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最低最悪の悪女を演じたら別れてくれますか?  作者: 鈴木涼


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アダルヘルムの返事

 シェリーのことが頭から離れない日々を送る中、私は最後の足掻きにも感じるやり方で、使用人たちへの横暴を再開した。それは、少しの不快な行動にすら怒りを表し、クビを告げるというもの。彼らの行い全てに難癖をつけ、誰彼構わずクビを告げた。心優しかったシェリーにしたように。

 執事長であるサミエルは、当然私へ意義を申し立てにくる。


「ナサリー様……どうか考え直してはいただけませんか? これ以上ご要望をお受けしますと、ナサリー様のお世話を担当できる者がいなくなってしまいます」

「そうなったら、また新しい人を雇ったらいいじゃない」

「ですが……」

 珍しく引き下がらない彼へ、目も見ずに不機嫌を主張する。


「知ってるのよ。私がクビにした使用人たちを、貴方やアダルヘルムが囲っているということ。いつも中立のような振る舞いをする貴方も、結局はただの婚約者である私を部外者だと思っているんでしょう? だから私の命令に従わないのよね?」

「いえ、それは……私の主人が旦那様ですので、旦那様のお言葉に従っているというだけで……」

「ええ、そうよね。貴方の主人はアダルヘルムだけ。私は永遠に貴方の主人にはなれない。……私の言ったことは間違ってるかしら?」

「…………」


 嫌味のような質問に、口を噤んだサミエルは、暫く目を伏せていた。


「……貴方が私をどう思っているかは知らないけれど、少なくとも私の行いに迷惑していることだけは分かっているわ。その上で、いつも要望を聞いてくれるのはとても有難いことよ。……でも、私が真に求めることが何なのか、賢い貴方ならもう分かっているはずよね。それさえ叶えてくれれば、私もこんなことをしなくて済むのよ」

「……私からは、ナサリー様のご要望を旦那様にお伝えすることしかできません。そちらをご理解いただきますよう、お願いいたします」


 詳しく言わずとも私の言葉を理解した彼は、深く頭を下げると、足早にその場を離れた。恐らく、主人の元へ私の要望を伝えに向かったのだろう。

「……伝えるだけだなんて、分かってるわ」

 誰も聞いてはいないのに、呟くように返事をした。失敗ばかりを経験し、半ば諦めのような感情だった。


 カイザックを喪ってから、いつの間にか季節は過ぎ、もうすぐ冬が訪れようとしている。約束は果たされず、代わりにアダルヘルムと結婚の儀式を行うこととなっている、哀しき冬……。

 サミエルから私の要望を伝えたとして、今回もアダルヘルムの結論は変わらないのだろう……そう思っていた。



「――君は、まだ俺との婚約破棄を望むのか」

「ええ、勿論です」


 この屋敷を訪れてから、初めてアダルヘルムに誘われたお茶の時間、彼は再確認するみたいに問いかけてきた。即答しつつも、頭の中では本当にそれでいいのかと自問自答したくなる。しかし、ずっと彼との婚約破棄を目指してきた私にとって、最早これは使命のようになっていた。


「愛だなんだと仰っていましたが、私は貴方に愛される覚えがありませんし、何度これからを考えても私たちには愛のない結婚生活しか視えません。貴方の言い方からして、私を騙そうとしているわけではないのかもしれませんが、それでも私は貴方を疑わざるを得ないのです。私を繋ぎ止める意図がおありなのだろうか、と」


 ミルクをかけた紅茶を混ぜ、丁寧に口元へ運び、口を付ける手前で水面に映る自分を見た。その顔は面白いくらいに冷静で、受け入れてもらえるとは微塵も思っていない表情をしていた。


「カイザックを殺したという貴方の妻となり、子を産むだなんてことも、私には耐えられません。だって私は、大好きだった人を奪った貴方を憎んでいるのですから。それは至極当然のことではありませんか?」

「……だから、使用人たちにクビを告げて俺を困らせようとするわけか」

「そうです。私は、大嫌いな貴方と本気で別れたいのです」


 彼は置かれた紅茶には手を付けず、強い眼差しでまたも聞いてくる。

「……本当に望んでいるんだな?」

「ずっと言っているじゃありませんか。気持ちは変わりません」

「……そうか」


 どこか寂しそうに瞳を伏せた彼は、分かった、と苦渋の決断であるかのように呟いた。そして、再びまっすぐと私を見つめてくる。その目には、どうにもできない深い悲しみが宿っているような気がした。

 私がその瞳に釘付けになっていたら、彼はハッキリと衝撃の言葉を告げる。


「君がそこまで望むなら、君との婚約を破棄しよう」

「――え?」

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