入口付近に、なぜか大きめのと小さめの二つの小山ができていた。そんなに大きな物ではないが、それでも寝そべった像くらいはあるだろうか。
「これは何?」
とアレレッティに尋ねると
「どうやらこの空洞のエリア内に含まれていた鉱物のようです。ダンジョンの部屋や通路などを作るために土や岩などを消し去るとき、その範囲内に有用な物が含まれていた場合は、このような形で部屋の中に残されるのでございますよ。」
「そうなんだ」
と返事しながら、鉱物を手に取り、鑑定をしてみる。
「え~と、銀の鉱石とミスリルの鉱石みたい。大きい方がミスリルで小さい方が銀みたいなんだけど…」
と僕が鑑定結果をアレレッティに告げると、アレレッティは少しビックリしていた。
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ミスリル、僕らのイメージで漢字にしてみると、“真の銀”といったところだろうか。銀に似た金属であるが、加工をすると、軽く、硬く、そして魔力を秘めるという武器や防具を作るのに適した希少な金属である。その価値は、黄金の何倍にもなるという金属だ。
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「確かに採掘の途中で廃棄された銀鉱山ではありますが、まさか、銀だけではなくミスリルまで出てくるとは…。
それなりの量がございますので、ミスリルや銀の含有率にもよりますが、そこそこのお金とDPにはなると思いますよ。」
そう言ってアレレッティは、興奮しながら、銀鉱石とミスリル鉱石の小山を確認するように見に行く。僕は心の中で、‘もしかすると、“人間が入ってこないようになるといいな”なんて思いながら、DPを使ってもともと“B”だった幸運度を“S”に引き上げたのが効いているのかな’なんて思いながら、アレレッティに尋ねる。
「これで、DPと資金、どれくらいもらえるの?」
と、
「そうですよね、気になりますよね。ですが、正直申し上げて、私はこういた部門は専門外でございますので、判断ができません。本部より専門のものを連れて参りますので、しばらくお待ちください。」
アレレッティはそう答えると、いつものごとくスーッと消えていった。
もしかすると、これで最初のプランよりも少し良いダンジョンが作れるかもな、なんて期待しながら、DCの部屋に戻り、インプたちの状況を確認する。といっても、まだ、1時間もたっていないのだから、ダンジョンと繋がる通路からほんの少し先に進んでいるだけだった。




