第16話 隠れ里
イーニーたちインプが作ってくれるdPad上の地図を見ながら、チェシャ猫のカトゥスの転移能力で転移をして、地底の池や鉱山内の主要な施設の跡、村の跡を実際に見て回り、今後の方針・プランを考えたりしているだけで、一週間以上もかかってしまった。
村の跡を利用して、ミスリル加工の技術を持つ鍛冶コボルドの群れが生産活動を行う工房を作る。そのために、ダンジョン商会を通じて、群れの長ティファルを招いた。ティファルと一緒に村の跡を見て回りながら、いろいろと打ち合わせをした。
ティファルに会って、まず驚いたのは、彼は粗末な布きれしか身に着けていなかったボルトたちと違って、質素な物ではあったが、ちゃんと服を着ていたことである。
いろいろ話を聞いてみると、野生のコボルドたちと違って、鍛冶コボルドたちは服を着て、家に住み、食事もある程度料理をしたものを食べるといった感じで、比較的文化的な暮らしをしているとのことだった。そのため、作業をするための場所も必要だが、まずはキチンとした家を建てて欲しい。というのが第一の希望だった。
ミスリル加工の秘術を伝える鍛冶コボルドたちは、代々‘長’の家系であるミスリルを精錬する技術を受け継ぐ者が1家族、武器に加工する技術を受け継ぐ者、防具に加工する技術を受け継ぐ者がそれぞれ2家族ずつ、研ぎと仕上げをする家族の6家族で構成されている。
それに合わせて、その6家族が住めるように家を建てていく。これはDPを使って建てることもできるのだが、ダンジョン商会から、‘長’用の大きめの家を1軒と普通の家を5軒購入して、配置した。
次に、精錬作業をする精錬所と、武器・防具を作り仕上げをする鍛冶場とを並べて作った。
これらも建物自体は、ダンジョン商会の鍛冶場用の建物をベースに、精錬所には、もともとコボルドたちが使っていた特殊な精錬用の炉を移動させて設置し、鍛冶場にも同様に特殊な炉を移動させて設置する。
作業場の他に、ミスリル鉱石や精錬に使う石炭などを保管する倉庫、出来上がった武器・防具を保管する倉庫などの建物を建て、ダンジョン商会への販売用に、交渉・販売をするための商館もどきを建てた。
あとは、鍛冶コボルドたちの集会場と、出来上がった武器を試しに使ってみるための広場を用意して、鍛冶コボルドたちの居住エリア兼工房は、完成した。
当たり前だが、村は鉱山の外にある。そのため、明族が森を超えて侵略してきた時に、すぐに攻撃を受けてしまう。
そうならないようにするために、今回作った部分だけでなく、もともとあった村の範囲をそのまま新しい村の範囲として、そこに‘ある’のに招かれない者は見ることも入ることもできない特殊な幻覚と空間干渉の力場を、DPを使って作りだし、“隠れ里”にした。
そして、DPを使って、40匹の鍛冶コボルドたちを一気に召喚する。
‘長’のティファルとの事前の打ち合わせで「安全に暮らせて、物資が提供されて、好きな鍛冶仕事に打ち込めるのであれば忠誠を誓う」ということで、話はついていたので、そのまま取り込んで、僕の配下となった。
鍛冶コボルドたちは、村に来た翌日からさっそく作業を始めたの。だが、特殊な技術を用いるため、精錬用の炉が温まって精錬できるようになるまで1週間、精錬を始めて精錬ができるまでに、また1週間ほどかかるために、最初のミスリル塊が出来上がるまでに2週間もかかってしまうんだそうだ。
アレレッティに確認をしたところ、確実な需要がありそうな剣や小剣を作って売るのが確実だろうと、いうことで、当分の間は剣・小剣を中心に作らせていく予定だが、精錬が終わり、最初の武具が出来るまでは特に口出しをすることないので、鍛冶コボルドたちのことは、ひとまず置いておいおく。
工房が完成した日の夕食の際に、みんなに「コボルドのミスリル工房が完成したので、興味があれば行ってみて、欲しい武具があれば、自由に頼んでいい」ということを伝えた。
武人であるゴズールとメーズルは、ミスリルで武具を作れる鍛冶職人が来たということで、かなり興味を持っているようだ。僕が打ち合わせをしたり、村を作ったりしている時にも、ちょこちょこ顔を出して、ティファルと話をしていたようなので、きっと明日にでも工房に顔を出すだろう。
工房が出来たので、次の日から僕は新しい作業に取り掛かった。
鍛冶コボルドたちは、普通の布製の服を着て過ごしているが、ボルトたちの群れのコボルドは、もともと野生の服でキチットした服を着る習慣がなかった。そして、服を着ることをよしとしなかった。しかし、今後はメスには服を、戦うオスには鎧を着させるつもりなので、第一段階として、狩りで狩ってきた毛皮を着させることにした。
毛皮は、森に狩りに出るウォルフガングと狩人コボルドたちが撮ってくる。その狩りの獲物をさばいたり、革製品の加工をするための加工場を隠れ里の中に作ってやる。これもダンジョン商会から皮革加工用の建物と工具一式、原料となる革を購入し、それに合わせて、専門の職人として革製品の加工技術を持つコボルドも1匹召喚した。
2週間の間に3度ほど狩りに出て、ウサギや鹿を狩り、狼の群れを発見していた。狼の群れは、最初の遭遇で、4匹ほどを捕まえてダンジョンに連れて帰ってきていた。次に出かける時に群れごとまとめて支配してみせると、ウォルフが自信満々だったので、楽しみにしておくことにする。
そんなことをしている間に、工房での最初の武具が完成したということで、呼ばれた僕が工房に行くと、ゴズールとメーズルも待っていた。2人は、青みがかった魔法の燐光を放つハルバードを手に持ち、胸当て・肩当てに手甲やすね当てなどの体の動きを邪魔をしない部分だけを作った鎧というよりは、防具一式を身に着けていた。
ゴズールとメーズルは、僕が話をした後、すぐに工房に行って、武器の親方ルード、防具の親方オボルに頼み込んだそうだ。そして、何度も何度も打ち合わせをし、出来上がってきたの今回のハルバードと防具なんだそうだ。
本来であれば、ハルバードの柄の部分は重くなり過ぎないように木で作る。だが、ミスリルの軽さを生かして、今回は、槍の部分や斧の部分から柄・石突きに至るまで、全てをミスリルで作ったようだ。
防具も、2人の要望を聞き、しっかりとサイズを図って作られただけあって、防具のサイズはピッタリで、ハルバードをブルン、ブルンとふるう2人の動きをぜんぜん阻害していないように見えたし、試し斬り用に置いてあった周囲が一抱えもありそうな丸太を、突けば軽々と貫き、斬ると丸太を真っ二つに切り裂く抜群の切れ味を示し、その出来栄えに2人も大満足のようだった。
それを見た、アレレッティも
「素晴らしい出来栄えですね。今後が楽しみですね」
と、その出来栄えに太鼓判を押してくれた。
今後のことは、商会側のアレレッティ、工房側のティファル、ルード、オボルたちとよく相談をしながら、決めていかないといけないだろう。