第27話2025年10月、千葉県松戸市「ギフテッド」
秋の気配が少しずつ漂い始めた10月。音楽バンド「アナクロニズム」は、約3ヶ月にわたるライブツアーを終え、ホームグラウンドである千葉県松戸市へと帰ってきた。ライブハウス「ギフテッド」の扉を開けると、店長の斎藤さんが笑顔で出迎えてくれた。
「こにゃにゃちわ、gokiくんたち。おかえりなさい、お疲れ様。いよいよツアーも最後だね」
「ありがとうございます、店長。苦しいことも多かったですが、またツアーをやりたいです(笑)」
豪志は、疲労と達成感に満ちた顔で答えた。市川、新小岩、そして伊勢崎。それぞれの街で彼らの音楽は人々の心を掴み、その人気は、もはやローカルバンドの域を超えていた。
午後6時、ライブハウス「ギフテッド」は、ツアーのフィナーレを見届けようと集まった観客で超満員になっていた。豪志、シャンボ、そしてこの日のために再び駆けつけた湯澤さんと秀夫さん。彼らがステージに立つと、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「ただいま、松戸市!」
豪志のMCが始まると、歓声はさらに大きくなった。彼は、この日のために用意した新曲を次々と披露することを告げた。
「今日は新曲をたたみかけます。『DM』」
豪志がギターを鳴らし始めると、会場は静まり返った。シャンボの歌声が、壮大で、しかしどこかユーモラスな歌詞を紡いでいった。
『DM』
(歌:アナクロニズム)
Be my girl, I'll be a novelist, a scientist, a musician in future.
(僕の彼女になって。僕は将来、作家、研究者、ミュージシャンになるから)
And, I'll get a literary award, a Nobel Prize, a Grammy award.
(そして僕は文学賞、ノーベル賞、グラミー賞を取るつもりさ)
Furthermore, change the world as a hero like Obama.
(さらに、オバマのようなヒーローとして世界を変えるんだ)
Bear our kid, he'll be a genius, a beauty, a smart, in future.
And, he'll become a great philosopher, a famous footballer, a historical sophist.
Furthermore, achieve World Peace as a hero like Obama.
(僕らの子供を産んでくれ。彼は将来、天才で美男で聡明になるから
そして彼は偉大な哲学者になり、有名なサッカー選手になり、歴史に残る碩学になる
さらに、オバマのようなヒーローとして世界平和を達成するんだ )
I know that you are waiting for my existence
You know that I am trying to be someone
I think that we have to marry as soon as possible
I think that I have to succeed as soon as possible
(君が僕の実存を待っているのは知ってる
何者かになろうと努力しているんだぜ
僕らはできるだけ早く結婚すべきだと思う
僕はできるだけ早く成功すべきだとも思う)
豪志の壮大な夢と、それに伴う焦燥感が、ユーモラスな言葉で表現される。それは、彼の根底にある、何者かになりたいという強い願望と、それが満たされないことへの葛藤を物語っていた。
Be my girl, we'll make a warm, friendly family in future.
And, you'll become the most rich, a famous journalist, a great mother.
Furthermore, become prime minister as a heroine like Merkel.
(僕の彼女になってくれ。僕らは将来、温かくフレンドリーな家庭をつくるのさ
そして君は世界一富貴で、偉大なジャーナリスト、偉大な母親になる
さらに、メルケルのようなヒロインとして総理大臣になるのさ)
Bear our kid, we'll accept any narrative, any person, any fake.
And, we'll become a philanthropist, a good-natured, an unselfish man.
Furthermore, surround all the world with big love someday.
(僕らの子供を産んでくれ。僕らはどんなナラティブもどんな人間もどんなウソも受け容れるんだ
そして僕らは博愛主義者でお人好しな利他になるんだ
さらに、いつの日か全世界を大きな愛で包んでしまうんだ)
Be my girl, I'll be a cineast, a designer, a sophist.
And, I hope world's stability, human's coexistence, earth's sustainability.
Furthermore, hope to continue to live as long as possible.
(僕の彼女になってくれ。僕は映画監督になりデザイナーになり碩学になるんだ
そして僕は世界の安定と人類の共存、地球の持続可能性を願っているよ
さらに、できるだけ長生きしたいとも思っている)
曲は、終盤に向けてさらに感情的な高まりを見せる。豪志のギターが、彼の複雑な感情を表現するように、激しく、そして切なく響く。
Bear our kid, he'll grow a healthy and a wander boy.
And, he'll get Academy Prize, World Cup, World Baseball Classic.
Furthermore, put all the world to rights as our hero.
(僕らの子供を産んでくれ。彼は健康なワンダーボーイに成長するはず
そして彼はアカデミー賞、ワールドカップ、ワールド・ベースボール・クラシックまで獲得する
さらには、われわれのヒーローとして世界を正しい方向へ導くのさ)
演奏が終わると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。観客たちは、豪志の壮大で、しかしどこか人間臭い夢に、心を揺さぶられたのだ。
余韻が覚めやらぬうちに、豪志は再びマイクを握った。
「次の新曲は、『キミにマジリプ』。アイドルの水城なゆちゃんへの楽曲提供を考えています」
観客から、再びどっと笑いが起こった。
『キミにマジリプ』
(歌:アナクロニズム)
キミにマジリプ、キミにガチ恋
キミはクソリプ、いつもエンジェル
いつも気になってた気の利いたポスト
アイコンから伝わるヒューマニティー
いいねするだけで精一杯のわたし
GIFをageるたびに鳴る着信音
キミに縦リプ、キミのガチファン
推しはキミだけ、恋は盲目
スマホから伝わる本物の恋
SNS時代のフィロソフィー
引用リポストされるだけでもう
リア友相手にイキってしまうわ
この曲は、豪志のオタク気質な一面を、ユーモラスに表現していた。観客たちは、彼の飾らない姿に、ますます親近感を覚えた。
キミにマジリプ、キミにガチ恋
キミはクソリプ、いつもエンジェル
キミに縦リプ、キミのガチファン
推しはキミだけ、恋は盲目
演奏が終わると、会場は再び拍手と歓声に包まれた。豪志は、その熱狂的な反応に、心が震えるのを感じた。
「そして、最後の新曲です。『偽善者』」
豪志がそう言うと、彼の顔は、先ほどまでのユーモラスな表情から一変し、真剣な眼差しに変わった。その曲は、彼らの「愚連隊」としての哲学を、最もストレートに表現したものだった。
『偽善者』
(歌:アナクロニズム)
正しいこと、本当のことを言い続け、大きな物語を紡ぎ続ける利他的なお人好し。
気候変動、環境破壊、格差拡大、世界戦争。今こそ革新をデザインするヒーローが必要。
世の中のみんなが口を揃える。「アンタは偽善者だ」と。世界を変えるスーパーヒーロー。
高卒落ちこぼれの情けない不良中年。
案外そんなやつかもしれない、坂本竜馬の再来は。
因縁をつけてからのゆすりたかり、アイツは80年ずっとそうやって生きてきたんだろう。
それを世界一の超大国アメリカの大統領になってまで続けるな、このバカチンが!
この曲は、豪志の内に秘めた、社会に対する激しい怒りを表現していた。観客たちは、彼らの音楽が持つ、単なるエンターテインメントを超えた、深いメッセージに心を揺さぶられた。
世の中のみんなが口を揃える。「アンタはキチガイだ」と。世界を変えるスーパーヒーロー。
統失落ちこぼれの情けない不良中年。
案外そんなやつかもしれない、ジョン・レノンの再来は。
世の中のみんなが口を揃える。「アンタは偽善者だ」と。世界を変えるスーパーヒーロー。
高卒落ちこぼれの情けない不良中年。
案外そんなやつかもしれない、坂本竜馬の再来は。
演奏が終わると、会場はもはや、熱狂の渦と化していた。観客たちは、彼らの名前を叫び、アンコールを求めた。
しかし、その熱狂的な空間に、不穏な空気が混じり始める。
ライブハウスの入り口に、数人の男たちが現れた。彼らは、全員、黒いスーツに身を包み、鋭い眼差しでステージを見つめていた。そして、その先頭に立っていたのは、政治結社『日本愛国連合』の幹部、テリーだった。
テリーの顔には、豪志への深い憎悪が浮かんでいた。彼は、豪志の音楽を、自分たちの思想に対する、許しがたい挑戦だと見なしていた。
「……偽善者、だと?お前が一番の偽善者だろうが、豪志」
テリーの冷たい声は、熱狂的な歓声にかき消されたが、豪志には、その言葉が聞こえたような気がした。
ライブツアーの最終日。彼らの音楽は、最大の成功を収めると同時に、彼らの運命を、新たな危機へと導こうとしていた。




