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さようなら、俺のいけてる相棒……

 「はぁぁぁ!? うそだろぉぉ!? マジで!? 嘘! 大嘘!!」


 ガバッと跳ね起きた俺は、布団をバサバサバサッ!と三回連続でめくり上げる。


 一回目……ない。

 二回目……やっぱりない。

 三回目……おい、完全に消えてやがる!!


 「俺の相棒が……! 家出!? マジで家出かよ!? 大事にしすぎたせいで『もうお前とは無理』って出てったのか!? 毎日『おはよう』『おやすみ』『今日もいけてるな♡』って語りかけてたのにぃぃ!!」


 熱い涙がツゥ……と頬を伝う。

 ……って、走馬灯とか流れるわけねぇだろ!


 だってまだ一度も一緒に実戦出てねぇんだぞ!

 デビュー戦すら迎えられずに失踪とか、どんだけ不遇キャラなんだよ!


 護衛騎士のジークの相棒はもうバリバリ敵を両断してるって話だし、アレンに至っては単騎で三体同時撃破の伝説まで作っちまってるらしい。


 なのに俺の相棒は……消息不明だと……?


 第一王子という肩書きの呪いか?

 それとも俺の根っからのコミュ障が致命的だったのか……!?


 ガクッと肩を落とした瞬間、視界の端に映ったのは――シャツを押し上げる、控えめだけど確実にそこにある膨らみ。


 「………むむむむむねぇぇぇーーー!!!」


 震える手でそっと触れてみる。

 柔らかい。弾力がある。夢にまで見た感触が、ここにある……!


 「………いや、なんも楽しくねぇわ」


 女の子の胸だから尊いんであって、自分の胸についたところで、嬉しさゼロどころか絶望しかないことを、俺は今、人生で一番深いところで理解した。


 つまり、俺が本当に触りたいのは、女の子の胸……!!


 どうやら女体化してしまったらしいこの身体だが、今こそワンチャン到来かもしれない……!!


 脳裏に婚約者のフランソワが浮かぶ。

 公爵令嬢の名にふさわしい高飛車美人。


 あの冷たい視線にいつもゾクゾクしていたが、今日からは……逆に俺がフランソワをゾクゾクさせてやる……!!


 「………王子殿下、何事ですか……!?」


 朝っぱらからの絶叫に、メイドのマリンが息を切らして部屋に飛び込んできた。


 「別に、何にもないよ。ああ、そうだ。白い布を持ってくれ」


 16年間で完璧に仕上げた“王子様の仮面”を一瞬で被り直し、落ち着いた声で指示を出す。マリンはコクンと頷いて、慌てて部屋を出て行った。


 俺が女になったことは、まだ誰にもバレてはいけない。


 少なくとも……フランソワに会うまでは。


 だって、せっかく女になったんだ。

 ここで百合展開を狙わずにどうするんだよ……!!


 胸に布をねじ込めば、なんとか誤魔化せそうだった。


 声は元から高めだし、身長だって女の平均くらい。顔立ちもどっちかっていうと中性的寄りだったし……いける、いけるぞ!


 「ルカ王子殿下、お体に不調が……?」


 マリンから受け取った布ねじ込み作業中に、心配性の護衛騎士ジークが眉を顰めながらズカズカと入ってきた。


 いつまでも寝台にこもったままの俺の全身を一瞥し―


 「それは……布……!?」


 ジークの視線が、俺の首元——いや、今は布で隠した“そこ”に釘付けになる。


 ……やべぇ。


 「お怪我を隠していらっしゃるのですか? ジーク先輩、直接確認した方が——」


 呼び出してもないのに同じく護衛騎士のアレンがひょっこり顔を出し、子犬みたいな顔で悪魔的な発言をする。


 「それもそうだな」


 ジークが真剣に頷き、俺の抵抗をものともせず布をスッと引っこ抜いた。


 ……流石現役騎士。

 俺のじたばたなど、まるで空振りだった。


 「わっ、なかなかいい形ですね」

 「……な、なかなかいい形ですね、じゃねぇぇぇ!!」


 アレンの呟きに思わず裏返った声で叫んだ俺に、ジークとアレンが同時に首を傾げた。


 「殿下、痛みはないのですか?」

 「腫れているようには見えませんが……ボタンを開けて直接見せてもらっても?」


 「やめろぉぉ!!」


 ベッドの上で後ずさる俺。

 だが、女体化した身体は思った以上にバランスが悪く、ふらついた拍子に——


 ドサッ。


 ジークの胸に倒れ込んだ。


 「っ……!」


 ジークの腕が反射的に俺の腰を支える。

 近い。近すぎる。


 しかも、女体化したせいで妙に軽い身体が、すっぽりとジークの腕に収まってしまう。


 「殿下……随分と華奢に……」

 「いやいやいやいや!! 違う! これは、その……成長期のアレだ!!」

 「成長期で胸が膨らんで華奢になる……?」

 「殿下、それは……」


 アレンが何かに気づいたように目を丸くする。

 やべぇ。完全にバレる。


 「ち、違う! これは……その……!」


 2人の視線に耐えきれず、涙がポロポロと溢れる。


 「俺は男だ……! 男なんだよ……!!」


 ジークが戸惑いながらも、優しく頭をぽんぽんと撫でる。その瞳が優しすぎて心が乱れてしまう。


 俺は、本来すぐ泣くような男ではないのに……!


 「フランソワに会うまでは、絶対に男でいないといけないんだ……!!」

 「殿下は立派な男ですよ」


 アレンも静かに頷く。


 「フランソワ様に会うまで……とは、何か深い理由が?」

 「俺の身体に異常があれば、フランソワに会えなくなるだろ……!! 俺は、フランソワに会って……胸を揉みたい……!!!」

 「……は?」


 ジークとアレン、声が完全に重なった。

 ジークのぽんぽんも止まった。

 

 「無双状態のお前たちには分からないだろうけど……!!俺は女体化したときぐらいしかチャンスがないんだよ……!!」


 必死に訴える俺に、アレンが頷いた。


 「他人の胸と自分の胸って違いますもんね。殿下のお気持ち、すごく分かります」

 「さすがアレン……!!お前なら分かってくれると思ってたよ……!!」


 悲しみの涙が喜びの涙に変わる。

 アレンが神様に見えた。


 ……と思ったら、その神が。

 しゃがみ込んで、ゆっくりとシャツのボタンを開け始めた。


 「えっ、ちょっと待て何してんの……!?」

 「殿下が他人の胸を触りたいのなら……ほら、僕ので練習してみます?」


 俺の手を取って、自分の胸に押し当てる。


 「うん、騎士の割にすべすべしてるな……って、俺が求めてるのはちがっ……!!」

 「……好きなだけ触っていいんですよ?」


 上目遣いの、俺を煽ってくるような挑発的な視線。

 妖艶に細められたその瞳。

 まるで、 獲物を見つけた肉食獣のようだ。


 色気が、やばい。


 「さすが、三体同時撃破の男……」


 頭がくらくらして、俺は意識を失った。

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