これが俺の仕事です
コック服に着替えた俺は厨房に戻った。
それを見たリューシャは少し驚いた顔をして「そっちの方がカッコイイね」と言った。
少し照れたが俺は本来の作業に戻る。
親父もリューシャに「母さんが部屋に案内するからそこで先に届いている荷物を整理して来なさい」とリューシャに退室を命じた。
そして、リューシャは母さんと共に上の階に上がっていった。
もちろん俺はリューシャに「美味いモン食わせてやるから大人しく待っときな!」と伝えた。
親父の方も本来の作業に戻っていった。
とりあえず、俺の担当は下ごしらえがメインで一部の料理だけ完全に担当を任されていた。
中学の頃は絶対に任せてくれなかったのでそう思えば進歩した物である。
ウチのやり方は効率よりも手間隙をかけて丁寧に料理をする事が心情であり妥協は許されない。
オヤジがそう言う主義なのでそれは俺にも身についている。
もっともそれが受けたのかどうかは分からないがこの店は地元のちょっとした名店と噂されているのだ。
昼は簡単なボウルシィ(ボルシチ)とライスがメインで安い値段設定に抑えてランチを提供し、夜はちょっと高いが本格的なロシア料理を頂ける。
ロシア人のお客さんには完全に向こう向けの味付け、日本人のお客さんにはアレンジを加えて提供。
通の日本人のお客さんだと向こうの味でオーダーが通る事もある。
他にはお一人様5万円のコースがあったりもするのだが、料理は前金予約制でそれを用意する為に俺らもかなり苦労する。
もっとも値段が値段なので頼む人間こそ少ないがロシアの大使館関係者が絶賛する程の美味さを誇り、オヤジの完全な趣味の料理でもあった。
ひたすら、そんな事を考えている内に下ごしらえが終わった。
空港にリューシャを迎えに行ってる間、どうやら仕事の大半を親父がこなしていた様だ。
次に俺は担当している料理の調理に入る。
今日はリューシャの歓迎会でわざわざ店を閉めて5万円のフルコースを皆で食べるのだ、そりゃ気合も入るぜ!
思わず俺のノドがゴクリと鳴った。