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松戸愚連隊  作者: ponzi
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第39話小岩クリニック退院

作業療法士棟に鳴り響いた熱狂の残響が、まだ病棟の冷たい空気の中に微かに溶け残っていた。ライブの喧騒が収まり、冬の西日が差し込む廊下。そこには、満足げな表情で拍手を送っていた一人の男、院長の青山道胤が立っていた。


「おめでとう。ponziさん、シャンボさん。素晴らしいステージだった。……もう、退院だね」


青山の言葉に、豪志(ponzi)は虚を突かれたように足を止めた。


「ありがとうございます、青山先生。……でも、本当に退院していいんですか? 僕は、もっと長く閉じ込められるものだとばかり」


青山は眼鏡の奥の瞳を和らげ、静かに首を振った。


「もう長期入院で人を縛り付ける時代じゃない。特にアナクロニズムのお二人は、自分たちの哲学を音楽に乗せ、これほど多くの人々の心を動かすまでに回復している。そのエネルギーこそが何よりの寛解の証拠だ。外の世界でも、クスリさえ忘れずに飲み続けていれば、何も恐れることはないよ」


その足で院長室に戻った青山は、机の上の電話を手に取った。迷いのない指先でダイヤルされた先は、あのテリーの番号だった。


「……悪いな、テリーさん。この話は、なかったことにさせてもらう」


受話器の向こうから、地鳴りのような怒声が響く。


「な、なんだと! 青山先生、お孫さんがどうなってもいいというんですか? 写真一枚で震え上がっていたのはどこの誰だ!」


だが、青山の声に、もはや怯えの色はなかった。


「うちの孫は、君が思っているほどヤワじゃない。それにね、テリーさん。私の孫に手を出すということは、病棟長の若狭をはじめとする小岩クリニックの全スタッフ、そして今日、彼らの音楽に魂を震わせた『アナクロニズム』の熱狂的なファン全員を敵に回すということだ。君にその覚悟があるのか?」


テリーは絶句した。暴力や脅迫という、これまで彼が信奉してきた「力」の論理が、音楽という名の「善の連帯」に敗北したことを悟ったのだ。


「……勝手にしろ! もう二度と頼まん!」


叩きつけるように電話が切れた。青山は受話器を置き、深く、長い溜息をついた。


窓の外には、自由の地・松戸へと続く空がどこまでも広がっていた。

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