第01話 魔王登録
応募をクリックし、目の前が真っ暗になったと思ったら、いつの間にか薄暗い部屋の中にいた。さっきまでの安物のパソコン用チェアではなく、冷たくて固い椅子に座っている。目の前には、燕尾服にシルクハット・ステッキをついて、モノグラムをかけた怪盗ルパンの挿絵のような格好をした男が立っている。
「ようこそ、魔王様。ご気分はいかがですかな。」
「えっ!夢?」
「いえ、いえ、夢ではございませんよ。あなた様は確かに、魔王募集に応募のボタンをクリックされ、魔王として、この世界に招かれたのでございます。憶えてらっしゃいますよね。」
「マジで!?
あれは、新作ゲームのプレーヤー募集か何かのHPじゃなかったの?」
「ふふふ、ご冗談を。
どこにもそんなことは書いてなかったでしょう。それに、あのページにたどり着いたということは、あなた様は、あちらの世界に未練がなく、迷宮という言葉が好きで、何より魔王としての素質をお持ちということなのでございます。
「はぁ、そうですか」
(そう言われれば、別に大事な家族がいるわけでもないし、恋人もいないし、友達もほとんどいないし、仕事も惰性でやっているだけだし…。未練がないと言えば、未練はないなぁ。それに迷宮は大好きなんだよなぁ~。でも、魔王としての素質って?)
「僕は、ホントに魔王になって迷宮を作れるんですか」
「おぉ、その順応性の高さ、素晴らしいですね。私も話が早くて助かります。ところで、あのページは最後まで全部読まれましたか」
「はい、いちお、神話っぽいのと、魔王になったら…、っていうのは一通り目を通しましたけど…」
「そうですか、では、改めまして、自己紹介をば。
私、ダンジョン商会のあなた様のご担当の営業マンで、アレレッティと申します。よろしくお願いいたします。それでは、まずは、あのページに載っていたことで気に点はございませんか」
「えっと、とりあえず、DPでいろいろできるらしいってのは分かってるんだけど、ダンジョン商会との取り引きはどうなるの、やっぱりDPで取り引き?あと、そもそもダンジョン商会って何なの?」
「なるほど、なるほど、そうですね。
まずは、ダンジョン商会のご説明から、ダンジョン商会は、この戦いが始まった当初、闇の神々はそれぞれ勝手に魔王様方を呼び出して迷宮を作らせていました。しかし、なかなかうまくいかず、良いダンジョン、発展するダンジョンを作れずにいました。そこで、魔王様方同士が協力しやすい環境を作り、また必要なものを効率よく魔王様方に届けられるように、お店からいろいろな物を購入したり、不要な物同士の交換や必要な物を融通しあうトレード、魔物の繁殖のためのパートナー探しの場を提供したりする組織を作り、魔王様方のサポートをすることにされたのです。そのために作られたのが私どもダンジョン商会なのでございます。
続きまして、私どもとのお取り引きについてですが、こちらは全世界共通のお金を使って、お取り引きをしていただくことになっております。この世界には、金貨・銀貨・銅貨がございまして、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となっております。」
「はぁ、そうなんですね。
ところで、僕の手持ちのお金と、DPってどれくらいあるんですか」
「気になりますよね。大事なところですもんね。
その前に、2つほど大事なご説明をさせていただきます。
まずは、あなた様をこちらの世界に招かれたあなたのマスターとなる闇の神さまのご紹介です。といっても、神様と直接お目にかかれるわけではないんですけどね。あなた様をこちらの世界に招かれたのは、“堕とすもの”の2つ名で呼ばれている堕落と怠惰、享楽を司る神:サリバーン様です。
いろいろな神々がおられますが、サリバーン様は魔王様に干渉されることはほとんどないですし、特にノルマや目標を設定されることもない神様ですので、あなた様にとってはすごくやりやすい環境だと思います。神様によっては、いろいろと細かい指示を出されたり、いついつまでになになにを達成しろといった感じのノルマを課される干渉好きな神様もおれらますのでね。
続きまして、じゃじゃーんこちらのご説明です」
といって、アレレッティは、A4のノートくらいの薄い鉄の板のようなものを取り出して、僕に見せる。
「こちらが、魔法科学の粋を尽くして作り上げたダンジョン作成支援ツールの“dPad”でございます。しかも、今度、出たばかりの第3世代の通称“新しいdPad”と呼ばれている人気の品ですよ。」
やけに興奮して僕に鉄の板を見せるアレレッティ、イマイチよく分かってない僕にアレレッティは、こう言った。
「あちらの世界の‘リンゴ社’の“愛発動”のこちらの世界版だと思っていただければ、分かりやすいかと思います、はい。」
「なるほどね、‘リンゴ社’の“愛発動”ね、了解」
「こちらは、“dPad”では、ダンジョンの作成・管理、DPを使った様々なこと、ダンジョンを作ったり、魔物を召喚したり、管理したり、アイテムを強化したり、魔王様の能力を強化したり、などなど、や、私どもダンジョン商会とのあらゆるお取り引き、世界の情報の収集、他の魔王様との連絡など、ダンジョンを経営していく上で、必要と思われるありとあらゆる機能が詰め込まれております。
また、オプションで様々なアプリケーションをインストールすることも可能ですので、今後開発される新機能の導入やあなた様が必要だと思われる機能の導入も思いのままの、優れものなのでございます。」
と言って僕に画面を見せる。よく見てみると、‘リンゴ社’の“愛発動”っぽい画面にいろいろアイコンが並んでいるが、残念なことに僕には全く読めない文字だった…。
「あの…、字が読めないんですけど…」
「…。
…。
ですよね。
あなた様に、“dPad”をお渡しする前に、こちらで、まず、あなた様のお名前のご登録と、DPを使って、闇の神々の眷属の共用語である、冥界語の会話と読み書きの能力の取得をさせていただきますが、よろしいですか」
「よろしくお願いします。」
「それでは、あなた様のこの世界での魔王としてのお名前をお教えください」
「そうだなぁ、う~ん。
じゃぁ、ガルドゥーニ=ラ=ソームで、お願いします。」
「人間族の、魔王ガルドゥーニ=ラ=ソーム様でよろしいですね。合わせて、冥界語の会話と読み書きの能力の取得をさせていただきます。よろしいですか」
「はい、お願いします。」
こうして、僕は、魔王ガルドゥーニ=ラ=ソームとして、この世界に登録されたのだった。
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