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松戸愚連隊  作者: ponzi
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第5話柏市からの来訪者

豪志とシャンボの二重生活は、驚くほど順調に進んでいた。日中はライブハウス「ギフテッド」の薄暗い地下室で、彼らのバンド「アナクロニズム」のオリジナル曲を練り上げ、夕方になると、エミやノリコと共に、煌びやかなクラブ「ベーカー」へと向かう。豪志は皿洗いや雑務をこなし、シャンボは客の案内やボーイの仕事に精を出した。だが、彼らの本当の役割は、店の奥に潜むようにして、エミとノリコの身を守ることだった。

「ベーカー」での用心棒の仕事は、豪志が想像していたよりも「知的」だった。暴力に訴えることなく、言葉巧みに酔客をなだめたり、理不尽な絡みには毅然とした態度で臨んだり。彼らの「愚連隊」の美学は、この場所でこそ真価を発揮しているようだった。

そんな日々が約一ヶ月ほど続いた頃、彼らの生活にもようやくリズムが生まれてきた。朝は規則正しく起き、夜は心地よい疲労感に包まれて眠りにつく。まるで、長い空白期間を埋めるかのように、新しい日々がゆっくりと流れていった。

その夜も、いつものように「ベーカー」の営業が始まった。客足が落ち着いてきた頃、店のドアが開き、一人の客が店内に足を踏み入れた。

ジーンズに革靴、そして季節外れのトレンチコート。その客は、185cm近い長身をくゆらせながら、ゆっくりとカウンター席へと向かった。その所作には、独特の存在感があった。

ノリコが彼に近づき、声をかける。

「お飲み物は何になさいますか?」

「バナナジュース」

彼の意外な注文に、ノリコは少し驚いた表情を見せた。普通のクラブでは滅多にない注文だ。ノリコはバナナジュースを作りながら、カウンターの向こうで皿を拭いていた豪志にこっそりと囁いた。

「ねえ、あの人、誰かしら?どこかで見たことがあるような…」

豪志は客の横顔をじっと見つめ、すぐにピンときた。彼の脳裏に、かつて熱狂したスタジアムの光景が蘇る。

「…元柏レイソルの北嶋秀朗さんだよ」

ノリコは目を見開いて、信じられないといった顔をした。

「え、北嶋秀朗?!なんで、あんな人がこんなところに…」

豪志は、自分の変名の一つである**「ponzi」を思い出した。作家やミュージシャンとして活動する際に使う名前だ。そして、もう一つの名前、「gokiくん」**。それは、かつて交際していた村田美夏がつけたニックネームだった。自分の中に存在する、幾つもの「顔」。精神病院にいた頃には、そのどれもがバラバラだった。だが、今の豪志は、それらすべてを自分自身として受け入れようとしていた。

その時、客が豪志に話しかけてきた。

「君、柏レイソルのファンかい?」

豪志は一瞬言葉に詰まった。まさか、自分の正体に気づかれたのだろうか。

「…まあ、昔は」

豪志がそう答えると、客は優しい笑顔を見せた。

「なんだ、ファンならそう言えばいいじゃないか。俺は昔、よく『ギフテッド』に顔を出していたんだ。君たちのライブも見たことがある」

豪志は驚きを隠せない。彼がかつて松戸で音楽活動をしていた頃、この客はすでに彼のファンだったというのか。

「あの…」

「俺は、サッカー選手を引退してからは、柏でサッカー教室を開いている。松戸にも教え子が何人かいてね。今日はその子たちと会った帰りなんだ」

彼はそう言うと、豪志に手を差し出した。

「俺は北嶋秀朗。よろしく」

「俺は…」

豪志は一瞬ためらった。どの名前を名乗るべきか。ponziか、それともgokiか。彼は結局、一番ありのままの自分に近い名前を選んだ。

「…豪志です」

北嶋は豪志の手を力強く握り、満足そうに頷いた。

「君たちの音楽、また聴きたいな。柏から、聴きに行くよ」

その言葉に、豪志は心が震えるのを感じた。

この日、柏市からの来訪者によって、豪志とシャンボの運命の歯車が、少しだけ、しかし確実に動き始めたのだった。彼らの「アナクロニズム」の活動は、松戸の街だけでなく、隣の柏市へと広がり始めるのかもしれない。そして、彼らがこの後、北嶋秀朗とどのような形で関わっていくことになるのか、それはまだ、誰にもわからない。

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