自分と関係ない世界。
『・・そうですね。やはりカミングアウトする事に対しては、とても悩みました。』
『でもまあ、自分はずっと自分ですね。』
インタビュアーの質問に対し、彼はていねいに言葉を選びながら・・それでいて答えずらい質問に対しても嫌な顔ひとつせずにきちんと答えてくれている。
時折、うっとりするような柔らかな笑みを見せながら。
気が付くと駅の大型テレビの前には人だかりができていた。
大勢の女子達で。
皆、推しの会見を見るために。
昨日、ファンクラブの告知サイトで”ファンの皆様への重要なお知らせ”の配信があった。実は昨日の夜の時点ですでに配信の中で会見自体は終了しているのだが、あまりにも衝撃的な内容であるために翌日から世間は案の定、大騒ぎであった。
当初の放送予定だった番組は次々と差し替えられ、どのチャンネルを回しても列島中がほとんどこの話題で持ちきりのようであった。
緊急で特集が組まれているのである。
若手超人気ダンスボーカルユニットの一人でもあり、メインボーカルでもある彼。
少しキーの高い伸びやかでいて、しかし確かな歌唱力を持つ彼。
他のメンバー二人と同様、キレキレのハイレベルなダンス力も持ち合わせる彼。
細いが・・鍛え上げられ引き締まった身体、サラサラの髪に長い手脚に甘いマスク。
音楽番組などで女子アナが絡むたびにネットが大荒れ。
そんな彼。
また、ユニットがデビューから瞬く間に新人賞、ドームツアー、海外進出・・。
他の二人のメンバーの人気もすさまじいが、やはりここまで人気が出たのはそんな彼の影響だろう。
そして、
そんな彼が昨夜のファンクラブ配信で『自分は女です。』と言ってからのこの大騒ぎである。
なんで男装してるのか?とかの理由ははっきり言わなかったけど、事実の方が衝撃的すぎて、もはやどうでもいいレベルであった。
『メンバーとも話し合った末、もう隠しきれないな・・と。ここまで来ることができたのは、やっぱり他ならぬファンの皆さんの存在が大きいので。』
『自分は・・自分たちはこれからも支えてくれるファンのために性別などと言う些細な概念を超えた最高のパフォーマンスを提供していくつもりです。』
彼はこう言って話をしめくくり、軽く頭を下げた。
そして再び顔を上げると、満面の笑みで他のメンバーと一緒に手を振った。
そこで配信が切れて、画面がスタジオに戻る。
・・些細な事じゃない気がするんだけど。でも、とても同性とは思えない爆イケぶりを見ているうちに自分の悩みなんて、”些細”な事に思えてきた。
気のせいか、周りのおなご達も爆弾発言がたいして効いていない様子でうっとりしていた。
・・そうよね。
そう・・・そんなの。
そんなの”些細”なことよ!! ささいなこ・と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”通帳の残高”なんてさ・・・・・!!
そう思いながら、芋姫は銀行のATMを出た後・・自転車のおじいさんを器用によけながら、<我が脳内>の存在しない推しと世界観に心から深々と感謝の念を送るのであった・・・・・・・・・・。
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・・人って、よく現実逃避で妄想をするって言いますよね。そしてたいていの場合はお金持ちになった自分、恋人ができた自分とか、好きな芸能人と付き合う自分・・みたいな自分がらみの事ですよね?
だからたまに不安になります。私の場合、全然違うから。
ストレスがピークに達したりとかすると、もう自分のいる世界とは全く関係のない世界とかを頭で作りだすから、そして一人でニヤニヤするから手に負えないよね。
こんなユニットは存在しない上、自分すら出てこない世界。
あるいはその架空の世界の人物に自分を投影しちゃうみたいな。
私は今日、炎天下の中をお金や用事の段取りの事を考えながら歩くことに疲れ果て、足が動かなくなってきたタイミングでこの推しが突如、脳内に出現しました。
同時にコンサートの様子が臨場感たっぷりに脳内で開催される頃には嘘のように軽やかに歩き出していましたw
その時は、<やっべえ、まずいなあ・・また、始まった。>と思いましたが、元気になってきたのはまちがいないので目的地に着くまではとりあえずそのままにしときました。(←転ぶぞ、いいのか?)
現実があまりにつまらなく感じたり、ストレスがピークに達するとこういう現象が助けてくれる・・のかな?
この前も気が付いたらスキンケアをしながら【イタリアのマフィアのお茶会】を見学していましたから、ちょっとやばいね。コレ。
でもどんなにつまらなくても<平和>なのは間違いないんだね、きっと。
完
自分はずっと自分。(なんかやだw)
あと全く関係ないんですけど・・まだ7月なのに、家の周辺の草むらでもう鈴虫っぽい鳴き声がします。




