第一章:摂氏23度の沈没
中環の雨は、いつだって他の場所より計算高い降り方をする。
半山のエスカレーターを覆うガラス屋根を叩く雨粒は、まるで旧式のタイプライターが奏でる単調な打鍵音のようだ。
沈は透明な柄の長い傘を閉じた。傘の先から落ちた雫が、カーペットの上に濃い円を描く。彼は何の変哲もない商業ビルへと足を踏み入れた。エレベーターの扉が閉まる瞬間、世界のノイズは鋭利に断ち切られ、ケーブルが巻き上げられるチェロの低音のような響きだけが残った。
19階。
重厚なウォールナットの扉を押し開ける。彼を出迎えたのは安っぽい芳香剤の匂いではなく、乾燥した冷たい白檀の香りだった。窓はなく、計算され尽くした間接照明が、黄昏に近い琥珀色の光を落としている。壁には高価だが魂の感じられない抽象画が飾られ、空気中には「体面」という名の塵が漂っていた。
ここは「Santal」という名の会員制クラブだ。高級だが、あまりに高級すぎて体温を感じさせない。まるで現実逃避のために建造された防空壕でありながら、内装だけは五つ星ホテルを模したその場所は、昼間の激務で魂をすり減らした男たちを収容する場所だった。
「沈様、こんばんは」
支配人が近づいてきた。埃を驚かせないよう、その声は羽毛のように軽かった。「本日はご指名なさいますか? それともご覧になりますか?」
沈は頷き、スキャナーのような視線で休憩エリアを見渡した。
革張りのソファには若い技師たちが並んでいる。ジムで鍛え上げた標準的な肉体、仕立ての良いダークグレーの制服、一糸乱れぬ髪型。彼らは工場から出荷されたばかりの精密機器のように、「私を選んでください、私なら満足させられます」という信号を発していた。その目には一様に同じ渇望――選ばれたい、チップが欲しい、肉体の取引を通じて束の間の虚栄心を満たしたいという渇望――が焼き付いていた。
沈の視線は彼らに留まることなく、部屋の隅へと滑った。
モンステラの鉢植えが落とす影の中に、一人の青年が座っていた。
あまりにも平凡な顔立ちだった。息をのむような美形でもなければ、目を引くような醜男でもない。コンビニのおにぎりのように記憶に残らない顔。地下鉄の人混みに放り込めば、瞬きする間に見失うだろう。
彼は他の男たちのように胸を張って筋肉を誇示することもなく、少し背を丸めて座っていた。手には手垢で毛羽立った雑誌を持ち、焦点の合わない目で虚空の一点を見つめている。
彼はまるで、この世界が組み込み忘れた余剰パーツのようだった。どこに取り付けていいのか分からない、余ったネジ。
欲望と取引に満ちたこの部屋で、彼だけが「存在していない」ように見えた。
「彼だ」沈は手を上げ、隅を指差した。
支配人は一瞬呆気にとられ、表情を強張らせた。「アディンですか? 沈様、アディンはまだ入ったばかりで……技術も未熟ですし、無口で愛想もよくありません。7番はいかがですか? 最近人気なんですよ」
「構わない」沈の声は、アンティーク時計の真贋を鑑定するように静かだった。「彼がいい」
沈自身、なぜ彼を選んだのかうまく説明できなかった。おそらく、アディンが纏う「自分を隠したい」という気配が、かつて時計の修理台の前で数えきれないほどの孤独な夜を過ごした自分に似ていたからかもしれない。それは同類の匂いであり、漂う白檀の香りよりも強く、ある種の悲しい共鳴を彼に感じさせた。
隅にいたアディンは視線に気づき、顔を上げた。その目には驚きも期待もなく、雨の日に通りすがりの人間に見つかった野良猫のような警戒心と無関心だけがあった。
【シーン:施術室】
【照明:極限まで落とされたライン照明。部屋を青と黒のブロックに切り裂く】
【音:音楽はなく、巨大な獣の呼吸のような空調の音だけが響く】
冷房が効きすぎている。室温は常に摂氏23度。皮膚を収縮させ、欲望を冷却する温度だ。
アディンは機械的な動作でタオルの束を抱えて入ってきた。愛想笑いもなければ、親しげな挨拶もない。ただ黙々とシーツを敷き、布が擦れる微かな音だけを立てた。
「うつ伏せになって」
アディンの声は少し嗄れていた。長く喋っていなかったのか、あるいは声帯にサンドペーパーでも張り付いているかのようだ。
沈は高価なシャツをハンガーに掛け、手入れはされているが少し青白い背中を晒した。ベッドにうつ伏せになり、顔を穴に埋めると、微かなタバコの匂いがした。それはアディンの指先から漂うもので、高級な白檀の精油の中に混じり、ひどく場違いで、それゆえに異常なほどリアルだった。それは安っぽい生活の匂いであり、裏路地と焦燥の匂いだった。
アディンの手が沈の背中に置かれた。
支配人の言った通り、技術は平凡だった。流れるようなスムーズさはなく、ツボ押しもマニュアル通り。それどころか、その手は冷たく、早く終わらせたいという投げやりな感情さえ伝わってくるようだった。
だが、沈にはそれが心地よかった。
偽りの情熱と過剰なサービスに溢れたこの街で、その「投げやりさ」は得難い誠実さのように思えた。アディンは媚びず、チップを搾り取ろうともせず、吐き気を催すような作り笑いでこの時間を汚そうともしなかった。彼はただ、疲れた工員がネジを締めるように、任務を遂行しているだけだった。
「心拍数が遅いね」
アディンが唐突に口を開いた。この十分間で初めての発言だった。彼の指は沈の背骨の脇に止まり、何かの周波数を探っているようだった。
沈は目を開け、床の大理石の模様を見つめた。それは干上がった川のように見えた。
「ときめくようなことが、ここには何もないからさ」
アディンの手が止まり、鼻で笑うような短い音が漏れた。マッチを擦ってすぐに消したような、微かな嘲笑を含んだ音だった。
「そりゃそうだ」アディンは年齢不相応な枯れた声で言った。「こんな場所にときめきを探しに来るなんて、だいたいは病気だよ」
沈はその言葉に含まれた棘を感じ取った。この平凡な野良猫は、意外と鋭い爪を持っている。彼は少し顔を横に向け、アディンを見た。横顔に照明が当たり、その平凡な顔が、反骨と厭世を含んだ表情によって奇妙な魅力を放っていた。
それは壊れたものの美しさだった。ひび割れた陶器が、完全ではないがゆえに物語を持つのと同じように。
「君はどうなんだ?」沈は低い声で尋ねた。
「ここで何を探している?」
「金」アディンは即答し、罰を与えるように沈の肩甲骨の隙間を強く押した。「借金を返すんだ」
「いくらだ?」
「あんたに関係ないだろ」アディンの声が冷たくなった。尻尾を踏まれた猫のようだ。「お客さん、時間は時間だ。あれこれ聞くなよ。どうせ返してくれるわけじゃないんだから」
沈は怒らなかった。むしろ面白いと思った。おべっかばかりのこの場所で、その率直な悪意は新鮮な空気のようだった。
沈の視線は、部屋の隅の椅子に置かれた雑誌に向いた。ページが開かれたまま折られている。エルメスの新作メンズバッグの広告ページだった。
暗色で、最高級の革の光沢を放つ、冷たい物体。絶対的な階級と虚栄、そして保護色を象徴する記号。
「あれが好きなのか?」
アディンは視線を追った。無関心だった顔に、見られたくないものを見られた狼狽が走る。彼は素早く歩み寄り、雑誌を閉じて引き出しに放り込んだ。「バン」という音が響く。
「好きじゃない。ただ見てただけだ。あんなもの、馬鹿が買うもんだ」
口ではそう言いながら、瞳の奥に過ぎった渇望が彼を裏切っていた。それは、手の届かないものへの憎悪と憧れが入り混じった眼差しだった。
「15万ドル」
沈は唐突に数字を口にした。
アディンの体が強張った。背を向けたまま、肩が弓のように張り詰める。「……何だって?」
「見間違いでなければ、君の手首の赤い紐はタイの金運祈願の紐だ。固結びされているのは、君が偏財(あぶく銭)を急いで求めている証拠だ。目の下のクマは慢性的な不眠を示している。そして、こんな場所で働きながら客に媚びる技術も学ばず、敵意すら向けるのは、君がこの仕事を極度に嫌悪しながらも、せざるを得ない状況にいるからだ」
沈の声は、時計の修理報告書を読み上げるように平坦で、冷静かつ客観的だったが、一言一句が核心を突いていた。
「香港で、若者をここまで絶望させ、かつ完全にプライドを捨てて堕ちることもできない額の借金といえば、ギャンブルか、あるいは色恋沙汰だ。15万ドル。その赤い紐が救える限界であり、一般人が崩壊するギリギリの境界線だ」
部屋に死のような沈黙が落ちた。空気は凝固し、空調の音さえ消えたようだった。
長い沈黙の後、アディンが振り返った。沈を見つめる目から無関心の膜が剥がれ落ち、その下にある恐怖、怒り、そしてどうしようもない惨めさが露わになっていた。雪の中に裸で放り出された子供のようだった。
「あんた……何者だ?」アディンは歯を食いしばり、震える声で言った。「変態か?」
沈は体を起こし、白いバスローブを羽織った。彼はアディンを見つめた。それは20年前、何も持たずに東京の街角で途方に暮れていた自分自身を見る目だった。孤独は、共鳴する。
「修理屋だよ」沈は言った。「壊れたものを直すのが専門だ」
彼は財布から数枚の紙幣を取り出し、枕元に置いた。サービス料を遥かに超えていたが、アディンの運命を変えるには遥かに足りない額だった。
「来週の火曜日、同じ時間に」
沈はドアの前で立ち止まり、ノブに手をかけて振り返った。その目には欲望はなく、底知れぬ哀れみだけがあった。
「この部屋の匂いは好きじゃない。次は場所を変えて話そう。あのエルメスのこと、それから君の15万ドルのことを」
扉が閉まった。
アディンはその場に立ち尽くしていた。空気中には、沈が残した雨水と古新聞の混ざったような匂いが漂っていた。彼は紙幣を見つめ、摂氏23度に保たれたこの部屋が、震えるほど寒いことに気づいた。
彼はまだ知らなかった。この雨が、自分の心の中でこれから長く降り続くことになるということを。




