表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
松戸愚連隊  作者: ponzi
2/43

第2話再出発

真夏特有の、むっとするような朝の熱気が部屋の窓から差し込んでいた。カーテンの隙間から漏れる光が眩しくて、豪志はゆっくりと目を開けた。見慣れない天井と、部屋の隅に置かれた観葉植物。ああ、そうだ、昨夜はエミとノリコのアパートに泊まったんだった。

隣で眠っているはずのシャンボの姿がない。代わりに、エミの声が台所から聞こえてきた。

「ずいぶん寝たねー。10時間くらい寝てたよ」

豪志は慌てて身体を起こした。時計を見ると、午前九時を過ぎている。

「すみません、泊めてもらった分際で、こんな時間まで…」

「いいのいいの。遠慮しないで。朝だけど、お風呂入っちゃってよ」

洗面所にはタオルと新しい歯ブラシが用意されていた。彼女たちの細やかな気遣いが、豪志の心を温かく満たしていく。シャワーを浴びてリビングに戻ると、トーストの焼ける香ばしい匂いが漂っていた。シャンボはもうすでに食卓についている。

「豪志さん、朝ごはん、食いましょう!」

テーブルには、トーストにミルク、サラダ、ウィンナー、そして目玉焼きが並んでいた。質素だが、豪志にとっては刑務所暮らしと何ら変わらなかったこの数年間で、最も贅沢な食事だった。

「ありがとうございます、エミさん。泊めてもらった上に朝食まで…」

「いやいや。でも、それで二人はこの後どうするつもりなの?」

エミの問いかけに、豪志は少し戸惑った。彼女に話していいことと、そうでないことの境界が曖昧だった。だが、正直に話すのが最善だろうと判断した。

「精神病院から脱走してきたんで、捜索願いも出てると思います。まともな職にも就けそうにないですし…正直、弱ってます」

豪志がそう言うと、シャンボが口を挟んだ。

「俺らにできることと言えば、サッカーと音楽くらいしかないんですよね」

シャンボは真剣な表情で、これからのプランを語り始めた。

「とりあえず、豪志さんと二人で、ポップ音楽バンド**『アナクロニズム』**を結成したんです。作詞作曲もできるし、日本語、英語、スペイン語の曲のカバーもできる」

「すごいね!じゃあ、プロを目指すの?」

ノリコが台所から戻ってきて、目を輝かせた。

「あとは、戸籍を新しく作って、イビツァ・オシムと村田美夏の子供、『オシム・村田・豪志』としてジェフ千葉のトライアウトを受けてプロサッカー選手になるか…」

シャンボの突拍子もない発言に、豪志は思わず吹き出した。

「それは、お前が熱狂的なジェフ千葉サポーターだからだろ」

「それだけじゃないですよ!オシムさんのサッカー哲学は、俺らが考える『愚連隊』の生き様と一緒なんです。正義を貫いて、美しいフットボールをする。暴力に頼らず、知的に相手を打ち負かす。それが、俺らの『愚連隊』です」

豪志とシャンボの「愚連隊」は、喧嘩や暴力とは無縁だった。むしろ、不条理や不正義に対して、知性とユーモアで立ち向かうことを美徳としていた。だからこそ、彼らは「愚連隊」を名乗っていた。

「なるほどね。でも、戸籍を作ったり、ジェフ千葉のトライアウトを受けるのは、もう少し先の話として…」

エミは、豪志とシャンボの突飛な発言を笑い飛ばしつつ、現実的な話を切り出した。

「現実的には、まずは松戸のライブハウス**『ギフテッド』**で音楽活動をして、地道にファンを増やしていくのがいいんじゃないかな」

「そうだね。それが一番現実的だ」

豪志が頷くと、エミはさらに踏み込んだ提案をしてきた。

「あと、二人にやってもらいたいことがあるんだけど…」

彼女は真剣な表情で続けた。

「わたしとノリコ、昼間は福祉施設で働いてるんだけど、夜はホステスとして働いてるの。その夜働いてるクラブの方で、用心棒というか、ボディガードを探してるのよ。松戸も不良客とかヤクザとか、最近物騒になってきちゃって」

その言葉に、豪志は思わず息をのんだ。彼らは暴力から離れ、音楽で生きていこうとしていた。だが、エミとノリコのため、そして自分たちの自由のため、再び厄介事に首を突っ込むことになるかもしれない。

「私たちだけじゃ、どうにもならないことがあって。でも、あなたたちなら、きっと…」

エミの瞳は、まるで助けを求めるように豪志とシャンボを見ていた。彼らの「愚連隊」としての正義感が試される時が、早くも訪れたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ