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数刻後。
ムラマサの手には、一本の剣が握られていた。
それは、刀身がガラスのように透き通り、それでいて闇よりも深い黒を内包した、奇妙な剣だった。
「名は……『虚空』。属性を喰らい、理を断つ。……この世で唯一、お前の速度に耐えうる器だ」
カイがその剣を手に取った瞬間。
工房を満たしていた灼熱の熱気が、一瞬で「凪」に変わった。
剣が周囲の熱(魔力)を、ただの「エネルギー」として吸収し、虚無へと還したのだ。
「……行くぞ、二人とも。外のゴミ掃除だ」
カイが工房の扉を開ける。
そこには、自分たちを追い詰めた火精ギルドの軍勢が、驚愕の表情で立ち尽くしていた。
カイは剣を構えない。
ただ、静かに横一閃。
——刹那。
軍勢が放っていた全ての魔法、全ての武器、そして彼らの「戦意」そのものが、一瞬で消失した。
斬られたことさえ気づかせない。ただ、そこにあった「力」が、世界から消し去られたのだ。
「これからは……」
カイは新しい剣を鞘に収め、空を見上げた。
「俺たちが、この世界の色を塗り替える」




