第25話2025年夏
2025年の夏。豪志とシャンボ率いるバンド「アナクロニズム」は、ライブツアーを順調に成功させていた。千葉県市川市本八幡のライブハウス「ケアレス・ウィスパー」、そして東京都江戸川区新小岩のライブハウス「ペニーレーン」での公演は、連日超満員の大盛況だった。彼らの音楽は、SNSを通じてさらに多くの人々に広まり、その人気は、もはやローカルバンドの域を超えつつあった。
ライブツアーは、いよいよ後半戦に突入する。次なる舞台は、群馬県伊勢崎市のライブハウス「ギブミーラブ」。そして、ツアーのオーラスは、彼らのホームグラウンド、千葉県松戸市のライブハウス「ギフテッド」だ。
「アナクロニズム」は、秀夫さんのドラム、湯澤さんのベース、シャンボさんのギターとボーカル、そしてponziのギターと作詞作曲によって成り立っている。全員が、かつて精神病院で苦しんだ経験を持つ仲間たちだ。彼らの音楽は、その壮絶な過去を乗り越え、今を生きる力と希望を歌い上げていた。
このライブツアーの後半戦には、心強い味方が応援に駆けつけてくれることになっていた。それは、豪志が師と仰ぐ伊東乾先生、そして東京藝術大学の学生たちだ。彼らは、伊勢崎市と松戸市でのライブに、わざわざ足を運んでくれるという。
「上手く行けば、今後、伊東乾先生がアナクロニズムのプロデューサーとなり、芸大生たちがアレンジやバックバンドを引き受けてくれる可能性がある」
豪志は、そう信じていた。伊東先生のプロデュースを受け、芸大生たちの洗練されたアレンジが加われば、彼らの音楽は、さらに多くの人々の心に響く、普遍的な芸術へと昇華するだろう。それは、彼らがこれまで歩んできた、泥臭くも力強い音楽とは違う、新しい扉を開くことだった。
豪志は、さらに、ある人物たちに取材を依頼していた。それは、11年前に「碩学のファインマン事件」で関わった、ジャーナリストの津田大介さん、北丸雄二さんといった大御所たちだ。
彼らとの腐れ縁は、もう10年以上になる。当時の豪志は、精神病の診断を受け、社会から隔絶された存在だった。しかし、今の豪志は、ライブツアーを成功させるほどの人気バンドのフロントマンだ。
「さすがに今のponziを見て、だーつーたちも『知らない』とは言わないような気がしていた」
豪志は、そう信じていた。彼ら大御所ジャーナリストが、自分たちの音楽に興味を持ってくれれば、その影響力は計り知れない。彼らの音楽は、もはやインディーズシーンに留まらず、社会的なムーブメントへと発展していく可能性がある。
しかし、その一方で、豪志は、自分の音楽が、あまりに大きな注目を集めることへの不安も感じていた。それは、彼の成功を面白く思わない、プロデューサー蘭やテリーといった、松戸の街の闇に潜む勢力が、彼らの存在に気づき、静かに牙を研いでいることを、漠然と予感していたからだ。
彼らの音楽の旅路は、希望と、そして、新たな試練に満ちたものになるだろう。




