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白兎の都  作者: とけい
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#1:夢の魔鏡

 世界屈指の魔法都市「白兎はくと」。

そこは、あらゆる魔法の最先端が集い、訪れた者の夢が叶うと言われている。

さまざまな人々が抱えた願いを叶えるため、日々遠方からの来訪者は絶えない。

街に集う人々は、今日もせわしなく足掻いている。

ただひとつの魔法きせきを求めて。

 私はついにこの街に来た。

龍を模った空飛ぶ電車で3時間ほど揺られて、気がついたら全く新しい景色の上にいた。

来る途中も驚いたけど、周りにはたくさんの空を飛ぶ乗り物で溢れていた。

ああいう乗り物は地元には全くなくて初めて乗ったから、浮かび上がったときには思わず叫んじゃって、あれは恥ずかしかったな。

 他にも驚いたことがたくさんある。

そびえ立つ長くて綺麗なビルに、不思議な植物に、見たことのない種族ひとがたくさんいる。

こんなにもすごい魔法で溢れかえったこの場所ならきっと、どんな願いだって叶えられる。

そんな希望を膨らませながらウキウキで街道を歩いていた。

 今日は、下宿先の大家さんに会う約束をしてる。

でも、そのまえに観光したいと思って、予定時間よりかなり早くここに着くようにした。

だから、このまま街を気ままに散策しようと思う!

 歩きながら街をあちこち見渡すと、時々地元でも見かけたことのあるお店と、その間にある聞いたこともないようなお店がずらり。

その中の一つ、なんだか昔絵本で見たような魔女のつくる怪しげなスープが、食品サンプルとして並んでいる食事処に、目が留まる。

これ……食べていいものなのかな?

どんな味するんだろ……

食べてみようかな。

でもまだ、お昼前だからまた今度に、

いや、今はいかないと先延ばしにしちゃいそうだし……

 そうしてガラスの向こう側にある料理を眺めながら悩んでいると、何かがこっちに急いで近づいてくるのに気が付いた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、た、たすけてっ、くださいっ。」


 息切れしながら助けを求めているウサみみを生やした獣人の女の子は、猛スピードで私の前を通過していった。

 そしてその女の子の向こう側から、バスくらい大きいハシビロコウみたいな鳥がすごい勢いで追ってきている。

な、なにあれ!

今日で一番びっくりしたことかもしれない……

ていうか、私も逃げないとまずいんじゃ?!

 女の子の後を追うように逃げ出した。

 なんとか、女の子のスピードに追い付いて、並走したまま話しかけた。


「ね、ねえ!君!なんで追いかけられてるの?あの大きい鳥さん何?」


「はぁ、はぁ、はぁ、たすけ…たすけてぇ…」


 走るのに夢中で、応答してくれない。

なんとかこの子を助けてあげないと。

よし…!


「君、ちょっとごめんね」


「え?!うわああああ!」


 私は、女の子をお姫様抱っこして、そのまま街頭、信号機、と飛び移り、ビルの壁を足でつたって屋上に上がった。

ハシビロコウも私たちの後を追って屋上に飛んできた。

 一旦女の子をおろして、大きめのハンカチで女の子の顔を覆い、杖を構える。

ハシビロコウが向かって来ると同時に、入眠魔法を放った。


「お願い、眠って!」


「ビュグォォォォ……」


 ドン!!と体を大きく床に叩きつけて、ようやくハシビロコウ?は止まった。

それを見届けた私はすぐ、女の子をもう一度抱えて、周囲のビルの屋上に飛び移りながら移動した。

 突然の出来事の連続で、女の子は終始悲鳴を上げている。

 これじゃまるで、私が女の子を誘拐してるみたいだなぁ。


私たちは、少し離れた場所にある公園まで逃げ込んだ。


「ふぅ、ここまで来れば、もう大丈夫。君はもう平気……え?」

 公園に着地するや否や、女の子は物陰に駆け込み、こちらの様子を伺っている。


「おねえちゃん、ダレですか?!

こんなヒトがいないトコロにアタシをつれこんでアタシをどうするつもりなんですか?!

まさかこれからアタシをカンキンしてお金をヨウキュウする気なんですか?!

させませんよ……ええ、させませんとも!

今すぐおまわりさんのところへ…」


「ちょっとまって!お姉ちゃんそんなことするつもりじゃ」


「うそっ!

だってあなたのそのカッコウ!

ぜんしんにまっくろなうわぎにフード、あきらかにあやしいです!

フシンシャ!ヘンシツシャー!」


「うぐっ……」


 反論できない……さっきの私も同じこと思ってたし、どうしたら…

落ち着いて私。

孤児院で培ったお姉ちゃんとしての経験を今こそ生かす時なんだ!


「えっと、怖がらせちゃったならごめんね。

私の名前はアリサ。

太陽の光に弱いから、この服で身体を守ってるんだ。

私吸血鬼だから。」


「キュウケツキ…?」


「そう、珍しいかもしれないけど」


「やっぱりアタシをオソッて血と肉をムサボりツクす気なんだ……」


「えぇっ?!どうしてそうなるのっ?!それよりどこで覚えたのそんなセリフ?!」


 余計怖がらせてしまったみたい……。

う〜ん、困った。

もう一度、初めて会った子に対してどんなことをしていたか思い出してみよう……

そうだ、これなら!


「ねっ、いまからお姉ちゃんがすごいの披露してみせてあげるね。」


「すごいもの…?」


 私は懐から杖を取り出して、柄頭にある宝珠を付け替えた。

そして、手から杖に電源を入れて魔力を流し込む。

杖の先端が光ると、周りの木の葉が集まりだし、女の子の周りを動き回る。


「わぁっ、はっぱがこんなに……」


「まだまだこれからだよ」


 私が得意げになって杖を振ると、木の葉たちはグループになってそれぞれが動物の形になった。

うさぎ、犬、猫、クマ、シカ。

木の葉で出来た色んな動物たちが私たちの周りを駆け巡る。

 頃合をみて、動物たちが今度は人の形に変わり、私たちを巻き込んで輪っかになって踊り始めた。

 女の子は楽しそうに笑ってる。良かった。

警戒心を解くことが出来たみたい。

 魔法が終わると、女の子は満足そうにして言った。


「ありがとうおねえちゃん。アタシはね、リリっていいます!よろしくねっ」


「っ!よろしくね、リリちゃん。」


「ねぇ、おねえちゃん。もっといっしょにあそびましょう!」


「え?でも、あ母さんとか心配しない?」


「だいじょうぶだいじょうぶっ。もともと今日は、しばらく外で遊んでおいでっていわれてたから。ひとりであそんでるよりもおねえちゃんといたほうがたのしいから!」


「えっ、あぁ、うん。わかった。一緒に遊ぼう!」


「やったーっ、じゃあこっちにきてくださいっ!」


「うわぁっ」


 りりちゃんは、嬉しそうに私の腕を引っ張って、勢いよく駆け出した。

私は、振りほどかれないよう、必死に後をついていった。



*****



 アリサたちが去ったあと、例の鳥が横たわるビルの屋上に人影が現れた。

 ドクロを模ったゴーグルをつけた青年だった。


「あ~あ、こんなところで眠っちゃって。」


 鳥の前にかがみ、頭をなでながら彼は言う。


「入眠魔法か、ターゲットがやったとは考えられないし、先を越されたにしても不自然だ。」


 立ち上がって、面倒そうな顔をすて頭をかきむしる。


「さて、どうしたもんかねぇ」



*****



「ところで、リリちゃんはどうしてあんな大きい鳥さんに追いかけられてたの?」


 リリちゃんに連れられている途中、聞きそびれそうになっていたことを尋ねた。


「おかあさんにいわれて、あそびにでかけてるときにあのトリをみつけたんです。

みたことないトリで、ちかづいてさわろうとおもったんです。

そしたらたべられそうになって…」


都会はおっかないなんてよく聞くけれど、この方向性のおっかなさが襲ってくることもあるんだな…


「そっか、怖かったね。」


「うん、でもおねえちゃんのおかげでもうだうじょうぶですよ!

あ、おねえちゃん!あっちにすべりだいがありますよ!」


「あれ、滑り台?」


リリちゃんが指をさし、滑り台と呼んだそれを、私は、とても滑り台として見ることができない。


「おねえちゃん、ここのすべりだいすごいんですよ!」


「え?でも、滑り台って……こんな感じだったっけ?」


 その時、初めて見た。まさか、滑る台が空に向かって伸びて、螺旋を描いているなんて。しかも、台が長すぎて滑り降りた?先が見えない。それに、何故かわからないけれど、先行してなっている人の黄色い悲鳴が聞こえる。

なんだろう、とても嫌な予感がする……


「じゃあ、いきましょう!」


「えっあっ、待って!まだ心の準備が…」


 滑り台の螺旋階段を一緒に駆け上がっている間になんとか気持ちを整える。

でも、それは滑り出した瞬間に無駄になってしまった。

 傍で滑っているリリちゃんは楽しそうに悲鳴をあげているけど、私はこの娘に必死にしがみついていた。

 この感覚を、前に一度経験したことがある。

学校の遠足で地元の遊園地に行ったとき、ジェットコースターに初めて乗った時と同じ感覚だった。

滑り台ってこんなに怖かったかな……

 私たちは、ようやく滑り台から解放された。


「ねぇねぇおねえちゃん。つぎはアレをやりましょう!」


そう言ってリリちゃんが指さしたのは、大きいブランコだった。


「また、怖い系じゃないよね……?」


悪い予感は的中した。

 


*****


 

 その後も、リリちゃんに連れまわされて、いろいろなところに行った。

公園の遊具はここまで絶叫系ばかりだなんて、そもそも絶叫系の遊具って何だろう…………

私の知っている公園とかけ離れすぎていてほんとに公園なのか疑わしい。

もうへとへとだった。主に精神的に……

小さい子の体力はすごいと改めて痛感した。


「つぎはなにやりましょう?」


「もう、お姉ちゃん疲れたから休憩させて……」


「えー…もうバテちゃったんですー?おねえちゃんもうそんなにフけちゃったのですか?」


「老けた?!」


なんてことを言う子だろう……いや、さすがに体力はまだまだあるけど、気持ちが体に応えてくれない。こんな失礼なことを言われて怒るような元気も残っていない。

こういわれても仕方がないとさえ思えてくる。

なんとかこの子に一緒に休憩するように誘導しないと。

そう思って前の方をみると、奥にクレープの屋台があるのに気がついた。


「リリちゃん、あそこにクレープ売ってるから一緒に食べない?おねえちゃんが奢るから!」


「えっ?!いいんですか?!」


良かった。これでようやくゆっくり出来る。2人分のクレープ代はちょっと高かったけど…

私たちは池の前のベンチにすわってクレープを食べる。

すると、リリちゃんが池の方を指さした。

「ね、今から噴水がはじまりますよ!」


「噴水?」


見ると、池の中から水が勢いよく吹き出してきた。そして、吹き出した水は池に落ちる前にそのまま宙に浮いた状態で、鳥や魚になってある場所を中心に回りだす。

その中心からは、象の形をした水が浮かび上がり、鳴きながら鼻からだした水が、文字にかわって、現在時刻を表していた。


「すごい……綺麗…」


さっき私がリリちゃんに披露した魔法と同じ、流体を導く魔法。

けど、私が使ったものとは規模も性質も全く違う。

水を扱うのは難しい。それは量が多くなるほど難しくなる。

しかも、ただ動かすだけじゃなく一定の形を保ったまま、群を成して動かしてるなんて………やっぱり、この街はすごい。


「おねえちゃん?おねえちゃん!」


「えっ?!ど、どうしたの、リリちゃん?」


「おねえちゃんのユメってなんですか?」


「えっと…、どうして?」


私は少し困り顔になって、言葉を返す。


「ここにいる人はみんな、ユメをもってるっておかあさんがいってました!

みんな、ユメをかなえるためにここにいるって。

おねえちゃんも、なにかユメがあって、ここにいるはずです!」


唐突な踏み込んだ質問に戸惑いつつ、そわそわしながら私は答える。


「…私には、夢がないんだ。」


「え?そうなんです?」


「うん…私はね、ここに自分の夢を探しにに来たんだ。」


「ユメをさがしに?」


リリちゃんは前かがみになって、私の顔を覗いてくる。


「 小さいときからずっと、孤児院で育てられてきて、沢山の人にお世話になってきたんだ。

その人たちに恩を返したい。

そのために、沢山勉強したりしたけど、結局、はっきりとしたことは思いつかなくて。

でも、ここなら、この場所なら、自分がやりたいことが見つかると思ったんだ。」


空に移していた視線を、リリちゃんに戻して続ける。


「だからまだ、私に夢はないの。」


「そうなんだ、でもゼッタイ、おねえちゃんのユメが見つかるとおもいます!」


「そ、そうかな…?」


「そうです!それに、さっきのおねえちゃんのマホウすごかったです!ゼッタイにユメかなえられます!」


「……ありがとう」


ここに来るまで、正直あまり自身はなかったけど、この子のこんな真っ直ぐな言葉を聞いていると、本当にそう思えてくる。

これから頑張ろう、期待に応えるためにも。


「ちなみに、アタシのユメは、すっごくおおきいケーキのうえにのって、およぎながらおなかいっぱいにたべることです!」


「そ、そうなんだ。すごいね。」


「ヒュゥエェェェェ!」


そんなやりとりをしていると、突然目の前に黒い鷹が現れた。


「「な、なに?!」」


「おい、そこの娘二人!」


私たちはベンチから離れて、声のする方へ振り返る。

見ると、周りに二羽の黒い鷹を飛ばし、ドクロのゴーグルをつけた青年が立っていた。

私はリリちゃんを庇い、杖を構える。

この人はどこから来たんだろ……どうやって


「おいおい、そんなに身構えないでくれ。俺はその獣人の娘を保護しに来たんだ。」


「保護…?」


「まあいいか。そこのお姉さん、その子をこっちに引き渡してもらえないか?」


「引き渡す...?」


「ああ、俺はこう見えても警官でね。」


 それを聞いて、少し安心する。けど、何か違和感が…


「ほんとに警官さんなんですか?てっきり何かのコスプレイヤーさんなのかなと…」


「意外と直球だな、アンタ。」


「まあ、いいや。その子、実は捜索願いが出されていたんだ。一日中その子を探しまわってたんだが、見つかってよかった。さあ、こっちにおいで。家まで送ろう。」


「そ、そうだったんですね。では、よろしくお願いしま⋯⋯」


 気づくと、リリちゃんが震えながら私の袖をつまんで、私の陰に隠れていた。


「どうしたの?リリちゃん」


「い、いやです…」


「どうして?」


リリちゃんは、青年を指して言う。


「あの人からは、いやなにおいがします...」


「傷つくなぁ、最近の子ノンデリ過ぎるだろ。これでも体臭には気を使ってるんだが」


青年はすこしたじろいでみせて、自身の着衣を確認する。

私は若干ひきつった笑顔で言った。


「そ、そんなこと言っちゃだめでしょ?あの人はリリちゃんを助けに


「ちがいます!」


リリちゃんは、食い気味に言い、青年を指さして続けた。


「あの人からは、いっぱい、けがしたときと同じにおいがします。」


「え?」


 青年は、和服のような厚着しているが身軽そうな姿をしていて、見た目から大きな外傷を確認することは難しい。

 でも、怪我を我慢しているようにも見えない。それに、リリちゃんのこの反応。

 初めに感じた違和感は、私の中で徐々に確信に変わっていく。


「っ...お断りします!保護なんて言って、人攫いの間違いじゃないんですか?

この子は私が責任をもって送りますから、帰ってください!」


 目の前の青年を睨みつけ、はっきりとそう告げた。

たぶん最初に出会ったあの鳥さんも、彼が差し向けたものだったんだ。

どういうわけか知らないけど、なんとしても、この子を守らないと!


「…はぁ、まったく獣人は鼻が利くうえ勘が鋭いんだから」


 青年は腰につけた杖を持ち、攻撃態勢を取る。


「大人しくその子を渡せ。荒事を起こす気はない。」


「おねえちゃん...あの人つよそうです、にげましょう?」


 リリちゃんが怯えながら心配そうに私の顔を覗いてくる。

逃げることも考えたけど、結局また追いつかれると思うし、ここで倒しておくしか.........

不安な気持ちを押しとどめて、覚悟を決める。


「大丈夫、私を信じて。」


彼はため息をつきながら同じく腰の杖を構える。


「…こうなるのか、まったく聞き分けのない!」


彼は、周囲から黒い鷹の使い魔を発生させて、真っ直ぐ私に向かわせる。

私は、周りから小石をかき集めてその使い魔にぶつけて応戦する。

けど、相手との物量差に押し負けてしまい、相殺しきれなかった鷹によって吹き飛ばされてしまった。


「キャァッ!」


「おねえちゃんっ、うわっ!」


そしてそのまま、私とリリちゃんは鷹の群れにまとわりつかれ、拘束されてしまった。


「っく…」


「はぁ、俺に君みたいな可愛い女の子をいじめる趣味はないんだ。そこで大人しくしててね。」


青年は、ゆっくり歩きながらリリちゃんに近づいて攫おうとしている。

このままじゃ、リリちゃんが連れ去られる…


「さてと、リリちゃん?だったかな。俺と一緒に来てもら……ん?」


彼が私の違和感に気づいて横目に見る。

私は、体の中に溜めていたエネルギーを開放し、拘束から勢いよく脱した。

その影響か、フードが脱げて、紺青の髪が淡く紫を帯びて艶やかになり、犬歯が目立つようになった。


「おねえちゃん?」


「おいおい、まさかお前吸血鬼か?」


吸血鬼は、世界で最も希少な種族であり、そのポテンシャルは魔法、身体能力において全種族間で二番目に高い。

普段の吸血鬼の身体能力は、ヒト族より少し高い程度だが、体内に溜めたエネルギーを使用することで能力を一時的に引き上げることができる。


「すみませんが、あなたには力ずくでも帰ってもらいます!」


「ああ、すぐ帰ってやるさ。その子と一緒にな。」

 

彼は、成人二人分の大きさで、手足の生えた黒い鳥の怪人を出現させた。


「あんたはこいつにかまってやれ。」


「gアアアアアアgゥゥゥゥg!」


「っ…」


怪人は威嚇してすぐ、私にとびかかる。

私は、私の体を押さえこもうとしてきた足をかわし、そのまま両手で掴んで、思いっきり地面に叩きつける。

その衝撃で気絶した怪人の両足を持って振り回し、彼のいる方へ力いっぱい放り投げた。


「そぉれっ!」


「おいおいおいおい、嘘だろっ!」


彼は怪人と一緒に飛ばされ、怪人の下敷きにされていた。

「く…まさか、烏浪人うろうどが……兵隊百人がかりでも手こずるってのに、ふざけてる…」


 息を切らしながら彼に近づく。


「はぁ…はぁ…、すみませんが、ここでしばらく眠っててください。」


「ふっ…これで終わると思わないでくれよ。」


 初めの鳥に使ったのと同じ魔法で、彼を眠らせた。

ほっとしたのか、私はその場に崩れ落ちてしまった。


「おねえちゃん!だいじょうぶですか?」


「う、うん、平気だよ。ちょっと疲れただけだから。」


私は、疲れを吹き飛ばすように思いっきり立ち上がった。


「おねえちゃん、かっこよかったです!あんな大きい鳥さんを一瞬で倒しちゃうなんて。」


「あははは……、あ、ありがと。」


 私があの力に目覚めた頃、施設の先生にはあまり外で使わないように言われていた。

一度、その力で他人を傷つけてしまったこともあった。

だから、そのときから、この力は使ってこなかったし、力のことも好きじゃない。

リリちゃんの言葉を少し、素直に受け入れることはできなかった。

 でも、この力のおかげでこの子を助けることができた。

これまでずっと、苦手意識があったけど、今は、この力のことも、ちょっとだけ好きになれそうだ。

 それにしても、今日は色々ありすぎてクタクタになっちゃった……

あの人も、まだ諦めてなさそうだったし、早いとここの子を家に帰さないと。


「さっ、早く帰ろ!」


「うん!」


私はリリちゃんと手を繋いで、公園を後にした。



*****



道中襲われることもなく、無事にリリちゃんの家の前に辿り着いた。


「じゃあ、またね、リリちゃん。なにかあったらまた呼んでね!」


「うん!!おねえちゃん!またあそぼうね!」


 お家へ入っていくリリちゃんの背中を見届けてから、大家さんのところに向かった。

 今日、私は、小さな女の子から、ささやかな笑顔をもらった。

私の魔法で、あの子を笑わせることができた。

私の力で、彼女を助けることができた。

私のしたことが、あの景色につながるなら……

あの人たちに報いることができるかもしれない。

今日のことは決して忘れない。

この日を胸に、私はこの街で、たくさんの魔法きぼうを学んでいこう。

人の笑顔をつくれるように。

 あと二週間したら学校が始まる。

それまでに、荷物を整理して、家事にも慣れておかないと。

新生活に馴染んできたら、こっちから連絡してまた一緒に……

そんなことを考えていたら、突然、


「■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


怪物の遠吠えのような悲鳴がリリちゃんの家の方から聞こえてきた。


「っ?!!」


 急いで家の玄関に駆け込んだ。

ドアノブを捻ってみると、鍵がしまっていないらしく、すんなり中まで入ることができた。

明かりのついたリビングに向かってみると、信じられない光景が広がっていた。


「リリちゃん!!どうし…た……の………?」


 目の前には、気絶して床に倒れているリリちゃんと、背中にある大きなひっかき傷から大量の血を流している女の人が、リリちゃんにすこし被さるように倒れていた。

 多分、リリちゃんのお母さんだ…

 血まみれの女の人のすぐ先には、大男が数人取り囲むようにそこに立っていた。

そのうちの一人、中央にいる男は胡坐をかいて私たち二人を真っ直ぐ見つめている。

 その男の身なりは、周りがスーツで身を包んでいる中、鼠色のファージャケットを羽織り、黄色いサングラスをかけていた。

 男は言った。


「ん?なんだ嬢ちゃん?この家のやつかい?

運が悪かったなあ、もう少し遅く帰ってたらひどい目に遭わずすんだってのに。」


「……あ、ああ…っ……あ…」


 私は、目の前の光景が理解できず、何もできないでいた。


「フン、まあいい。この嬢ちゃんも連れていけ!」


二人一組ずつ、リリちゃんと私を攫いに取り掛かる。

そこで初めて正気を取り戻し、私は大男二人を振り切ってリリちゃんと一緒に脱出しようとした。

けど、思うように力が入らずそのまま床に抑えられてしまった。


「リリちゃ――――」


私はすぐ魔法で眠らされ、それ以上なにもすることができなかった。



*****



「んん……」


私は、冷たく薄暗い場所で目を覚ます。

ここは、どこだろう……

はやくリリちゃんを探して、助け出さないと…

立ち上がろうとしたら、手足が何かで拘束されていてすぐ床に叩きつけられてしまった。


「うっ」


「お、おねえちゃん……?」


私の声に反応して、横からリリちゃんの声がした。


「リリちゃん!!大丈夫?!怪我とかしてない?」


「うん……」


リリちゃんは弱々しく答える。


「おねえちゃん……いえにかえってきたら、しらない人がいっぱいいて、それでっ……、ママがっ、

わたしをかばってっ………それで……」


 リリちゃんは、私と別れた後の一部始終を話していくにつれ顔が崩れていき、とうとう泣き出してしまう。

私は自分の無力感と申し訳なさから、その様子をただ、じっと眺めることしかできなかった。

 少し先の方から、鉄の扉が開く音がした。


「よぉ、元気してたかぁ?」


 扉の向こうから、黄色いサングラスの男と、その取り巻きが複数現れた。


「おお、なんだぁ、ずいぶん元気そうじゃねぇか。」


「っ……!」


「さっ、とっととやろうぜ。」


 男が手を二回叩くと、取り巻き達がぞろぞろと私たち二人を運び出し、広い空間へと放り投げた。

どうやらここは、廃倉庫らしいことがようやくわかった。

 男達は先にリリちゃんだけを連れ出した。


「リリちゃ――、うぐっ」


 私の声はまた、男達の手によって塞がれてしまった。


「荒事はよせ。

せっかくだ、そいつにもこれから起こることを楽しませてやりたい。」


 私を押さえていた男は、サングラスの男の指示で、私をリリちゃんの姿が見えやすいようにどいていった。

 ようやくまともに話せるようになった私は、開口一番にこう叫んだ。


「あなた達はなんなんですか?!!

どうしてその子をさらって、こんなところに連れ込んだんですか?!!」


「?ああ……まあいいか、お前は後で処分するつもりだし、それに、訳もわからず状況を楽しむなんて、無理な話だよな?」


 サングラスの男は、リリちゃんの首根っこを掴んっで、質問に答えた。

リリちゃんは、男の大きい手の締め付けがきついのか、苦しそうに唸っていた。

歪みきった顔からは、ずっと涙が滲みでていた。


「こいつはなぁ、怪物の素質があるんだ。」


「怪物の、素質……?」


「ああ、俺たち『灰狼の落としグレイズエレメント』はな、この街を征服し、この世のすべてを手中に治めるんだ。

この街さえ手に入れれば、望むものさえも手に入る!

あらゆる魔法が集い、生み出され続けるこの街さえ!手に入れればだ!」


 サングラスの男は、興奮を一旦落ち着かせて、続けて言った。


「だがな、そんなことを考えるやつなんてのはこの世の中のいくらでもいやがる。

だから、こいつだ。」


「その子を、リリちゃんをどうしようっていうんですか?!」


 指数関数的に膨れ上がる怒りが漏れ出して、話を遮った。

その私を、サングラスの男はお道化るようになだめた。


「まあまあ落ち着けよ。話は最後まで聞けぃ。

俺たちはな、足りない力をどうやって補うか考えたわけさ。

だが、この街で派手な魔法を使うのは難しい。

そこで、最近ちまたで噂の怪人に目をつけたんだ。」


 サングラスの男は部下を顎で使い、アタッシュケースを持ってこさせた。

部下がアタッシュケースの中から注射器とカードを取り出した。


「怪人は人間からつくる。

もっとも、怪人に上手く適合しない人間でつくると、そのまま死んじまうし、上手くいったとしても、使いものにならなかったりする。

だが、こいつは違う。」


 リリちゃんの首を離し、床に落としてから細い腕をつかみ、部下から渡された注射器を打ち込む。


「聞いた話じゃ、こいつを素材にした怪人はこれまでの怪人を遥かに凌ぐもんになるらしい。

もしそれがホントなら、この街の征服もこれで夢じゃなくなる。」


 部下に、横になっているリリちゃんを床と垂直に持ち上げさせて、注射器と一緒に渡されていたカードをリリちゃんの胸のあたりにかざす。


「さて、余興は終わりだ。

喜べ、よおやくお楽しみが始められるぞ。」


 男がカードを操作すると、カードを大きくはみ出した文字列が浮かび上がり、その文字列を押そうとした。


「……!!!やめてっっ!」


 私の願いは届かず、男は文字列を押し込む。

文字列はリリちゃんの中に流れ込み、どこからともなく黒い何かがリリちゃんの体をつくり変えようとする。

 男達全員、リリちゃんから離れ、変化を見届けていた。


「ゥgあ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“」


「リリちゃん!!!」


 リリちゃんは床から少し浮きながら、黒い何かに悶え苦しみ、発狂していた。


「いいぞ、はやく来やがれぇぇ!!」


 腕や足から、服を貫いて毛が沸き上がり、体もどんどん肥大化していくように見えた。

けど、途中で黒い何かが消えて、体は、少し変化していたものの原型をとどめていた。

 リリちゃんは床に落ち、その場に倒れた。


「な……なんだ………?……おい、」


 サングラスの男がリリちゃんの元へ駆け寄ってみると、微かだが意識があるが確認できた。


「……まだ生きてるな……、くそっ……なにが起きてやがるっ……なんで返信しない!」


 男は、すこし黙ったあと、口角を上げた。


「……そうだ、こういうときはアナログな手段が役に立つ。」


 男はそういうと、リリちゃんの脇腹を蹴り上げて、壁の方まで蹴飛ばした。

壁から跳ね返って転がってきたリリちゃんを、そのまま足で痛めつけ続けた。

リリちゃんからは、弱弱しいうめき声が漏れていた。


「っっっ、テレビとかラジオとか、昔っから叩きつけたら直るって言うしなぁ。

オラァァ!!とっとと変身しろぉぉぉ!!!

とっとと変身して、この街のすべてを暴力で壊し尽くせ!!!」


 リリちゃんの姿は、みるみるうちに血で染まり、一度はとどめた原型が崩れていった。

さっきから、私は、助けに行きたい一心で体に施された拘束を解こうと、全身に力を込めるが、あのときみたいに力が入らない。

 私は、私の発することばにすがるしかなかった。


「……やめて……やめてっ!!……やめてっっっ!!!やめてください!!!やめてよぉぉぉっ!!!

リリちゃん!!!」


 蹴られ、踏まれ、投げられ、叩かれ………

ただあの子が、暴力の雨にうたれ続ける光景に向かって、無力を感じた私は、ひたすら名前だけを、狂ったように叫び続けた。


「これでもダメか、なら――」


 ここまで暴力を浴びせても反応のないことに、とうとうしびれを切らした男は、右腕を獣の腕にして、

伸ばした爪でリリちゃんのお腹を貫いた。


「っ――――」


 私は、目の前の現実に言葉を失い、頭が真っ白になってしまった。

 男は、貫いたお腹を、怒りに任せて何度も刺した。


「はぁぁぁ、ちっ、お前らぁぁぁっ!!撤収だ!!あの嬢ちゃんは適当に始末しとけ!」


 サングラスの男の指示により、私のもとに男達が近づいてくる。

私は、どうすることもできず、ただ静かに、その場にうずくまっていた。

 そのとき、だれかが外から入ってくる音が聞こえた。

その場にいる全員が、出入口の方に視線を移す。


「………どうやら、一足遅かったみたいだ。」


 そこに現れたのは、私があの公園で眠らせた青年だった。


「………どうして?」


 私は、すこし正気を取り戻し、息をつくようにそうつぶやいた。


「あぁ?だれだテメーは?」


「あ?俺か?あー、まあアンタらみたいなただのチンピラじゃ、知ってるわけないよな。」


「なんだと………!」


「こっちとしては、あまり知られてない方が助かるからいいんだけどな。

姉貴の奴が、面倒ごとを片っ端からとってよこすせいで知名度があがって困っててさぁ……」


「知ったことかぁ!!

お前らぁ!今すぐ奴を殺せぇ!!」


 指示を受けた男達は、リリちゃんに使ったのと似たカードをつかって、人型の狼に変身し、青年に襲いかかった。


「……人狼か。アンタら、狼のくせに群れるの好きなんだな。」


 青年は、向かって来る一人を蹴り飛ばし、続いて二人目をお腹に拳を一撃、脇腹に蹴りをかます。

青年は、戦闘員を次々と倒していった。


「………な、馬鹿な……」


 彼は、戦闘員を制圧してすぐ、サングラスの男を手早く吹き飛ばし、リリちゃんの方へ向かった。


「………まに合うか…………?」


 彼は杖をかざし、魔法を発動させる。

すると、リリちゃんの体からあふれていた血が止まり、傷もすこし和らいで見えた。

リリちゃんの処置を終え、私のところへ素早く運んできた。


「……りりちゃんはどうなって――」


「まだ、死んでない。ただ、このままだと確実に死ぬな。

俺はただ、出血と可能な限りの外傷を塞いだだけだ。

それ以上のことはできない。」


「………」


 私は少しだけホッとした。

彼は、ゆっくりとリリちゃんを私の隣に置き、杖の一振りで私の拘束を解いた。

私は、拘束が解かれてすぐ、彼女の元へ行って抱きかかえた。


「………っ」


 ある程度傷は塞がっているけれど、ボロボロで痛々しいその姿に、私の目からは涙があふれ、力がこもらないように感情を抑えながら優しくその体を抱き締めた。


「………!!」


 先ほど吹き飛ばした敵の息づかいに気づき、彼はその方へ顔を向ける。


「……まだ、終わりじゃねぇ……、終わってねぇ……。」


「しぶといなぁ、まだやる気か?」


 男は、ふらつきながらも立ち上がり、彼の方を睨み、例のカードを取り出した。


「お前は、俺らをコケにした……生きて返すわけにいかねぇ……。

お前はここで、確実にコロォぉぁす!!!」


 男が使用したカードから浮かんだ文字を押し込み、黒い何かに包まれていく。

男は、倒された人狼たちよりも強靭な体躯の人狼へと進化した。

 変身が終わってすぐ、彼のところへ飛び出し、右腕で吹き飛ばした。

彼は壁のそばにある積み荷まで吹き飛び、荷物が崩れる大きな音とともに、下敷きになった。


「………!」


「ファハハハハハッ!!……これでお前らも終わりだなァ」


 人狼が、私たちのところにゆっくりと近づいてくる。

私は、少しふるえながらリリちゃんを覆うように庇う。

 人狼の爪が私たちを襲おうとしたそのとき、人狼の体が燃え上がった。


「gがああああああアアアアアア!!!!」


 上半身の炎を振り払いながら、人狼は私たちから退いた。


「はぁ、痛ってぇな。」


 積み荷の下敷きにされたはずの彼が、その場から杖で火を放っていたのだった。

彼は、私たちの前に近づき、人狼と相対していた。

そして、頭にある上顎だけのドクロゴーグルを目元に掛けなおし、こう唱えた。


「――第三抑圧フィルター、解放――」


 ゴーグルの両端にある歯を押し込んで、体から赤い霧を放出し、輪郭がはっきりした頃には、彼は、赤い小狂鬼ゴブリンの姿に変わっていた。

見た目は、無機質で、不気味な力強さを感じたけど、不思議と恐怖は感じなかった。

 彼は、私たちの周りに透明な半球のバリアを張った。


「そこでじっとしててくれ。」


「…は……はい。」


 人狼は、ようやく火の粉をすべて消し去り、彼に威嚇する。


「ッッッ、姿を変えたからって、調子にのなよ。」


「………来い。」


 人狼の強靭な長い爪を、彼は片腕で受け止めた。


「なっ……」


 彼は、受け止めた手と逆の手で、人狼の腹を殴り、その衝撃で人狼は軽く後ろに退く。


「クッ……!なめるなぁぁぁ!!!」


 人狼は、彼に蹴りかかるが、かわされ、続いて、長い爪で殴り掛かり、回転蹴りを繰り出すも、これも躱され、数発連続で殴られ、蹴り飛ばされ、遂に膝をついた。


「………お、お前、まさか、第8の鬼人オーガか……?」


「……なんだ、知ってたのか。

まあ、今更知ったところでなにも変わらないけどな。

お前のグループは今日で終わりだ。

欲をかいて、中途半端にギャングの真似事なんてしてるから、こんなことになるんだ。

お前らは、そこらの田舎で威張ってるくらいが丁度よかったってこったな。」


「ッッッ、お前ぇぇぇぇええ!!!」


 人狼は、上半身を少し肥大化させ、前傾姿勢になって、彼に嚙みつこうと飛び掛かる。


「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」


 彼は、杖の先を抜き、杖を小太刀に変え、呪文を唱える。


「――心象一式、『赤』――」


刀を構え、人狼へ向かって飛び出し、人狼と交差した。


「――『宵桜』――」


 人狼は複数の斬撃によって、体から一気に黒い血が噴き出す。

斬撃によって飛び散った血が、満開の桜のように見えて、私は一瞬心を奪われた。


「うgァァッッ…………………………」


人狼はその場に倒れ、体が溶けて、後には骨だけが残った。

彼は、変身と同時に私たちの周りに張ったバリアを解除した。

私は、リリちゃんの容態にようやく気を向ける。


「………!!急がないと、リリちゃんが!!!」


「ああ!!!早くここから出るぞ!」


私たちは廃倉庫から脱出し、彼の出現させた車で急いで病院へ向かった。



*****



治療が終わり、リリちゃんは集中治療室に収容されることになった。

私は、彼を通して、お医者さんからリリちゃんの容態を聞いた。


「お医者さん曰く、一命は取り留めたが、意識が回復するかどうかはわからないそうだ。」


「………そんな…………」


私は、ガラス越しに映るリリちゃんの姿を見ながら、その場に膝をついて、縋るように泣いた。

少しして、私は、一度心を落ち着かせて、これまで聞けなかったことを彼に聞いた。


「あなたは……何者なんですか?」


「俺は、黒鷹くろだか九柄くがら

白兎第八エリア担当、黒鷹組の若頭だ。」


「……黒鷹組?」


「まあ、要するにヤクザだ。」


私は少し警戒心を強める。


「………あなたは…」


「まてまて、誤解だ。最初に言ったろ?保護しに来たって。

俺たちは、あの嬢ちゃんの両親からの依頼で、あの子を守るように言われてたんだ。

あの嬢ちゃんは、方々に狙われ続けていて、とうとう被害がでてしまった……

そこで、母親と相談して、こっちに嬢ちゃんを預かることになった。

万一の場合に備えて、運搬用の大鳥を一羽よこしたんだが、何故かそいつは屋上で眠ってるし、仕方なく、直接追ってみたら、俺も眠らされるしで――」


私はそこまで聞いて、やっと、自分がやったこと、してしまったことに気づく。

初めに出会ったあの大きい鳥さんは、リリちゃんを襲っていたんじゃなくて、助けようとしていたんだ……

目の前の彼も、その一人だった。

私は、あの子を助けるどころか、それを邪魔して…………

私のせいで…………


「私のせいで…………」


私は、さっきとは違う涙を流す。

私の中から、何かが崩れそうになる音がした。


「……そうかもな。」


「…………」


「少なくとも、今回に限っては。」


私はの時間が一瞬止まった。


「この街には、様々な願望が渦巻いている。

世間じゃ、ここはどんな願いでも叶うなんて言われてるが、誰でもそうとは限らない。

あの狼共みたいな理不尽も、それを被る人だってわんさかいるんだ。

あの嬢ちゃんも、その一人だった。

たとえアンタがいなくても、いずれこうなっていたさ。

アンタらは、運が悪かっただけさ。」


運…………運か、

あの子は、本当にそんなもののためにあんな目に遭ったの?

違う、私が弱いからだ。

この先、今日みたいに、私のしたことが、誰かの幸福を摘み取ってしまったら?

誰かのために振るった力が、他の誰かを傷付けてしまったら?

また、今日を繰り返すわけにはいかない。


「あのっ!」


「?」


私は立ち上がる。


「私にっ………!」


私は………


「私に、理不尽を跳ね除ける強さを、教えてください!!」


私は、今日ここで生まれ変わるんだ。


「そうか、」


彼は、そうつぶやいて微笑んだ。


「じゃあ、いくぞ。」


「ええっ?!ちょ、どこにですかっ?」


私は、慌てて彼の背中を追いかける。

 今日のことは、絶対に忘れない。

この日を機に、私はこの街で、たくさんの理不尽とたくさんの苦難を目の当たりにすることになる。

でも、それと同じくらい、私は知ることになる。

諦められない気持ちと、抗い続ける強さを。

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