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事の始まり

頭上で「ゴゥッ」と言う音が鳴り響く。


先程から俺の目の前を行き交う人々は手に大きなスーツケースを持っており、今では珍しくも無いが外国人の姿なんかも多い。

俺の前を通り過ぎる人々は皆それぞれ楽しそうに休日を満喫していて時折、笑顔なんかも覗かせる。


だが俺はそんな中、機嫌が良いとも悪いとも言えずに一人でポツンとその喧騒を遠巻きに見つめていた。

時間に余裕を持って早めに家を出たのが仇となり、こうしてボーッと『そいつ』の到着を待つのが今の俺の仕事である。



そもそも、それを聞かされたのは昨日の昼であった。

仕事が終わって少し遅い昼食を取っていると親父が突然立ち上がり、「友人(子供)が明日からウチに泊まるホームスティになったから明日の朝は仕事をせずに空港まで迎えに行ってくれ!」と。



そんな訳で・・・。

俺は朝から国際線のロビーでホケーッと『そいつ』の到着を待っていた。



それにしても、今思い返せば冬休みにガラクタ置き場だった空き部屋を整理させられ、親父らが家具を買いに行ったりと兆候が色々とあった。

気がつかない俺も俺だが・・・あの親父を頼ってわざわざロシアからやって来るなんてホントに物好きなヤツだと思う。


こうして客観的に実の親の事を語ると一見バカにしているように思えるが、実は口に出さずとも親父の事は十分に尊敬している。

何故ならあのガタイと熊のような手で神のような料理を作り出すからだ。


これが普通のサラリーマンなら隠れた才能で終わったであろう。

しかし、料理人としてなら話は別だ。

おかげで店には行列が出来、TVや雑誌の取材で取り上げられ、著名人なんかも来るので連日大繁盛。

自惚れだと自負しているが日本におけるロシア料理専門店としてなら親父が実質トップなんではなかろうか。


俺も高校になってからやっと親父に許可を貰え、まともに担当出来る(料理が作れる)ようになったけど今現在は逆立ちしても親父に敵わないのが現状だ。

いつかは料理、格闘術でも親父を超えて見返してやる!

俺の中ではそんな小さな野望が渦巻いている。



それにしても、飛行機がそろそろ着くハズなんだがウチにホームスティしに来るヤツってどんなヤツだろう?

親父はお前が小さい頃、よく一緒に遊んでたろ?と言うが全然思い浮かばない。


少なくとも軍人時代(元)の友達の子供でロシア人と言うのは確定している。

この春から一緒の高校に通うと言うのも昨日聞いた。

やはり、軍人の子供らしくイカツい野郎である事は予測出来るな。


もっとも、別に誰が来ようが俺自身はいつもどおりに暮らす予定。

逆に考えればそいつに店の雑用をさせられるので少し自由な時間が増えるかも知れない。

それなら大型バイクの免許でも習いに行こうかな?

俺はポジティブに物事を考えていた。



ココで一度、整理しておくか・・・。


俺の親父は元軍人で現料理人のロシア人。

母親は普通の日本人だが若い時に海外系のボランティア活動をしていたらしい。

その結果、生まれた俺はいわゆるハーフと言うヤツだ。


髪は銀髪、目の色も灰色がかった青で自分で言うのもなんだが見た目はカッコイイ系の男だと自負している。

しかし日本で生まれ、日本に住んでるので感覚的には完全な日本人。

言い方を換えれば純粋に日本人過ぎて外見よりはつまらない男でもある。

だけど言語に関しては幼い頃から育った環境でロシア語の読み書きはバッチリ。

数少ない特技みたいなモンだ。


だから今日からウチに住むヤツの事も学校で色々とフォローしなくちゃいけないハズだ。

日本語は多少、向こうで勉強していたらしいがまだ怪しいレベルらしい。


しかし・・・周りから問題児扱いされている俺にそれがちゃんと勤まるのであろうか、いささか不安を感じる。

だけど問題児とされた原因は主に俺にあるのだけれど正当防衛(過剰防衛)を含む人助けが

その起因でもあるので個人的には今の現状に納得がいかない部分も多々あるんだよな。


ただ、今更だがアレは完全にやり過ぎた。

アレが原因で学校で不良扱いされ、中学時代も今現在も親しい友達はいないのだ。

一部だけ例外はあるのだけれどアレはカウントしないでおこう。

俺はそんな事を考えながら空港に到着したばかりの飛行機から降りてくる『そいつ』を待った。



(15分経過)



俺はさっき買って来た缶コーヒーをチビリチビリと飲みながら片手に家から持たされたタオル程の小さな横断幕を適当に持っていた。

横断幕には手書きのロシア語で「日本へようこそ! アレクサンドル廣井より」と書かれている。

もう飛行機は空港に着いてるのだが入国手続きやら荷物の受け取りで時間がかかってるようだ。

それらしいヤツを見つけたらちゃんと上に掲げるか。

まだ半分ほど残ってる缶コーヒーを持ちながら俺は物事をいい加減に考えていた。


しばらくしてゲートからそれらしいヤツがやって来た。

親父の友人の子供らしく見た目がイカツくマッチョなヤツだ。

それにしても外見から年齢が判断し辛い・・・外人はコレだから困るぜ。

待ち構えていたがそいつでは無かったようだ。


またそれらしいヤツが来た。

今度はえらく太ったヤツだ。

もしアイツであれば食費がスゴイ事になるんじゃないか?と少し不安になる。

しかし、そいつでも無かった。


なんで俺こんなにそわそわしてるんだろう?

「ふうっ」とため息を一つついて冷静になる。


「привет(こんにちは)!」

と、ふいに横から声をかけられた。


ロシア語で話かけられたのだが俺は柔軟に対応する。

「どうしました?」とロシア語で話しながら振り向くとそこに北欧系の美少女と言っても過言ではない少女が一人立っていた。

俺は一目見て綺麗な女性だなと思った。


そして次の言葉は思いがけない一言だった・・・。


「えーっと、コーヤさんですよね?」


俺は頭の中で大きな大きな?マークが浮かぶ。

「へっ?えっ?」と意味が分からず、しどろもどろに受け答える。

今の俺は間違いなくアホ面だ、死にたい・・・。


続けて少女はこう言った。

「はじめまして、私はリューシャ・ドストエフスカヤです。コーヤさんで間違い無いですか?」


俺は一瞬にして頭の中が真っ白になった。

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