8
訓練場は、水を打ったように静まり返った。
ゴーレムの魔石が転がる音だけが、虚しく響く。
「……五秒……だと?」
試験官のペンが床に落ちた。
ザギは口を大きく開けたまま、何が起きたのか理解できず、持っていた大剣を落としそうになっていた。
「今、何をした……? 魔法も使わずに、土のゴーレムを粉砕しただと?」
「偶然だよ。核にヒビが入ってたんだろう」
カイは無造作に剣を鞘に収め、何事もなかったかのようにリナの元へ歩み寄る。
「リナ、終わったぞ。……帰りに飯でも食っていこう」
「え、あ、はいっ……! カイさん、今の……かっこよすぎます!」
リナが興奮してカイの腕に抱きつく。その様子を見ていたザギが、顔を真っ赤にして叫んだ。
「ふざけるな! あんなのインチキだ! おい、無色のゴミ! 俺と勝負しろ! 本当の実力を見せてやる!」
ザギが逆上し、本気で火の魔力を解放する。
彼の背後に、巨大な炎の剣が形作られる。それはギルド内では禁止されている全力の攻撃だった。
「死ねぇぇぇ!」
猛然と突進するザギ。
カイは溜め息をつき、振り返ることさえしなかった。
ただ、左手で鞘を僅かに弾く。
——カツン。
鞘の尻が、突っ込んできたザギの眉間に「置かれた」だけ。
それだけで、ザギの全身の魔力が逆流し、彼は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「……属性を制御しきれていない。もっと修行しろ」
カイの背中は、もはやFランクの少年のものではなかった。
その光景を、訓練場の天井裏から見つめる影があった。
鋭い耳。野生の気配。木の属性を宿す獣人、フェリスである。
(……見つけた……)
彼女の尻尾が、興奮で小さく震える。
(属性の匂いが全くしないのに、死ぬほど強い死神。……あの人の隣なら、私はもっと『上』に行けるかも)




