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松戸愚連隊  作者: ponzi
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第7話FM松戸

真夏の太陽が、コンクリートのジャングルと化した松戸の街を容赦なく照り付けていた。アスファルトからは陽炎が立ち上り、まるで蜃気楼のように世界を揺らめかせている。そんな、くそ暑い日の午後、「ギフテッド」の地下室に、一本の電話がかかってきた。

店長である斎藤さんは、電話を切ると、豪志とシャンボのもとへ駆け寄った。彼の顔には、驚きと興奮が入り混じった表情が浮かんでいる。

「おはうー。goki君たち。アナクロニズムにFM松戸から出演依頼が来ているよ!」

斎藤さんの言葉に、豪志とシャンボは顔を見合わせた。一瞬、それが何を意味するのか理解できなかった。

「マジっすか、マスター。なんで俺らみたいなヨゴレにメディアからオファーが?」

シャンボが信じられないといった口調で問いかける。彼らは、音楽活動を通して少しずつ知名度を上げてはいたものの、それがメディアの目に留まるほどのものだとは、夢にも思っていなかった。

斎藤さんは笑った。

「まあ、なんだかんだgoki君たちも松戸じゃ相当な有名人だからねー。今までメディアから出演依頼がなかったのが不自然なくらいだよ」

彼らの音楽が、ライブハウスの地下室という小さな世界を飛び出し、松戸の街全体に響き渡ろうとしている。その事実に、豪志は心が震えるのを感じた。

収録は、「ギフテッド」のステージで行われることになった。FM松戸のディレクターと音声スタッフが、機材を運び込み、彼らのいつもの練習場所は、一夜にしてラジオスタジオへと姿を変えた。

マイクテストを終え、いよいよ本番という時、ディレクターが豪志にリクエストした。

「せっかくなので、新曲を披露してもらえませんか?」

豪志は一瞬ためらったが、すぐに頷いた。この日のために、彼はある曲を温めていたのだ。

「実は、終戦記念日に合わせて、平和を祈る鎮魂歌を作ったんですよ。タイトルは**『world peace』**」

豪志はアコースティックギターを手に取り、静かにコードを鳴らし始めた。その音は、いつものロックとは違い、穏やかで、しかし深い悲しみを秘めていた。

シャンボは、豪志の奏でるメロディに合わせて、ゆっくりと歌い始めた。彼の声は、薬の副作用で時折かすれるものの、その魂のこもった歌声は、聴く者の心を強く打った。

『world peace』

(歌:アナクロニズム)

We should not take it for granted that we can live a life in peace

(われわれは平和のうちに生きられることを当たり前のことと考えるべきではない)

We should not take it for granted that we can love friends and lovers

(われわれは友人や恋人と愛し合えることを当たり前のことと考えるべきではない)

What is the right thing to do?

(本当に正しいこととは何なのか?)

medicine,education,government,law?

(医療、教育、政治、法律?)

When we can believe nothing,our identity will collapse easily.

(信じられるものが何もなくなったとき、われわれのアイデンティティーは簡単に崩壊してしまう)

What is the right thing to do?

(本当に正しいこととは何なのか?)

welfare,moral,right,human?

(福祉、道徳、人権、人間?)

When we can attack anything,our routine will collapse easily.

(何にでも攻撃を加えるようになったとき、われわれの日常は簡単に崩壊してしまう)

I hope our world's peace.

(世界の平和を願っているよ)

I want my lover's piece.

(彼女の欠片がほしいんだ)

I watch your other face.

(キミの違う顔を見てる)

I like her good phrase.

(彼女の言葉が好きさ)

Haste makes waste.

(急いではいけない)

Liberal cannot solve the problem that Liberal caused.

(リベラルが引き起こした問題はリベラルには解決できない)

In recent decades,

(ここ数十年)

Globalization and Liberalization have caused deep division and conflict.

(グローバル化とリベラル化は深刻な分断と対立を引き起こしてきた)

Soul is difficult.

(人の心は難しい)

What matters is the motive.

(大切なのは動機)

East and west.

(東も西も)

Liberal has caused the problem that Conservative reaction.

(リベラルは保守的反動という問題を引き起こしてきた)

In recent decades,

(ここ数十年)

Scientists and philosophers cannot solve this division and conflict.

(科学者も哲学者もこの分断と対立を解決できていない)

Human is difficult.

(人間は難しいもの)

What matters is the love.

(大切なのは愛だ)

We must recognize each "differences" deconstructively.

(われわれはお互いの「差異」を脱構築的に認め合わなければならない)

Because that's new era's philosophy.

(それが新しい時代の哲学なのだから)

What is the right thing to do?

(本当に正しいこととは何なのか?)

inclusive,diversity,multiculturalism?

(包摂的、多様性、多文化共生?)

When we can respect no one,our world will collapse easily.

(お互いをリスペクトできなければ、われわれの世界は簡単に崩壊してしまう)

When we can connect everyone,our world will continue forever.

(われわれがみんなとつながったとき、世界は永続する)

When we can recognize each other,we'll be irreplaceable existence for ourselves.

(互いを認め合ったとき、われわれはお互いにとってかけがえのない存在になる)

We can describe grand narrative.

(大きな物語を描けるんだ)

We can describe no war world.

(戦争のない世界も)

We can achieve human coexistence.

(人類の共生を)

We can achieve world peace.

(そして世界の平和へと)

シャンボは、ファーストテイクで完璧に歌い上げた。彼の歌声は、まるで豪志の心の中を直接語っているかのようだった。ディレクターとFM松戸のスタッフは、その場に固まってしまった。彼らは、ただのインディーズバンドだと思っていた「アナクロニズム」が、これほどまでに深いメッセージを持つ音楽を奏でることに、心底驚いていたのだ。

やがて、スタッフの一人が、涙を拭いながら豪志に声をかけた。

「…すごい。これは、ラジオで流すだけじゃもったいない。全国のリスナーに、いや、全世界に届けたい曲だ」

ディレクターは、感動で震える声で言った。

「この曲、ぜひフルコーラスで流させてください。そして、この曲に込めた想いを、改めてじっくりと聞かせてもらえませんか?」

彼らの音楽が、ライブハウスの地下室から、ラジオの電波に乗って松戸の街へ、そして、さらに大きな世界へと羽ばたこうとしている。豪志は、自分の音楽が、精神病院で失った時間を埋めるだけでなく、誰かの心を動かし、世界を変える力を持っていることを知った。それは、彼らの「愚連隊」の美学が、ようやく報われ始めた瞬間だった。

このラジオ出演をきっかけに、彼らの運命は、再び大きく動き出すことになるだろう。しかし、その先に待ち受けるのが、栄光だけではないことを、豪志はまだ知らなかった。彼らの音楽が、光を放てば放つほど、松戸の街の深い闇が、彼らの存在に気づき始めることになるのだから。


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