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prologue 勇者は少女に恋をした

 石造りの神殿の中――そこには一人の少年とそれに向き合う一人の少女しかいない。

 霧島 人吉は異世界タルタロスに召喚された。

 その表情に驚きはない――何故ならば知識があったからだ。

 召喚されると同時。この世界の理が、この世界の罪が。

 しかし、人吉の表情はとある表情に染まりきっていた。染まりきっていたというのに、見かたによっては複数の表情がそこにはあった。


 羞恥/歓喜/哀愁

 

 矛盾する表情、しかし矛盾していない表情――否、人吉の表情を表情としてみる事が間違いだった。

 けれどたった一つ、それを伝える言葉がある。



――霧島 人吉は一目惚れをした、その表情は恋するもののそれである



 その人の整った顔を見るのが恥ずかしかった。

 その人が自分をみてくれているのが嬉しかった。


 けれど、その人が泣きそうな顔をしているのが悲しかった。


 だから、だからこそ人吉は決意した。

 口を開き、告げる。 それに目の前にいる女の子は罵倒をされるのかと身を竦め、しかし。



「世界のためじゃない、君のために勇者になりたい」



「……え?」


 少女は驚き顔を上げた。

 腰まで届く桜色の髪が揺れるのを見て、キレイだなと人吉は思った。


「俺は……俺は、君を恨んだりはしないよ」


 人吉は告げる、同時に普通ならばありえないことをいっているのだと理解している。

 何故ならば、勇者とはある意味生贄なのだ――魔王からの被害を減らすための。

 元の世界のRPGとは違うんだなと人吉は思い、当然かと苦笑した。

 勇者は決して魔王に勝ち得るLvにはなれない――何故ならばその前に魔王に殺されるからだ。

 強くなり始めれば魔王に目をつけられ、そして強くなりすぎる前に消される。

 それが勇者だ。魔王に殺されるまで人を守り、国を守り、世界を守るのが。


「……こ、こま、こまります…………勇者様には私を殺してもらわないといけないんです」


 少女は言う、その黒色の大きな瞳に涙を溜めそうになりながら。

 少女もまた生贄なのだ。

 故に少女が身につけているのは巫女服。

 

「大丈夫、必要ないよ」


 勇者が魔王に対する生贄であるのならば、少女は巫女であり勇者に対する生贄なのだ。否、生贄ではなく呪いあるいは祝福というのが正しいのだろうか。

 巫女を殺せば心が強くなれる――前の世界のことを覚え、それを胸に抱えたまま勇者となれる。


 家族/友人/恋人/幼馴染/恩人


 思いつくのはそれくらい、けれど言葉に出来ないどんな関係の人にももう会えない――人吉はそれをこの世界にきた瞬間に理解した。


 会えない、遭えない、逢えない!


 会えないのだ、絶対に。

 だから勇者は巫女を殺すのだろうと人吉は理解した。

 巫女を殺せば呪いがかかる、祝福がかかる、それは……過去を覚えたまま、記憶を残したまま――会えないのだという、つらい感情を消すことが出来るというものだ。

 かわりに勇者は王国に忠誠を誓わされる――けれど大抵の人がこちらを選ぶだろう。

 絶望なのだ――世界の理として元の世界に帰れないというのは、ましてやそれを誰よりも理解してしまっているというのは。

 だが、と人吉は思う。それがどうした?と。

 人吉には両親がいない、しかし友人はいる、恋人はいないが幼馴染もいる、そして恩人もいる。

 つらいさ、つらいとも、つらくないわけがない。

 認めて、それでも思う。それがどうした?と。


 目の前には少女がいる。

 泣きそうな少女がいる。

 一目惚れをした少女がいる。


 だから、いいか?だからだ、と人吉は自らに念じる。


――笑えよ、俺。そうして目の前の女の子の悲しみをぬぐってやれよ


 俺が笑えれば目の前の少女の悲しみは薄れる――確信があった。

 何故ならば、


 霧島人吉()は自分が生贄であるというのに、勇者を心配する少女に一目惚れをしたのだから。


 どこの世界に自分を殺す人間を心配できる人がいる?

 どこの世界に自分を殺す人間を思って泣きそうになる人がいる?


 どこの世界にそんな、そんな心の強い人がいる?

 だから一目惚れをした、焦がれた。


「殺して、ください……殺してくだされば勇者様の悲しみは消えます」


 泣きそうなまま、申し訳なさげに人吉を見つめ、そして死への恐怖に身体を震わせながら、それでも少女はそういった。

 だから、人吉は笑えた、笑うことができた。

 本当強いな……そう思って笑えた。

 意識をせずとも唇が、喉が、肺が、体が動き。




「君が好きだからそれは出来ない」




 気が付いたら告白をしていた。


「……え?」


 少女が言葉に戸惑いかたまる。

 一秒二秒三秒と過ぎて、やがて少女の白い肌が桜色を――彼女の髪の色を超えて真っ赤に染まった。

 対する人吉の顔も真っ赤に染まり、しかしそれでも人吉は視線をそらさず今度は意識をして続ける。


 否、繰り返した。


「世界のためじゃない、君のために勇者になりたい」


「あっ、あ、あの勇者さ――」


 遮る、聞かなければならないことがあるからだ。


「――名前を、名前を教えてください」

「え、あの、あ、はい、わ、私は、カルセオラリア・エスティルです」


 覚えた、刻み付けた。


「俺は霧島人吉」


 名乗り、人吉は一間をとって続ける。


「魔法使い霧島人吉は誓う。

 世界よりも、何よりも、カルセオラリア・エスティルのために勇者となると」


 それは誓いであり契約だった。

 無言の時間が流れ、そうして。

 そうして人吉は顔が真っ赤なままちょっとだけ苦笑して尋ねた。


「ところで俺は君の事をなんて呼べばいい?」


――カルセと、小さな声で少女は答えた

神野森人は拳で戦うのほうがまだ序盤だというのにもう一つはじめちゃいましたorz

同時進行ですが、あちらのほうが更新は優先、かな?

こちらも感想お待ちしております。

関係ないですが霧島って名前かなり好きなんですねー作者。

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