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松戸愚連隊  作者: ponzi
30/43

第30話みゆちゃん

2025年11月。ライブツアーを大成功に終え、毎週金曜日の夜にホームグラウンドであるライブハウス「ギフテッド」で定期的にライブを行うようになった「アナクロニズム」。豪志とシャンボは、観客たちの熱狂的な声援に包まれながら、ステージに立っていた。

豪志は、ド近眼のせいで、観客の顔をはっきりと認識することはできなかった。彼の視界は、ステージの照明に照らされた、ぼんやりとした光と、熱狂的な人々の輪郭だけだった。しかし、ある日、シャンボが豪志に、そっと耳打ちした。

「gokiくん、あの子、いつも一番前の席で応援してくれてるね」

シャンボが指差す先を見ると、そこには、豪志の目にもはっきりとわかるほど、輝くような笑顔でライブを楽しんでいる、一人の女の子がいた。

「この間、物販でCDを買ってくれたから、少し話してみたよ。みゆちゃんっていうらしい。福祉の仕事してるって言ってたよ」

シャンボが、嬉しそうに言った。豪志は、その言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。

「へー」

豪志は、それから、その女の子、みゆちゃんに注目するようになった。ライブ中、彼女はいつも最前列で、豪志たちの音楽に合わせて、体を揺らし、満面の笑みを浮かべていた。彼女の笑顔は、豪志に大きな勇気を与えてくれた。

そして、ライブが終わった後、物販コーナーで彼女と話してみると、彼女の顔が、驚くほど可愛らしいことに気づいた。その可愛らしさは、豪志のド近眼でも、はっきりと認識できるほどだった。

その夜、ライブハウスの楽屋で、豪志はシャンボに問いかけた。

「どうなんだろうね、シャンボさん。われわれ人気者のわりには、あんまりまともな恋愛してないけど」

豪志は、自嘲気味に笑った。彼の頭の中には、エミの顔が浮かんでいた。エミとは、友人関係を続けている。お互い、深入りすることなく、しかし、互いの存在を確かめ合うような、不思議な関係だった。

シャンボは、豪志の問いかけに、穏やかな笑顔で答えた。

「僕は、くに(ブラジル)に妻と子供がいるからね。でも、gokiくんの将来の方が心配よ」

シャンボは、豪志が未だに、過去の恋愛のトラウマを抱え、そして、エミとの関係に踏み出せないでいることを知っていた。

「まともな恋愛…か」

豪志は、呟いた。彼の人生は、これまで、恋愛とは縁遠いものだった。彼は、自身の精神的な問題を抱え、恋愛をすることに臆病になっていた。しかし、みゆちゃんの存在が、彼の心に、新たな感情のさざ波を立て始めていた。

翌日、豪志のスマートフォンに、見慣れないアカウントからメッセージが届いた。それは、みゆちゃんからのものだった。

「昨日のライブ、すごく良かったです。よかったら、今度お茶でもしませんか?」

豪志は、そのメッセージに、一瞬、戸惑った。しかし、彼の心は、抑えきれないほどの高揚感で満たされていた。

「…行く。行きます!」

豪志は、震える指で返信した。

彼らの音楽活動が、思わぬ形で、新たな出会いを、そして、豪志の人生に、新たな展開をもたらそうとしていた。しかし、豪志の成功を面白く思わない影が、この、ささやかな出会いにも、すでに気づいていることを、豪志はまだ知らなかった。彼らの運命は、希望と、そして、新たな試練に満ちたものになるだろう。


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