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二人が最初に受けた依頼は、誰もが嫌がる『下水迷宮の泥鼠の間引き』だった。
悪臭と湿気が立ち込める地下道。火明かりをリナが灯すが、その光は不安げに揺れている。
「カイさん、気をつけて。ここ、最近は『泥濘の主』っていう変異種が出るって噂で……」
リナの言葉が終わるより早く、奥から不気味な粘着音が響いた。
現れたのは、体長3メートルを超える黒い粘液の塊。物理攻撃を透過し、触れたものを溶かす、初心者殺しのボスだった。
「ひっ……う、嘘。なんでこんな浅い階層に!?」
リナが震える手で杖を構える。
「『水弾』!」
放たれた水の弾丸は、ボスの体表に吸い込まれ、逆に敵を巨大化させる。属性の相性が最悪だった。
グライム・ロードが巨大な腕を振り上げる。リナは恐怖で動けない。
「……リナ、目を閉じろ」
カイの低い声が響いた。
「え……?」
「いいから。三秒だけでいい」
リナが反射的に目を閉じた瞬間。
世界から音が消えた。
カイは錆びた剣を、あえて鞘に収めたまま構える。
無色一刀流——『空断』。
一歩。
踏み込んだ足が石床を粉砕するが、その衝撃波さえもカイの剣速が追い越す。
抜刀。
錆びた鉄剣が、ボスの粘液の核を、一秒間に百回を超える超高周波の振動と共に斬り刻んだ。
粘液が、分子レベルで分解され、霧となって消散していく。
カイはゆっくりと剣を鞘に戻し、元の位置に立った。
「……もういいぞ」
リナが目を開けた時、そこには何もいなかった。
ただ、湿った空気が漂っているだけだ。
「あれ……? 魔物は……?」
「逃げたみたいだ。水の魔法が怖かったんだろう」
「……ええっ!? そんなことあるんですか!?」
リナは驚愕しながらも、どこか確信していた。
目の前の、無機質な表情をしたこの少年は、この世界の常識を根本から覆す存在なのだと。




