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松戸愚連隊  作者: ponzi
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第3話アナクロニズム

その日から、豪志とシャンボの奇妙な二重生活が始まった。日中は松戸駅近くのライブハウス「ギフテッド」を拠点に音楽活動に没頭し、夜はエミとノリコが勤めるクラブ「ベーカー」で、用心棒として松戸の夜の街に身を置くことになった。

最初の数日間は、二つの生活のリズムに慣れるのに必死だった。午前中は「ギフテッド」の薄暗い地下室で、豪志はアコースティックギターをかき鳴らし、シャンボは自らの声と向き合った。当面はカバー曲を中心に演奏することになっていたが、豪志の頭の中には、すでにオリジナルのメロディーと歌詞が溢れていた。

彼はノートに三つの曲のタイトルを走り書きした。

「Cancel Culture」

「DM」

「お金では買えないもの」

どれも現代社会の歪みや、人間関係の複雑さをテーマにしたものだった。特に「Cancel Culture」は、些細な過ちも許されない現代の閉塞感を、豪志自身の精神病院での経験と重ねて描こうとしていた。

「この曲、サビでシャウトしたら面白いかもな」

豪志がそう言うと、シャンボは真剣な表情で頷いた。

「いいですね。今の世の中、みんな『正しさ』ってやつに縛られすぎて、息苦しいですもんね。俺らの『愚連隊』の美学を、音楽で表現しましょう」

二人は、それぞれの曲の構成を練り上げ、歌詞を推敲していった。時には激しく意見をぶつけ合うこともあったが、それもすべて、より良い音楽を創造するためだった。彼らの間に流れる時間だけは、まるで精神病院での空白を埋めるかのように、充実していた。

夕方、薄暗い「ギフテッド」のステージに、シャンボが立っていた。客はまばらだったが、彼は気にする様子もなく、エド・シーランの**「Perfect」**をしっとりと歌い上げた。薬の副作用で時折声がかすれるものの、その感情のこもった歌声は、聴く者の心を揺さぶった。

曲が終わると、拍手と共に店の入り口から声が聞こえた。

「やっほー。クラブ行くよー!」

振り向くと、エミとノリコが立っていた。二人は昼間の福祉施設の制服姿から一転、華やかなドレスに身を包んでいた。エミはクールな黒のタイトなワンピース、ノリコはふんわりとしたピンクのドレス。そのギャップに、豪志は思わず見惚れてしまった。

「二人とも、今日は一段と綺麗だね」

豪志の素直な言葉に、エミは照れたように笑い、ノリコは「もう!」と頬を膨らませた。

彼らが「ベーカー」に向かう道中、松戸の街は昼とは全く違う顔を見せていた。ネオンが輝き、雑踏から聞こえる声は、音楽や笑い声に変わっていた。その光景は、豪志の故郷であるはずの松戸を、まるで別の惑星のように感じさせた。

クラブ「ベーカー」は、「ギフテッド」とは対照的に、きらびやかで活気に満ちていた。重低音のビートが腹の底に響き、ミラーボールが煌めく。エミとノリコは、慣れた様子で豪志とシャンボを従業員専用の控え室に案内した。

「ここが、あなたたちの職場だよ」

エミが言った。豪志は、二人の生活が、昼と夜で完全に分断されていることを改めて感じた。

「なんか、緊張するな」

シャンボが小さな声で呟く。彼らに与えられた仕事は、店内でトラブルが起きた際に客同士の仲裁に入ったり、酔った客が女性従業員に絡んだりしないよう目を光らせたりすることだった。暴力は最後の手段。まずは知的に、言葉で解決することが求められた。

「暴力はダメだよ。あくまでも、『用心棒』だから」

ノリコがそう念押しする。彼らの「愚連隊」の美学が、ここでも試されることになる。

豪志は、控え室の隅に座り、店内の様子を観察した。様々な人間模様が、この小さなクラブの中に凝縮されている。それはまるで、彼らが精神病院で過ごした日々のように、社会の縮図を見ているようだった。

「豪志さん、もう慣れましたか?」

シャンボが豪志の隣に座り、心配そうに尋ねた。

「ああ。ここも、ある意味ライブハウスだな」

豪志はそう言って、かすかに笑った。

この夜から、彼らは松戸の街の光と影、その両面を体感していくことになる。光の中では「アナクロニズム」として音楽を奏で、影の中では「愚連隊」として正義を貫く。彼らの物語は、まだ始まったばかりだった。

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